日本の通信事業最大手である日本電信電話(NTT)が、次々に30代派遣社員のクビ切りを行っているらしい。民営化から30年、アメリカ式の経営指標を最重視してコストカットに邁進中で、社内は疲弊しブラック企業化しているという。
NTTといえば、政府(財務大臣)が30%超の大株主であり、電話回線の維持などの義務を背負う特殊会社だ。1985年に民営化し、グループ会社にNTTドコモ、NTTデータ、NTTコミュニケーションズなどを抱える。2015年3月期実績は売上高約11兆円、営業利益は約1兆円だ。NTTは現在、18年3月期実績で営業利益の1兆4000億円への引き上げを目指している。
「経営指標としてNTTが最も重視するのは、日本で一般的に用いられるROE(株主資本利益率)ではなくEPS(一株当たり当期利益)です。NTTの説明によれば、ROEは自己資本が分母に来るので、発行済株式数が分母に来るEPSのほうがわかりやすいということなのですが、EPSはアメリカで重視される指標で、株価に大きな影響を及ぼすために、株主や一般投資家のための指標とされています」(経営ジャーナリスト)
営業利益の引き上げ目標をNTTが最も重視する、EPSに照らして見れば、15年3月期の474円を18年3月期に700円以上に成長させるということを意味する。
コストカットの影響を受ける特定派遣社員たち
「株主の期待に応えるべく、NTTはグループ全体の営業利益を1兆4000億円にするようにとの社内通達を出していますが、各部署でできることはコストカットくらいしかありません。その直撃を食らっているのが契約社員や派遣社員です。コストカットの対象として、真っ先に雇い止めが始まっているのです」(同)
そんな被害を受けた一人なのが、通信技術者としてNTTに派遣されているAさんだ。通信技術者は、派遣法では通訳や秘書、事務機器操作などと並ぶ26の専門業務のうちのひとつとされている。こうした高いスキルが求められる専門業務は、これまでは特定派遣と呼ばれ、届出制の派遣元会社に正社員として雇用され、派遣先企業に派遣されるかたちを取っていた。一般派遣よりもスキルが高い分、報酬も高かった。
これまで3カ月ごとの派遣契約で派遣元会社より派遣されてきたが、この今月末までで契約の終了が通告されたのだ。Aさんの働く部署は通信技術系のスキルが要求されるが、派遣社員がほとんど対応している。そのため特定派遣社員ばかりだったが、ここにきて次々に特定派遣から一般派遣へ派遣労働者の切り替えが進んでいるのだ。
「現在、国会で議論が進んでいる派遣法改正によって特定派遣が廃止され、すべて一般派遣になります。政府側の表向きの理由は、届出制の特定派遣会社には脱法的な業者も多いため、許可制の一般派遣会社に統一しようというものです。一方、企業側からすれば、報酬の高い特定派遣から安い一般派遣へ労働者の切り替えができて、コストを削減できるというメリットがあります」(同)