ワタミフードサービス(以下、ワタミ)の社員・森美菜さん(当時26)が入社2カ月で過労自殺した問題で、ワタミ側が美菜さんの労働実態について説明を求める両親をクレーマー扱いしてきたことが、民事調停の資料などから明らかになった。
美菜さんは2008年4月、ワタミに入社。神奈川県横須賀市の「和民 京急久里浜駅前店」に配属され、同年6月12日に過労自殺、12年2月に労災が認定された。
美菜さんの両親である森豪・祐子夫妻とワタミの間で、12年11月から民事調停が行われてきたが、13年11月に決裂。それを受けて夫妻は12月9日、損害賠償などを求めて渡邉美樹元同社会長らを提訴した。
提訴後の記者会見で豪さんは、筆者の「これまでのワタミ側の対応を見たところ、クレーマー扱いされてきたのではないか」との質問に、「そうですね。(会社からすれば)単なるクレーマーなんだと思いますね」とうなずいた。
●業務に起因する自殺でも会社に責任はない?
ワタミ側が森夫妻をクレーマー扱いしていると判断する根拠は、民事調停の申立手続、調停内での森さんの質問に対するワタミ側の回答内容などによる。
特に調停手続は、ワタミが「会社に責任はないが賠償額を決めたい」として、加害者が調停を申し立てるという異例の出来事だった。
12年11月28日受付の調停申立書によれば、ワタミが求めているのは、「相手方らに対し支払うべき損害賠償額を確定すること」。この「相手方」とは森夫妻のことである。
ワタミは申立書で、まず「安全配慮義務違反があるとは考えていない」と責任を否定したうえで、森夫妻からの請求に対して示談金額を提示するなど、真摯に話し合いをしようとしたが森夫妻が応じないため、やむなく調停を申し立てたと説明する。
主要部分を引用する。
【本調停を申し立てた理由】
「そもそも、申立人[ワタミフードサービス株式会社]は、故人の自殺につき、安全配慮義務違反があるとは考えていないが、故人が業務に起因して亡くなったと認定されたことを非常に重く捉え、遺族である相手方らとは真摯に話し合いをしようと考えていた」
「そのため、上記のように、申立人は、相手方らからの請求に対し、妥当と判断した示談金額の提示を行い、法的義務のない再発防止策についても、可能な限り要望に応えるかたちでの回答をそれぞれ行ってきたのである」
「相手方らの申立人に対する直接行動の後、申立人は代理人を通じて示談について話し合う旨の回答、通知をなしているが、相手方らはこれに応じようとしない」
「そこで、申立人はやむを得ず、早期適正な解決のために本調停を申し立てるに至った次第である」