日立製作所は執行役員副社長6人が1つの部屋で一緒に執務する「大部屋制」を導入した。日立は電力やプラントなどのインフラとIT(情報技術)を融合する社会イノベーション事業を今後の成長の原動力としており、6人はテーブルで活発に議論し、担当分野を超えて連携を強化。受注拡大やコストダウンの徹底を図るのが狙いだ。日立のような大企業が「大部屋制」を取り入れるのは極めて珍しい。
近年増加する役員の大部屋制は、導入する企業にとってはショック療法の意味合いが強いようだ。
2011年の福島第一原子力発電所の事故で危機に立たされている東京電力は、12年6月、新経営陣への移行に伴い東京・内幸町の本店にあった役員室の個室を取り払い、大部屋にした。これまで常務以上の役員は個室が与えられていたが、広瀬直己社長以下、常勤の執行役15人が大部屋に入った。同社はその理由について「全員がいつでもコミュニケーションが取れる」としている。
日本航空は経営再建中の07年5月に、東京・品川の本社ビルで執務する西松遥社長ら役員10人の個室や役員会議室をすべて廃止し、役員室を大部屋にした。役員同士の打ち合わせができるようにと、部屋の中央には楕円形の会議机を配置した。当時同社は賃金カットや特別早期退職などのリストラを行っており、経営改革の一環として大部屋を取り入れた。だが、経営悪化を止められず会社更生法を申請して倒産。西松社長はじめ大部屋の役員たちは全員、同社を去った。
シャープは経営危機が囁かれていた13年6月、就任した高橋興三社長が矢継ぎ早に改革を打ち出し、社内の意思疎通や風通しを良くするため役員の個室を廃止。大部屋では社長以下役員とともに、秘書や経営企画のスタッフまで約40人が机を並べて執務している。
●大部屋役員室の元祖はホンダ
大部屋制の“元祖”本田技研工業には、今でも社長室や役員専用個室はない。あるのは役員室という大部屋で、部屋には代表権のある役員の専用机のほか、共用の打ち合わせ用テーブルが並んでいる。同社によると、この独特の大部屋役員室が生まれたのは1964年で、発案者は創業者の1人で元副社長の藤澤武夫氏。藤澤氏は新しい価値を創り上げていくためには個人の力だけではなく役員や社員が自由に意見を交換し、個々の持てる力を結集した集団経営体制が重要だと考えた。役員同士が日頃から顔を合わせて仕事をすることで、お互いの信頼関係を高め、情報や認識の共有化を促す拠点として大部屋役員室をつくったのだという。
役員の大部屋制を取り入れる各社の事情はさまざまだが、縦割りの弊害をなくしたいという点では共通している。
(文=編集部)