経営再建中のシャープは2013年6月25日、大阪市北区の大阪府立国際会議場で定時株主総会を開いた。液晶パネル、テレビ事業の不振が響き、13年3月期連結決算の最終損益は5453億円と2期連続の赤字(12年同期は3760億円の赤字)を計上した。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との資本提携が事実上、白紙となったこともあって、株主から厳しい質問が相次いだ。
株主総会に先立って決めた人事では、副社長の高橋興三が社長に昇格した。12年に社長に就任したばかりの奥田隆司は、代表権のない会長に就くものの、取締役ではなくなる。前社長で代表権のない会長の片山幹雄はフェロー(技術顧問)として残った。相談役の町田勝彦は無報酬の特別顧問だが、シャープを離れたわけではない。
株主総会では、主力銀行のみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)と三菱東京UFJ銀行から一人ずつ取締役を受け入れる議案を可決した。シャープは事実上、銀行管理会社になったわけだ。
総会では、相談役の町田が特別顧問にとどまることに対して、株主から「大阪商工会議所の副会頭を続けるために肩書がいるという理由で特別顧問として残ったという説明だが、町田氏は倒産の危機に追い込んだ(最高)責任者だ」との強い批判の声が上がった。別の株主は「液晶で失敗するのは素人でもわかります」と突き放した。
批判の矢面に立たされた元社長の町田が陥ったのが「選択と集中」という名の罠だった。
●オンリーワン経営
町田勝彦は『オンリーワンは創意である』(文春新書)を著している。部門ごとの壁を取り払い、技術を融合させて液晶テレビ、カメラ付き携帯電話など、それまでにない「オンリーワン」の商品を生み出すまでの体験を綴った本書は、「選択と集中」の実践論として読まれた。
1998年6月、町田はシャープの4代目社長に就任した。99年1月の年頭の挨拶で、液晶に代表される独自技術でキラリと光る「オンリーワン企業」になろうと呼びかけた。そして、「国内で販売するテレビを、05年までにブラウン管から液晶に置き換える」と宣言した。
他社と違う特徴のある商品で安定した収益を目指すという、小が大と戦う戦略だ。町田は事業の「選択と集中」を徹底した。当時、液晶事業は規模が小さく赤字だったが、液晶は世界の最先端の技術であり、シェアではトップクラスだった。
「液晶テレビ宣言」は当初、「できるわけがない」「夢物語だ」と社内の大半は否定的だった。ところが、町田の戦略は的中した。00年、液晶テレビ「アクオス」はテレビCMに女優の吉永小百合を起用して人気を博した。「アクオス」は瞬く間に国内のシェアで首位を獲得した。ブラウン管テレビから液晶テレビへの置き換えは目標の05年より早く実現した。かつて「関西の三流メーカー」といわれていたシャープはソニー、パナソニックと共に“テレビ御三家”と並び称されるまでになった。
液晶テレビの大成功で、町田は積極的に設備投資を行った。その象徴が、04年1月に稼動した亀山第一工場(三重県亀山市)である。産地名をブランド化した「世界の亀山ブランド」は、日本のモノづくりのモデルケースとなった。経済メディアは町田を時代の寵児ともてはやした。
他社にないものをつくれというかけ声だけで、素晴らしい商品ができるわけではない。それを可能にしたのは「選択と集中」だった。液晶テレビに特化すると決定してからは、経営資源を徹底的に液晶に注ぎ込んだ。多くの企業はリスクを分散するために複数の分野に投資する。しかし、それでは絶対的に優位な地位を築くことはできない。結果的に、どの事業でも三番手か四番手になる。液晶に集中投資した結果、シャープは「選択と集中」のモデル企業となった。
●一極集中のリスク
一極集中によるリスクの軽視は、メダルの表と裏のようなものだ。今になって「液晶に全面的に依存する一本足打法が仇になった」と声高にいわれているが、シャープが飛ぶ鳥を落とす勢いだった全盛期にも、一極集中のリスクを指摘するアナリストはかなりいた。テレビのような家電は、頻繁に買い替えるものではない。需要増の後に反動がくるのは、これまでも繰り返されてきたことだ。
液晶パネルからテレビまで一貫生産する戦略が当たり、業績は急上昇。08年3月期には過去最高となる売上高3兆4177億円、当期純利益1019億円を計上した。だが、08年秋のリーマン・ショックで翌09年同期は1258億円の巨額赤字に転落した。
ところが町田は急ブレーキを踏むどころか、身の丈を超えた拡大路線に突き進む。町田の後任として社長に就いた片山幹雄も、町田が敷いた「オンリーワン」路線を踏襲した。
シャープは09年10月、世界最大の液晶パネル工場である堺工場(大阪府堺市)を稼働させた。関連会社を含めた総投資額は1兆円に上った。11年秋以降、堺工場は稼働率5割の低空飛行が続き、これが命取りとなった。
「液晶のシャープ」。短期間でトップブランドに駆け上がった成功体験が、あまりにも大きすぎた。本来、「選択と集中」というのは、利益がピークに差しかかる頃には、次の商品の準備ができていなければならない。ずっと集中を続けていたらライバルメーカーに並ばれ、儲からなくなるのは自明のことだ。どんなヒット商品でも必ず寿命が尽きる。いつまでも「オンリーワン」商品であり続けることはできない。