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江川紹子の「事件ウオッチ」第29回

【ドローン少年】はなぜ逮捕されたのかーー警察の苦渋と残された危惧

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御開帳行事中の善光寺でドローン落下事故を起こした少年。警察のたびたびの注意にも耳を傾けず撮影・投稿を続けていたが、逮捕には賛否が分かれた(画像は、少年が配信していた映像より)。

 世の中には、正しいか間違っているか、適切か不適切か、すっぱりと分類しにくい事柄がしばしばある。

 いわゆる”ドローン少年”の逮捕も、その1つだ。

「祭りの上空撮影」で逮捕の是非

 少年の直接の逮捕容疑は、東京・浅草の三社祭にドローンを飛ばして撮影すると示唆する動画を配信したこと。主催者や警察に余計な警備を強いたとして、威力業務妨害に当たるとされた。

 彼はこれまでも、長野・善光寺で御開帳の法要中にドローンを落下させ、また東京の国会議事堂近くでドローンを飛ばそうとしていたところを見つかっている。警視庁からは、「落下すれば危険がある」などと再三注意を受けた。官邸ドローン落下事件を機に、ドローン対策に神経を尖らせている警視庁としては、彼の無反省ぶりや親の監護能力からして、「これ以上放置できない」となったのだろう。

 とはいえ、ドローンを飛ばすこと自体が犯罪になるわけではない。インターネットの掲示板に犯罪予告を書き込むことについて業務妨害罪を適用するのはわかるが、お祭りを上空から撮影したからといって、誰かになんらかの害悪をもたらすわけではない。善光寺での落下も、少年はわざと墜落させたわけではないようだし、三社祭で飛ばしたからといって、害悪がもたらされる危険性がどれほどあるのかも不明だ。官邸ドローン落下事件以前なら、少年の行為がとりたてて問題にされることもなかっただろう。そうしたことを考えると、15歳の少年を逮捕して勾留まですることは強引すぎるように感じる。

 もっとも、だからといって、まったく何もせずにおくことが適切だったのかというと、そうとも言い切れないのが悩ましいところだ。

 この少年は、今年2月に川崎市で起きた上村遼太君殺害事件の際には、まだ逮捕前だった被疑少年の自宅前でネット中継を行って被疑少年の実名をさらしたり、家族が出入りする様子をそのまま流したりした。この時も通報を受けた警察が職務質問を行ったが、「任意か強制か。任意なら答えない」と拒絶。「迷惑をかける行為はやめるように」との注意にも、「別に法律違反はしてない」「僕にも自由はある」と突っぱねた。そのやりとりも、彼はネット中継していた。

 ネット上で、「(被疑少年の名前などを公表することを禁じる)少年法61条を守れ」「相手のことを考えろ」などと苦言を呈せられても表情ひとつ変えず、「僕は自分の権利を行使しただけ」と意に介さなかった。

逮捕された少年の今後は

 こうした彼の言い分は、断片的には正しい。人は任意の職務質問に答える義務はない。「迷惑をかけた」という理由だけで、警察が人を従わせる権限はない。少年法61条は罰則を伴わず、強制力はない。彼にも、当然のことながら、表現の自由はある。

 ただ、世の中は権利と義務だけで回っているわけではない。今も、ネット上に残る彼の動画を見ていると、人間が社会生活を営む根源的なところで、「この子はこのままで、大丈夫なのかな」と心配になる。自身の権利に対する強烈なこだわりが、硬直した発想や想像力の希薄さと相まって、心のバランスの悪さをもたらしているように感じられてならない。

 私は専門家ではないので断定的なことは言えないが、そのような彼のふるまいを見ていると、これは刑事司法の領域ではなく教育や心のケア、福祉などの範疇に属する事柄なのではないかという気がする。また、少年をファンの大人たちが物心両面で支え、より過激な動画配信をしようという使命感、やる気、自信を煽り、資金も提供するネットでの動画配信のあり方の問題でもある。

 そうした分野の困り事が、すべて警察に持ち込まれ、そこでなんらかの対応をしなければならないという仕組みが、今回のような強硬策を招いたといえるかもしれない。

 少年事件の場合、警察などが扱った事件は、すべて家庭裁判所に送られる。殺人事件や傷害致死事件など、罪が重い重大事件に関わったとされる14歳以上の少年は、検察から家裁へ送られた後、検察に逆送致されて大人と同じ裁判を受けることがある。しかし今回の少年は、そうした重罪を犯したわけではないため刑事司法の流れには乗らず、今後は家庭裁判所がなんらかの保護処分を行うことになるだろう。その過程で、観護措置決定をして少年鑑別所に一定期間収容するか、少年をとりまく環境を調整するか、必要な専門家のアドバイスやカウンセリングを受けさせるなど、今の彼に必要な措置や支援が施される可能性もある。