いまやブラック企業の代名詞的存在となってしまった居酒屋チェーンのワタミ。そんなワタミ内部に、変化が起きているという。
今月、ワタミは2014年3月期連結最終損益が49億円の赤字となり、1998年の上場以来初の赤字に陥ったと発表。同社が運営する居酒屋チェーン「和民」の苦戦が原因のひとつとも報じられている。決算発表の記者会見で同社の桑原豊社長は、今年4月に入社した新卒社員は、目標の半分の120人だったことを明らかにした。同氏はその要因として、人手不足という外的環境の変化や、同社の成長戦略が曲がり角に来ていることを挙げた。確かに、外食・小売り業界では人手不足が生じており、本来は24時間営業の店舗では時給をアップしてもアルバイトが集まらないため、深夜営業をやめる店舗が多く出てきている。こうした動きに対し、ワタミと並んでブラック企業との批判を受けることが多い、ユニクロなどを運営するファーストリテイリングは、非正規の従業員のうち約1万6000人を地域正社員などにするなどの動きをみせている。
ワタミが人手不足なのは、これまでたびたび同社に対してなされてきた「ブラック企業」という批判が、人々に印象付けられているからなのは否めないだろう。中でも、ワタミ批判の急先鋒である「週刊文春」(文藝春秋)が、13年6月13日号で同社の労働環境の問題点を追及した記事では、ワタミグループ全社員に渡される『理念集』には「365日24時間死ぬまで働け」など、驚愕の言葉が書かれていると報じられた。
また、同誌(13年6月27日号)によると、ワタミ創業者である渡邉美樹氏が理事長を務める「郁文館夢学園」の教員に対し、著書を通じて「プライベートな時間はなく、子どものために24時間365日、全身全霊捧げます」との誓約を求め、教師の携帯電話番号を生徒に教え、「365日24時間電話していい」と伝えているとも報じられた。
しかし、今年5月14日発売の「週刊文春」(5月22日号)によれば、『理念集』にあった「365日24時間死ぬまで働け」という文言を、5月8日までに「働くことは生きることそのものである」という文言に変更するシールが配布されたという。ワタミが設置した第三者委員会から「理念集の内容を再検討することが望ましい」などの指摘を受け、自らの理念を取り下げたかたちだ。さらに、同誌は国会議員になった渡邉氏の永田町における悪評も伝えており、かつては「時代の寵児」だった同氏の凋落ぶりを印象づけている。
労働問題に取り組む弁護士や大学教授、労働組合関係者らが主催する「ブラック企業大賞」の公式サイトによれば、ブラック企業を見極める指標として長時間労働、セクハラ・パワハラ、いじめ、長時間過密労働、低賃金、コンプライアンス違反、育休・産休などの制度の不備、労組への敵対度、派遣差別、派遣依存度の高さ、残業代未払いが挙げられている。
相次ぐワタミへの訴訟
実際に、ワタミでは、女性社員が6日連続深夜勤務などで時間外労働が月140時間を超えるなどして適応障害を発症し、自殺する事件が発生した。その後、遺族が渡邉氏らを相手取り、計約1億5300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。
また、ワタミのグループ会社「ワタミの介護」が運営する施設で、当時74歳の女性が入浴中に溺死したことや、当時87歳の男性が床ずれを悪化させ敗血症になるまで放置され、その後入院した病院で死亡したことも昨年報じられている。
さらに、今年2月には弁当宅配会社「ワタミタクショク」の担当者が、独り暮らしの女性宅を弁当宅配のために訪問した際、玄関チャイムにその女性が応答しなかったにもかかわらず立ち去り、翌日死亡しているのが発見された。その女性の息子は同社と安否確認サービスの契約もしていたため、渡邉氏と宅配担当者らに損害賠償を求める訴えを起こした。
昨年5月の参議院選挙で初当選を果たした渡邉氏。「経営力で日本を取り戻す」と目標を掲げているが、日本をどうこうするより、まずはワタミの立て直しに対して創業者責任を果たしてもらいたいものだ。今回の“シール貼り”は、再建への第一歩にしても、あまりにも小さすぎるといえるだろう。
(文=本多カツヒロ)