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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.26」

“優秀な”『半沢直樹』は銀行を辞めるべきか?経営者とサラリーマンの意外な感想

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『半沢 直樹』公式サイト(「TBS HP」より)
 現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。

 TBS系列のドラマ 日曜劇場『半沢直樹』が好調らしい。かくいう僕も毎週楽しみに観ている。

 このドラマは、非常に短い時間軸の中でストーリーが進行する。簡単にまとめると、自分の出世のために、ろくに調査もしないままに5億円もの融資をゴリ押しで行った結果、貸し倒れの憂き目に遭った巨大銀行の支店長が、部下の融資課長である半沢直樹に責任を押し付ける。普通の銀行員なら泣き寝入りし、関連会社に出向させられる(嫌なら辞めるしかない)ところを、半沢直樹は敢然と立ち向かい、焦げ付いた5億円を回収することで失地回復を狙うのである。

 起業家の立場からすると、いかに巨大銀行とはいえ、上司の尻拭いでそこまで嫌な目に遭うのであれば、さっさと辞めてしまえばいいと思うし、設定上、非常に優秀な人であるから、起業するなり転職するなりすればよいのでは? と思わないでもない。

 しかし、逆の見方をすれば、起業家としては銀行からそうやって有為の人材がどんどん流出してしまって、立身出世のための足の引っ張り合いをするような凡庸な人物ばかりが日本の銀行のトップを占めるような事態になってしまっては、実に困る。銀行や証券、そしてもちろんベンチャーキャピタルのような金融の世界において、内部の政争にばかり長けた“頭の良い”人たちが増えすぎることは、実社会ではよく見られることだと思うからなおさらだ。

 劇中、主人公の半沢直樹は、無慈悲な銀行に融資を引き揚げられたために倒産した、中小企業の社長を父に持つという設定だ。父親は自殺し、その後残された母子は経済的な苦労を強いられてきたため、敢えてその当事者である銀行に就職することで、ある種の復讐を心に期している。

 だから半沢直樹は、モノづくりに賭ける中小企業たちに対して人一倍支援しようとするし、彼らが作る製品の出来映えや磨き上げられた技術の意味も理解できる。バンカーとして、財務諸表には書かれていない重要な情報をきちんと汲み取ることができる、恐らく実際にはなかなかいない人材なのである。

 半沢直樹は、国税庁の役人には「汚い金貸し」と蔑まれ、5億円の融資を受けた上で計画倒産した悪徳企業の社長にさえ「晴れているときには傘を貸して、雨の日には傘を取り上げる最低の連中」と罵倒されて、言い返す言葉を失う。彼自身、父親の自殺の原因を作った銀行に対して、同じような印象を持ち続けてきたからだ。その銀行を変えようと心に誓っているとはいえ、それだけの改革を行うには、自分はまだあまりにひ弱な地位に甘んじている。その事実に苛立つのである。

 実はこの『半沢直樹』は、起業家・経営者などベンチャー界隈ではあまり評判が良くない。とっとと辞めればいいのに、と皆が言う。サラリーマンを長く続けたことがない人には、大企業で働くことの、ある種の呪縛の強さは分からないのだろうし、勤め先にしがみつく哀れさのようなものを感じるのだろう。

 逆に、サラリーマンの身から観ると、我が身を顧みるような辛さを感じるとともに、主人公の反逆精神に喝采を送るのだろう。

 しかし、僕は双方に対して、反対の見方をしてもらいたいと思っている。ひとたび大企業に就職したのなら、そこでトップを目指すことは当然だし、大企業を率いて社会的な責任を果たしていくという人材は、なくてはならない存在だ。金融業界に自己改革を全く考えないような体質がはびこっては、起業家にとっても危機的な状況になる。

 逆に、ただひたすら上司の言いなりになって、会社を変革していく努力を放棄するサラリーマンは、確かに単なる社畜である。半沢直樹の啖呵に溜飲を下げるだけではなく、同じ気概を自分も持たなければならない。

 どちらにしても、自分自身の道を決めるのは自分だ。ルールの中で戦うか、ルール無視の戦いを挑むか、いずれにしても大切なのは戦う意思を持つことなのである。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)

●小川浩(おがわ・ひろ) 
シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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