シャープはこれまでも巨額赤字を計上して経営危機が取り沙汰されてきたが、今回との決定的な違いは資金繰りである。これまでの巨額赤字は評価損の計上など会計上の措置で、自己資本は減っても資金繰りには影響は、ほとんどなかった。しかし電機、金融業界内では、「すでに資金繰りはかなり悪化し資金ショートの危機に陥っている」(金融筋)とも取り沙汰されている。会員制情報誌「FACTA」(ファクタ出版/11月号)が「年末までに現金が底を突く」と報じるほか、すでに複数のメディアが資金繰り悪化の懸念を指摘している。
資金繰りの危機を乗り切るには、主力銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が、つなぎ融資をしなければならない。2015年3月期に2223億円の純損失を出した際には、両行から計2000億円の出資を受けて乗り切った。債務を株式に切り替え、倒産を避けるために会計上の処理を手助けしただけで、新たに現金を出したわけではなかった。
追加融資には、年内にまとめる再建策、具体的には液晶事業の売却が絶対条件になる。このため、シャープは液晶事業を分社化し、他社から出資を受けることを検討している。当初は台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が有力候補だった。鴻海はシャープがテレビ事業の不振で経営危機に陥った12年、液晶などをつくる子会社、堺ディスプレイに出資した。
しかし、経済産業省はホンハイに液晶技術が流出することを嫌った。そこで浮上してきたのが、同省所管の官民ファンド、産業革新機構による出資案だ。革新機構が出資した場合、同機構が筆頭株主(35.5%を出資)のジャパンディスプレイ(JDI)との統合が取り沙汰される。
新「日の丸液晶」
国内の液晶事業はスマートフォン向けの中小型パネルが主戦場になった。国内大手はシャープとJDI。韓国LGディスプレイを含めた3社で米アップルのiPhone向けの供給を独占している。JDIは日立製作所、ソニー、東芝の液晶事業を統合し、産業革新機構が7割を出資して12年に誕生した。このとき合流しなかったシャープが加われば、名実ともに「日の丸液晶」が誕生する。