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期待の6次産業育成、なぜ成功例出ない?生産、販売、規制…立ちはだかる多数の壁

文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者
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期待の6次産業育成、なぜ成功例出ない?生産、販売、規制…立ちはだかる多数の壁の画像1「Thinkstock」より

 農業(1次産業)の高付加価値化を目指して、加工業(2次産業)、流通業(3次産業)まで取り込み、6次産業(=1+2+3)と称し官民協力して育成を図っている。しかし実際には、星の数ほどの失敗例に比べ、成功例はほとんどない。孤軍奮闘している6次産業事業者は、共通する構造的な課題に直面している。ここでは、実例をもとに典型的な仮のストーリーを描いてみた(以下、村名、人名、商品等はすべて仮名)。

 中崎村の岩谷さんは、5人の農家に囲まれて大激論になり、怒髪天を衝く怒りに震えていた。そして、情けなくなり泣きたくなった。岩谷さんは、「中崎村のへちま漬け」を製造・販売する6次産業を始め、3年目になってようやく収支とんとん、持ち出しがなくなる目途が立った。その矢先、へちまを供給してきた5軒の農家がやってきて、「へちまの購入単価を1.5倍に上げてくれ。ネット販売価格を見る限り、あんたは利益を取り過ぎだ」と言ってきた。

 自分は中崎村のことを思って隣村よりも10%も高く買っており、儲けはかつかつだと真剣に説明してもわかってもらえない。一人の農家は、儲かっているくせにと言わんばかりに、にやにやしているかに見えた。村のためにとヘトヘトへになって働いていたのに、それを彼らは「がめつく稼ぐのに必死」だと見ていたのかと思うと泣きたくなった。

期待の6次産業育成、なぜ成功例出ない?生産、販売、規制…立ちはだかる多数の壁の画像2『ビジネスをつくる仕事』(小林敬幸/講談社現代新書)

 材料費が1.5倍になると、赤字でとても事業を続けられない。一方で、それなりにブランドになった「中崎村のへちま漬け」は、中崎村産のへちまを使わないと虚偽表示になってしまう。最後は、「つまり僕が事業を続けられなくなるというのを承知で言っているのですね」「そうだ」と互いに言い放って、もの分かれとなった。

 岩谷さんは、これまでの苦労が走馬灯のように思い出されてきた。最初は、自分で徹夜してつくったホームページでネット通販を行った。しかし、一日10アクセス、受注ゼロといった日が続いた。だからといってECモールの事業者が勧める、成果報酬広告、検索連動広告、モールの販促イベントなどに全部乗っていると、とても資金が続かない。直販は、中間の流通事業者がいないので利益率が高いように見えるが、広告・販促に多額の費用がかかる。つまり、ECの壁であり、販売面の壁に直面した。

 そこで、都心の百貨店や高級スーパーに売りに行くと、百貨店に卸す値段は上代(消費者向け価格)の半分の値段だといわれた。野菜の流通マージンは低いのに、加工品となると50%も取るのかとびっくりした。交渉して百貨店の流通マージンを15%にしてもらったが、まったく売れなかった。消費者は、「キャベツ」「きゅうり」は知っているが、「中崎村のへちま漬け」は知らない。だから、店頭の人が売る気にならないと、知名度のない商品はまったく売れない。それで、自分の取り分を削って泣く泣く百貨店のマージンを30%にしたら、少しずつだが売れ始めた。つまり、流通事業者の機能を過小評価し、流通マージンを低く見積もりすぎた。一言でいうと、値建(ねだて)の壁だ。

 そうして決まった値段がネットで見られるので、農家は自分の売った材料の価格の何倍にもなっている価格を見て、岩谷さんが儲け過ぎだと感じたのである。地域のやっかみと嫉妬の壁ともいえる。

 つまり、農家も6次産業事業者も、流通業という3次産業の機能とコストを低く見過ぎてしまいがちなのである。3次産業の理解の壁だ。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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