ウェブ、IT業界に精通し、数多くのビジネスの立ち上げを知るリボルバー代表取締役CEOでシリアルアントレプレナーの小川浩氏。先見の明を持つと各界から注目される小川氏がIT、ベンチャー、そしてビジネスの新しい時代を独自の切り口で解説する。
4月に出版された『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』(著:ニック・ビルトン、訳:伏見威蕃/日本経済新聞出版社)が、Twitterの創業秘話が暴露されているなどとして話題になっている。
「Twitterの共同創業者が3人、という定説が実は間違いで、本当は4人だった」「Twitterのサービスコンセプトをつくったのはジャック・ドーシーではなく、本当は複数メンバーによる建設的なブレストの成果である」など、真偽のほどは定かではないが、興味深い内容である。
この中で筆者が最も面白く、意味深いと感じた部分は、創業者を含め社員全員がTwitterを「一般ユーザーに説明することが難しいプロダクトである」と考えていたことだ。共同創業者の間でも意見が割れており、ジャック・ドーシーがTwitterは自分のステイタスを公開するサービス、つまり自己表現と捉えていたのに対して、エヴァン・ウィリアムス(エヴ)は身の回りの出来事や一般的な記事をシェアするためのツール、つまりニュースパブリッシングサービスと考えていたようだ。
さらに、ジャックの考え方とエヴの考え方がミックスされることでTwitterのユニークネスが生まれていると著者は断じている。この2人はまさしく骨肉の争いをしており、互いに憎み合っているということだが、その近親憎悪的な状況がTwitterをTwitterたらしめているというのが皮肉だ。
●共同創業者間の対立がTwitterの魅力を生んだ?
Twitterは、シンプルさが最大の特徴であるとよくいわれている。140文字しか投稿できないという制限が、わかりやすくて世界中に受け入れられたと考えられているのだが、いざどのように使うものなのかを説明しようとすると、とたんに難しくなる。だからこそ創業者であるジャックとエヴの間でも意見が割れた。
ジャックは、Twitterは自分の物語を伝えるツールなのだから、投稿欄には「いま何してる?」という質問を置くべきだと主張した。エヴは、ユーザーは自分のことではなく他人の物語を伝えるツールなのだから、質問は「いまどうしてる?」でなければならない、と主張する。
非常に微妙な差異でしかないようにも思うが、結果として前者は自分が何をしているかを書くし、後者はいま自分が誰といるか、どんなテレビを見ているかなどを書くようになる。
これはある意味、アウフヘーベン【編註:止揚。ふたつの矛盾・対立する事象、立場を統合統一し、より高次な段階へと導くという意味。哲学者ヘーゲルが確立した弁証法の一つ】の成果であるといえるだろう。
しかし人間世界の場合、感情という厄介な代物が、矛盾・対立するアイデアや立場を持つ者たちに、論理的なアップグレードとは別の対立構図、いわば憎悪や恐怖といったサイドエフェクトを生んでしまう。それによってTwitterの興味深いインサイドストーリーが生まれたわけだし、Facebookやフォトメッセージアプリ・Snapchatでも、同じような血なまぐさい創業に関する裏話が流れてくるわけで、これはまさしく人間の哀しい側面であるというほかない。