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「大塚将司『反メディア的!その記事、ダマされていませんか?』」第17回

消費増税、法人減税が格差を広げる?景気への効果薄く、大企業優遇といわれるワケ

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(「写真素材 足成」より)
 安倍晋三首相は10月1日夕の記者会見で、予定通り2014年4月から消費税率を3%引き上げて8%にすると正式に発表するとともに、消費増税に伴う景気落ち込みを防ぐため、5兆円規模の経済対策のパッケージを閣議決定した。

 パッケージには、中小企業の設備投資支援策、高齢者・女性・若者向けの支援策、低所得者・年金受給者に対する現金給付などの弱者対策も盛り込まれたが、首相が切り札にしたいのは、自らが執心した法人税の実効税率の引き下げである。

 具体的には、企業負担の復興財源として導入した「復興特別法人税」を1年前倒し、13年度末で廃止する方向を明示。また、賃金を2%以上引き上げた企業を対象にした法人税減税も打ち出した。企業に対し、減税分を賃上げに回すように誘導するのが狙いだ。

 復興特別税は、東日本大震災からの復興に充てる財源約19兆円のうち約10.5兆円を調達するのが目的で、所得税、住民税、法人税に上乗せし、徴収している。その内訳は、所得税約7.5兆円、個人住民税約0.8兆円、法人税約2.2兆円で、さらに法人税の年度別税収見込みは、初年度の12年度が約4000億円、13・14両年度は各約9000億円で、この14年度の法人税分約9000億円の徴収を見送り、減税しようというのである。

 確かに、復興特別税の税目のうち、所得税と住民税は課税期間がそれぞれ25年、10年という長期間で、かつ1年ごとの税額は大きくないため、打ち切っても減税効果はあまりない上、特に所得税については規模が大きく、代替財源の確保が難しい。

 こう見ると、経済対策で復興特別税を財源に使うならば、法人税の打ち切り以外にない。しかも、政府のもくろみ通りに法人税の減税分がサラリーマンの所得を引き上げるならば、減税分の一部が所得税として国庫に戻ってくる。論理的には、最小のコストで景気下支えができることになる。

 しかし、9月27日発表の民間給与実態調査(12年分、国税庁)を見ると、現実はそんなに甘くはない。

●大企業社員にだけメリットのある減税政策

 調査によると、12年の給与所得者数(非正規を含む)は5422万人、給与総額は191兆996億円、源泉所得税額は7兆8240億円だ。これを基に、例えば復興特別法人税廃止分が全額賃上げで従業員に還元されるとすると、408万円だった平均給与は1万6600円増えることになる。しかし、11年の平均給与(409万円)を少し上回るだけで、ピークだった1997年の467万円には遠く及ばない。

 しかも、全額が賃上げに回ることはあり得ないし、もし賃上げに回す企業があるとしても、大企業だけだろう。中小・零細企業には、賃上げに回せるゆとりのあるところはほとんどないからだ。

 調査の企業規模別給与所得者数を見ると、資本金10億円以上が864万人(構成比15.9%)、1億円以上10億円未満が631万人(同11.6%)。恩恵を受ける可能性があるのは、4分の1程度のサラリーマンということになる。大企業優遇といわれるゆえんだ。

 年収別では200万円以下が1090万人に上り、全体の5分の1(20.1%)を占めている。さらに、調査では非正規労働者の平均年収を初めて公表したが168万円と、正社員のみの467万円より約300万円も少ないことが明らかになっており、今回の経済対策は格差の拡大に拍車をかける可能性が濃厚なのだ。

●大企業の経営そのものにメスを入れる必要性

 政府が日本経済をデフレから脱却させ、確実に成長軌道に乗せたいなら、新しい輸出産業を育てる以外に道はない。しかし、それには時間がかかる。国民に「結果が出るまで、待っていろ」というのでは政治的には持たないのも確かで、目先の対策として政府が賃金の引き上げに動くのは当然だ。だが、その手法はピント外れといわざるを得ない。

 日本経済凋落の責任は、政治家と官僚だけにあるわけではなく、大企業の経営者たちも同罪だ。競争力の低下の原因を円高と税負担の重さだけに転嫁し、自らの無能さを棚上げしているからだ。そんな大企業の体質を抱えたまま人参をぶらさげても、らちがあくまい。

 安倍政権は“日本を取り戻す”をキャッチフレーズにしている。ならば、まず大企業経営者に“日本的経営を取り戻せ”と、体質改革を迫るべきだ。

 最低でも、経営者に従業員を材料費などと同じコストとして扱う考え方を捨てさせる必要がある。人参をぶら下げるのはその後でなければなるまい。賃上げに誘導するための政策減税はそれに合致するが、復興特別法人税の繰り上げ廃止はいただけない。

 そもそも、復興特別税は日本人が一丸となって東日本大震災からの復興に取り組む証しだ。それには法人も個人も関係ないはずで、その一方だけを減額するのは大義に反する。しかも、賃上げにつながる可能性が低いとなればなおさらだ。
(文=大塚将司)

※本記事は、「週刊金曜日」(金曜日/962号)に掲載された大塚氏の連載『経済私考』に加筆したものです。
●大塚将司(おおつかしょうじ) 作家・経済評論家。著書に『流転の果て‐ニッポン金融盛衰記85→98』上下2巻など