トヨタ、資生堂…なぜ日本企業は消費者ニーズに“疎い”のか?ブランド戦略が“ない”理由
●レクサスにもブランド戦略はなかった
自動車業界でも同様の特徴がみられる。トヨタの高級ブランド車「レクサス」は米国市場では成功しているが、ヨーロッパを含めたその他の海外市場では苦戦している。ドイツの高級車ブランド「アウディ」「メルセデスベンツ」「BMW」に差を広げられ、世界での販売台数は、この3社合計の10分の1となっている。トヨタ社長の豊田章男氏はレクサス・ブランドの世界戦略を見直すにあたり、同社には流通チャネル戦略はあったがブランド戦略はなかったということを素直に認めた。
トヨタのような日本を代表する一流企業ですら、その成功はかつて非関税障壁だと外国勢に非難された垂直型流通チャネル制覇によってもたらされたものだ。つまり、そもそもトヨタはブランド戦略を持つ必要も、それについて学ぶ必要もなかったのだ。
家電業界でも、旧松下電器産業(現パナソニック)のナショナルショップに代表されるようなチェーンストアがピーク時には全国に2万店舗あり、ビール業界もキリンビール、アサヒビール、サッポロビールの3大メーカーが流通チャネルを独占し、他メーカーの参入を妨げていた。例えば宝酒造は57年にビール市場への参入を図ったが、流通チャネルが確保できず、67年に撤退して焼酎に特化した。サントリーは62年にアサヒの販売ルートにのせてもらうことで、かろうじて参入できた。そして、長い苦節の期間をへて、「プレミアム・モルツ」で高級ビールNo.1の地位を獲得するに至っている。
幸というか不幸というか迷うところだが、家電業界やビール業界は量販店やスーパーという新しい小売業態が既存の小規模小売店に破壊的ダメージを与えることによって、自動車や化粧品メーカーと比べて比較的早いうちに契約小売店制度という束縛から解き放たれた。つまり、B2Bビジネスではなく、本来のB2Cビジネスに早い段階で舵を切ることができた。とはいえ、家電メーカーはあいかわらずB2C戦略で苦戦している。消費者の心理を洞察できなかったことは、ダイソンやルンバのような外国勢が羽根のない扇風機や掃除ロボットで日本の消費者を魅了するのを、当初は黙って眺めることしかできなかったことからも明らかだ。
社内外にはびこる束縛をたちきることができず商品ブランドを育成できなかった資生堂は、ついに社外から元コカ・コーラ社長の魚谷雅彦氏を新社長として迎える結果に至っている。
過去に流通チャネル戦略で成功した多くの企業のブランディング能力が弱いということは、皮肉な見方をすれば必然的ともいえる。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授)