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戸籍上の父は性行為の日で決まる?DNA鑑定のみで親子関係を決められないワケ

文=江端智一
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 それにしても、昔ならともかく、夫の子についてもDNA鑑定の事実だけで確定してもいいのではないかとは思いませんか?

 ところが、DNA鑑定だけに頼ると困ったことが起こるのです。

 仮に、上記の推定がないとすると、いつでも誰でも、法律上の父子関係を否定できてしまいます。例えば、ある資産家が死亡した後に、その遺産を相続する子どもが、親戚からDNA鑑定を強要され、血縁上の親子でないことが確定すると、いきなり相続人の身分を失うことになります。これは、現状の我が国の家族や相続などの制度を根底から揺がせることになります。

 また、このような父子関係に対する疑いを、いつでも誰でも申し立てることができるとすれば、その家庭の中の、特にその子どもの平穏とプライバシーは、風前の灯です。

 従って、父親とされた推定をひっくり返すためには、単なる届け出では足りず、以下のような訴えや調停を行うことが必要になります。

(1)戸籍上の父から、子または母への「自分の子ではない」という否認手続(嫡出否認の手続き)によるもの。「推定される」場合に使える手段で、さらに子の出生から1年以内という制限があります。

(2)子、母、血縁上の父、利害関係人から、戸籍上の父または子への「親子ではない」ことを確認する手続(親子関係不在確認の手続き)によるもの。こちらは、「推定されない場合」に、いつでもできるようです。

●300日問題対策

 さて、ここから、300日問題の話に入ります。

 300日問題は、離婚後300日以内に生まれた子の父親が血縁関係にかかわらず元夫となることで、それを避けるために母親が戸籍上の手続きを取らず、無戸籍の子どもが生じるなどの問題を指します。

先述したように、離婚後300日以内に生まれた子は、母が再婚した夫の血縁上の子であっても(DNA鑑定の結果がどうであろうが)、離婚前の元夫の子として戸籍に登録されてしまいます。たとえ元夫が、「その子、俺の子でなくてもいいよ」と言ってもダメなのです。当事者の合意だけでは、戸籍の内容を変更することはできません。

しかし、元夫が調停または裁判で、「元妻とは、家庭内別居状態だった」などと証明し「推定が及ばない」ことを主張すれば、元夫を父とする推定を覆せる可能性はあります 。

 それでは、なぜ300日問題は発生するのでしょうか?

 それは、その問題解決に元夫の協力が必要となるからです。

 300日問題は、基本的に離婚とセットで発生します。そして離婚は、多くの場合、夫婦間の関係が最悪の状態で破綻することを意味します。そんな相手に協力を求めることは、酷というものです。

そして、この問題を発生させている原因の多くは、家庭内暴力(DV)を振るっていた元夫を恐れて協力を求めないことにあるのです。このようなDV元夫との離婚は、裁判所命令によって成立することが多く、DV元夫が離婚に納得していないケースも多いのです。凶暴な元夫に、自分と子の所在が知られるような協力を求めることは自殺的行為といえるでしょう。

 つまり、母親は子と自分の命を守るために、出生届を出すことができず、子は無戸籍となってしまいます。

無戸籍の子は、住民票も作成されません(自治体によっては発行されるケースもあるようですが)ので、小学校や中学校への就学案内が届かず、入学できない恐れがあります。大人になっても運転免許やパスポートが取得できません。印鑑登録ができず、婚姻届も受理されません。銀行口座もつくれず、携帯電話も自分では契約できません。死亡届も受理されません。生まれてから死ぬまで、自分が存在していることを公的に証明する手段がないため、多くの行政サービスを受けられないのです。

 この300日問題を平和に解決するのは、凶暴な元夫が死亡するのをひたすら祈って待つしかないのが実情です。

このような状況を鑑みて、法務省は2007年5月より、300日問題に限って、医師が「生まれた子は前夫と離婚後に懐妊した」との診断書を添付することで、離婚後300日以内に生まれた子(成人も含む)であっても、再婚後の夫を父とする出生届を認めるとしました。

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