幹部自衛官を養成する防衛大学校(以下、防大)の学生が、実際にはケガをしていないにもかかわらず入院したと偽り保険金を詐取した事件で、関与したとされる学生5人が懲戒放校(退学)処分とされることが関係者からの取材で明らかになった。本日27日16時に正式発表される見通し。
●防大筋「総勢100人程度が関与も」
懲戒放校処分となる計5人の学生の内訳は第4学年3名、第3学年2名。いずれも同校第3大隊の所属。現在、防大では第4学年の58期生から第1学年の61期生が在校しているが、関係者の話によると、事件は今回処分される5人の学生のほかにも拡大する可能性があり、既に卒業し幹部自衛官となった者を含め、総勢100人程度が関与しているとの声も上がっている。
また過去に、今回とほぼ同じ手口の保険金詐取で47期生も処分されていることから、長年先輩から後輩へと、同校内でこの手口を“申し送り”していた実態も浮かび上がった。
この事態を受け防大側では、更なる事件の拡大を恐れ、本日、5人の学生を懲戒放校することで幕引きとしたい事務官を主体とするグループと、これを契機に徹底してウミを出し切るべきと主張する自衛官を主体とするグループの対立が激化しているという。
●意外にも薄給な防大生の懐事情が事件の遠因
「今回処分されるのは、全員第3大隊所属の学生ですが、このうち何人かは、もともと第2大隊の所属。同部屋だった学生から『ケガをしたことにして、保険金を申請すればカネがもらえる』と教わったと聞いています。たまたま最初に発覚したのが第3大隊の学生だったことから、その関連で他の4人の学生も処分されるようです。しかし、以前から他の大隊でも、同様の手口での保険金詐欺の話は耳にしているので、細かく調べれば全大隊にこの手口でカネを手にした学生はいるはずです」(現役防大生)
なぜ、国税から“学生手当”という名の給与を支給されている防大生が、こうした保険金詐欺に手を染めたのだろうか。防大OBでもある現役自衛官は、次のように話す。
「学生手当といっても、その額は毎月約11万円。雑費などを引かれると、手元に残るのは6~7万円程度。そこから部活の費用や、教科書代等々もかかる。よく『給料をもらって勉強している』といわれますが、手元に残るおカネは結構少ないのです。それに国家公務員身分なので、アルバイトもできない。実家から仕送りしてもらおうにも、限界がある。だから保険金詐欺に手を染めたのではないでしょうか。もちろん詐欺行為をはたらいた学生には情状の余地はありませんが」
●問題の本質をはき違えている防衛省・自衛隊
今回の事件を受けて、小野寺五典防衛大臣は「なぜ正式発表前にマスコミに漏れるのか」と大激怒。防大側も、最初に事件を嗅ぎ付けたのが共同通信とされていることから、怒りを露にしているという。なぜなら、これを報じた共同通信の記者が防大出身者と噂されているからだ。
「自衛隊内部では、事件を報じるヤツがいなければ事件にならなかったという声も多く聞かれます。しかし問題の本質は、そうした隠蔽体質はなはだしい防大、ひいては自衛隊の腐った体質にもあるのではないでしょうか」(前出の自衛官)
また、学生からの申請をそのまま鵜呑みにして、保険金を渡した保険会社の調査も事件の遠因という声もある。
「とにかく書類をつくって申請するだけで、保険金が下りてしまうようです。こうした書類は、防大では担当指導官の押印が必要ですが、これもスキャナで読み取って偽造したものが使われたと聞きます。こんなものをそのまま通す保険会社も、体質改善してほしい」(同)
なお、この保険金詐欺の手口は、自衛隊でも長年横行していたとの声を多々耳にする。今回の防大での事件発覚を受けて、問題は防衛省・自衛隊全体へと波及する可能性が出てきた。
(文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)