まず、公的年金の運用について、過去の例と海外の事例から考えてみよう。
まず、過去の経緯からみてみると、GPIFはサラリーマンの公的年金である厚生年金の運用事業を行う独立行政法人として2006年4月に設立されたが、その前身は年金福祉事業団(年福事業団)という特殊法人だ。運用事業は「官の財テク」として1986年度からスタートされ、00年度まで財政投融資の中で行われていた。
86年当時の財テクブームに乗じて、政府も年金資金の有利運用へと転じ、国会で当時の厚生省年金局長が「1.5%利差稼ぎ」と豪語した。01年度から今のように厚労省の責任で資金運用される方式になっているが、「官の財テク」としての性格は変わっていない。
当時、運用を行っていたのは厚生次官の天下り指定席であった年福事業団。あり余るほどの巨額な資金を使うことから、「満腹事業団」と揶揄されていた。ちなみに、巨額の年金資金をつぎ込み、各地でリゾート施設を建設し不良債権化させたグリーンピア事業も、年福事業団の仕事だった。
00年度までの財テク事業の最終的な収支尻は、累積損失約2兆円。「官の財テク」では肝心の運用実績は上がらなかった。しかし、この失敗の責任については、グリーンピア事業と同じで誰も取っていない。
一方、海外における公的年金運用の実態はどうなっているのか。そもそも一般国民に対する公的年金を国として運用しているケースはあまり多くない。08年の経済財政諮問会議において、当時の舛添要一厚労相から出された資料では、積立金が多い国の中で、カナダ、スウェーデンが株式投資比率の高い国としてあげられており、日本、米国はそうでない国、イギリス、フランス、ドイツはそもそも積立金が少ないとされていた。
その際、GPIFの積極運用を推進する有識者から、これらの国々のほかに市場運用を行っている国として、ノルウェー政府年金基金、オランダ公務員総合年金基金、アイルランド国民年金積立基金があげられていた。ただし、アイルランド国民年金積立基金は規模が小さいが、ノルウェー政府年金基金とオランダ公務員総合年金基金はそれぞれ30兆円台とそれなりの規模だ。もっとも、ノルウェーは石油収入があり、そのために市場運用しているし、オランダは公務員の年金であり一般国民の年金ではない。また、積極運用を推進する民間金融機関から、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)等の例が出されたが、受給対象者の範囲は国ではなく州であり、さらにその中でも州公務員の年金だ。
●GPIFは中抜きできる
結論をいえば、市場運用ほど国が行う事業として不適切なものはない。サラリーマンの公的年金を運用するGPIFだけの議論もうさんくさい。なぜなら、公務員の共済年金では積極運用の話が出ないことと辻褄が合わない。