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ワタミ、不振深刻で唖然とする異様な光景…料理遅い&高い&接客ワースト1

文=田沢良彦/経済ジャーナリスト
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ワタミ、不振深刻で唖然とする異様な光景…料理遅い&高い&接客ワースト1の画像1居食屋「和民」の店舗(「Wikipedia」より/Asanagi)
 ワタミの迷走が止まらない。昨年4月に値上げした居酒屋メニューを、今度は一転して値下げした。

 ワタミの清水邦晃社長は3月19日、都内で開催した「商品戦略発表会」で、同社が展開する和民、わたみん家などの居酒屋のメニューを4月から値下げすると発表した。

 例えば、生ビールは税抜き価格を490円から450円に、ハイボールは同450円から290円に、料理一皿の平均単価は現行から約1割、それぞれ値下げする。これにより、全メニューに占める300円未満のメニュー比率が21%から41%に増える一方、500円以上の比率は24%から9%まで減少するという。

 清水社長は「料理やサービスのレベルが低く、昨年4月以降の値上げで顧客に価値を感じてもらえなかった」と、今期の業績不振要因を分析。その反省を踏まえ「約10年ぶりの大幅値下げで顧客満足度の向上を図りたい」と、商品戦略転換の理由を説明した。これに対して、会場内からは「ワタミは値段の上げ下げしか能がないのか」とのつぶやきも聞かれたが、同社の不振は深刻さを増す一方だ。

時代錯誤の「値下げ商品戦略」

 同社が今年2月に発表した2015年3月期第3四半期(14年4-12月)連結決算は、売上高が前期比4.2%減の1180億円、営業損益が3億円の赤字、最終損益が56億円の赤字だった。同時に発表した通期業績は売上高が前期比6.8%減の1520億円、営業損益が13億円の赤字、最終損益が70億円の赤字の見通し。営業利益も最終利益も期初の黒字予想から一転、2期連続の赤字がほぼ確実になっている。この連続赤字の主因が主力事業の外食部門だ。

 上記連結決算における国内外食部門の売上高は前期比11.7%減の468億円、営業赤字は27億円(前期は7600万円の赤字)。9店舗を新規出店した一方で、58店舗の撤退を行っている。海外外食部門も6400万円の営業赤字(前期は2億3000万円の黒字)だ。

 同社はメニュー単価を上げて付加価値を提供するという商品戦略の下、この10年間は値上げを続けてきた。特に14年度は一気に15%も平均単価を値上げしたが、それが誤算だった。

 清水社長は「私たちが創業した時の思いは、居酒屋での飲食を楽しんでもらおう。そのために『少しでも安く、少しでもおいしく』を目指してきた。その後は『付加価値の高い居酒屋』も目指して努力してきた。ところが、それが居酒屋に安さだけを求める顧客とのギャップになった」と釈明する。

 そこで今回、約10年ぶりに価格を全体的に引き下げ、「創業時の原点に立ち戻る」(清水社長)というわけだ。

 しかし、株式市場関係者の大半は「値段を下げれば客が集まるとの認識は、時代錯誤も甚だしい。ワタミは居酒屋に対する消費者ニーズをちゃんと把握しているのか」と、今回の値下げ戦略に首をかしげる。

 業界関係者のひとりは「ワタミの外食事業不振要因は、同社の業態自体にある」と指摘する。近年は海鮮、鶏肉などメイン食材の魅力を前面に押し出した「専門居酒屋」が人気を集めている。一方、和民に代表される「総合居酒屋」は、どの店も金太郎飴のように同じメニューしかないため、かつての価格優位性が薄れ、消費者の選択肢に入らなくなっている。「今や居酒屋に安さだけを求める客はいない」(前出関係者)のだ。

社内求心力も役員レベルで低下

 一方、証券アナリストの一人は「昨年4月の値上げは誤算だった。だから『創業の原点に立ち戻って値下げする』という、安易な商品戦略を大々的にPRすること自体、同社のどうしようもない迷走を象徴している。その要因は社内にある」と指摘する。

 話は9カ月ほど前にさかのぼる。同社は昨年7月、主要事業会社3社の社長を玉突きで入れ替える人事異動を行った。「下期の反転攻勢に向け、経営体制を一新する」のが名目だった。そして迎えた昨年11月初めの中間決算発表会。それに出席した証券アナリストや記者は、唖然とする光景を目撃した。それは、各事業会社の新社長が上期の業績を総括する場面での出来事だった。

 新社長3名が各事業会社の上期の施策3~4項目を「○、△、×」で評価するくだりで、そのほとんどが「×」だった。その理由も「戦略の誤り」「顧客ニーズとの乖離」などと、施策自体を根本的に否定し、公然と前任者の批判をする異様な状況だったのだ。

 そこには「役員が一致団結して苦境を打開しようとの姿はなく、互いの足を引っ張る権力争いが社内で日常的に行われているさまを垣間見る思いだった」と、前出アナリストは振り返る。同社の場合、役員レベルですでに社内求心力が低下しているようだ。

 そして、この発表会の場でワタミの外食事業は、桑原豊前社長が進めてきた「高付加価値・高単価」路線から一転、かつての低価格路線に逆戻りし、今回4月からの値下げとなった。

 しかし、桑原前社長が上期に進めていた「リブランディング」(メニューの刷新によるブランド再構築)戦略は、単純な値上げ策ではなかった。有名食品メーカーとの提携による乳製品の活用、国産食材にこだわったメニュー開発など「ワタミのこだわり」で専門居酒屋に対抗しようという施策だった。それを清水社長は「戦略の失敗」として一刀両断に切り捨てたのだ。

 前出アナリストは「清水社長の低価格路線は、消費者ニーズを調べた結果として、桑原前社長が実施した値上げが『ニーズと乖離していた』と判断したのではなく、値上げしたが思ったような成果が表れないので今度は下げてみるといった場当たり感が強い。値下げするのはよいが、食材の値上げが相次いでいる中で、どのように原価を吸収するつもりなのか」と、メニュー品質の低下による客離れ加速を心配する。

居酒屋チェーンにおける存在感低下

 役員間の不仲はさておき、ワタミの迷走はなぜ止まらないのだろうか。外食産業のブランディングプランナーの一人は「ワタミ特有の独善的体質が、市場変化に対応できない理由」と指摘する。

 ワタミが東京・笹塚に居酒屋チェーンの和民1号店を開業したのは1992年。当時の居酒屋チェーンは養老乃瀧、村さ来など、中高年男性がたむろする、照明の暗い「赤ちょうちん」が主流だった。そんな中でワタミは「飲むだけ、食べるだけでなく、時間・空間を楽しむ居食屋」と名付けた業態を開発、先発居酒屋チェーンとの差別化を図った。

 照明の明るい家庭的な雰囲気の店内で、「お袋の味のような料理を食べ、酒も飲める」目新しさが独身の若者たちを引き寄せた。当時を知るワタミOBは「開店前から客が列をつくっていた。席が空くまで、入り口で客が1~2時間待つのも普通だった」と、当時の盛況ぶりを懐かしむ。財布が軽い若者グループが何度も来店できるよう、値段も先発居酒屋チェーンより低めだった。

 同社は90年代から00年代半ばまで、年50~100店のペースで居酒屋を出店した。その急成長ぶりから、創業者の渡邉美樹氏はメディアから「外食産業の風雲児」ともてはやされ、講演会などにも引っ張りだこのスター経営者になった。その勢いで、ワタミは老人介護施設事業や弁当宅配事業に参入した。

 ところが、ワタミの急成長をきっかけに居酒屋チェーンの市場環境が変化していった。魚民、甘太郎など、和民の居食屋をまねたチェーン店が増える一方、08年9月のリーマンショック発生以降、居酒屋チェーン業界の減速が鮮明になった。

 雇用環境が不安定になった影響からか、アフターファイブに縄のれんをくぐるサラリーマンや、合コン、サークルの打ち上げなどで居酒屋を利用する学生グループが激減したのが原因だった。必然的に居酒屋チェーン間で減少した客の奪い合いが起こり、価格競争が激化した。

 09年にワタミが「生ビール100円値下げ」を打ち出すと、他社もたちどころに追随、その後は10円単位での値下げ、全メニュー均一価格などの価格競争が居酒屋チェーン業界に広がった。

 価格競争の激化で客の選択肢が低価格店に絞られ、近隣で一番安い店に少ない客が吸い込まれてゆく。客が来ない店は、さらに価格を下げて客を呼び戻そうとする。居酒屋チェーンは、そんな負のスパイラルに陥った。それを仕掛け、その渦中にいたのがワタミだった。

 さらに、11年3月の東日本大震災以降は、飲食に対する消費スタイルも、安さを第一に追求する「安さ納得消費層」と、飲食に付加価値を求める「プレミアム消費層」の二極化が鮮明になった。

 安さ納得消費層は、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで買った酒と総菜を自宅で飲食する「宅飲み」、回転寿司やファミリーレストランでの「ついで飲み」を好み、プレミアム消費層は「○○記念日」、自分への褒美など「ハレの日」に居酒屋より贅沢な飲食店を好むようになったといわれている。

 結果、価格競争に明け暮れている居酒屋チェーンは中途半端な業態になり、外食市場での存在感が薄れていった。そんなところへ、値下げのために人件費を削るなどで「接客サービスが業界ワースト1」と不名誉な烙印を押されているワタミには、近年「料理が遅い」「量が少ない」「値段が高い」「接客が悪い」といった不評が定着している。

 前出プランナーは「メニューや値段をいじった程度で、今の不振から脱却するのは不可能に近い」と断言する。ワタミの迷走は今後も続きそうだ。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

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