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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第51回

販売出身者はゴミのような扱い、無能な記者が牛耳る巨大新聞社

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販売出身者はゴミのような扱い、無能な記者が牛耳る巨大新聞社の画像1「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人を呼び出す電話が…

 東京駅前、五稜ビル34階の「吉祥(きっしょう)」は、京都にある懐石料理の老舗の東京店である。

 日本ジャーナリズム研究所首席研究員の深井宣光と吉須晃人が店に入ったのは、約束の午後6時の5分前だった。会長の太郎丸嘉一は、まだ着いていなかった。

 案内された部屋は淡いベージュをベースの色調にまとまっていて、シックな雰囲気を醸し出していた。出入口の正面には小さな窓があり、そこから皇居方面が展望できる。深井は窓に駆け寄った。手前に漆黒の皇居の森、その先に新宿の高層ビルの灯りが見えた。

 「日が沈んで10分くらいだけど、もう駄目だ。今日は曇りだったから仕方ないか」
 「なんだい。深井君、何か、見えると思ったのかね?」
 「見えないのはわかっていましたけど、富士山を見るのが好きなんですよ」
 「そういうことか」

 吉須は窓に向かって右側の奥の席に座った。正面の壁には書の掛け軸が掛かっていた。深井は窓際から戻り、隣の席に着いた。すぐに、仲居がお茶を持ってきた。

 「太郎丸さんがお見えになるまでお飲みになりませんね」
 「それでいいよな、深井君」

 左隣の深井が頷くと、仲居は部屋を出て行った。
 「太郎丸さんの来る前に、聞いておきたいから、さっきの続きを話してくれよ」

 アイリッシュ・パブを出ると、吉須は深井に「国民新聞の歴史を説明してほしい」と頼んだ。新聞業界の歴史を調べているのを知っていたからだ。歩きながら、深井は説明を始めた。

●庶民派・リベラルな論調で一貫している国民新聞

 国民新聞は戦時中の新聞統制で、当時の東京5大紙の大都新聞・東京毎朝時報・伝報新聞・都新聞・萬新報のうち、伝報新聞・都新聞の2社が合併して発足したこと―。

 前身の1社である伝報新聞は、明治5(1872)年に東京・日本橋で創刊され、最古の大都新聞の前身、東都新聞の創刊よりは5カ月遅いこと―。

などの説明が終わったところで「吉祥」に着き、話が途切れていた。

 「戦時中に2社が合併して発足し、2社のうち伝報新聞のことは話しましたよね。リベラルな論調はもう1社の都新聞の伝統を受け継いでいるんです」

 都新聞は明治17(1884)年に東京・浅草で創刊され、首都圏で部数を伸ばした。庶民の新聞として無産階級を読者ターゲットに軟派情報を売り物にしていたこともあって、論調はどちらかといえば左寄りだった。

 伝報は上位の大都新聞、毎朝新聞(戦後は日々新聞)両社のような全国展開を目指していたこともあり、論調に特徴はなかった。国民新聞は、戦時中はともかく、戦後は「庶民の新聞」という旧「都」の特徴を前面に打ち出し、全国紙としての地位を不動のものにした。

「国民のリベラル路線は、太郎丸さんの思想信条の影響じゃないんだな」
「そうなんですよ。国民の戦前からの社風や体質が大きいんです。その土壌が太郎丸さんのようなジャーナリストを生んだといったほうがいいですね」
「そういえば、国民は『リベラル派』の牙城と言われていたという話を聞いたことがある」
「うちとか吉須さんの日亜は風見鶏で、戦前から左に右に行ったり来たりして、鵺(ぬえ)みたいに正体がはっきりしません。でも、国民新聞は戦前はもちろん、戦後も冷戦構造の間は一貫して論調はリベラルで筋が通っているんです」

「でも、冷戦構造は20年前に終焉してしまったぜ。それに、今は大都も日亜も市場原理主義信奉で筋が通っているぞ」
 「それはそうかもしれないけど、遠からず市場原理主義が日本を駄目にしたとはっきりします。いつ豹変するかわかりませんよ」
 「冗談、冗談。そうむきになるなよ」
 「むきになっていませんよ。ジャーナリズムとして理念があると言えるのは国民だけです。ソ連崩壊後もリベラル路線を巧みに修正しましたが、今は“公正”を掲げています」

●新聞業界全体が下降線をたどる中、部数増の国民新聞

 「少し持ち上げすぎじゃないか」
 「そうですね。大都や日亜に比べればましだ、という程度です。“公正”という概念はいまひとつはっきりしないし、国民の論調もいつも一貫しているわけじゃないですし…」
 「別に、俺も君の意見に反対なわけじゃない。同じような感じは持っている。だから、部数だってうちや大都が減り続けているのに、国民は増えているらしいじゃないか」
 「国民は700万部に乗せ、うちを抜くのは時間の問題です。ひょっとすると、来年にはトップになっているかもしれないという見方も出ています」

 「その話、俺も聞いている。でも、それは国民の販売力が大きいというじゃないか」
 「確かにそうです。太郎丸さんの後任社長の三杯(守泰=さんばいもりやす)さんは販売部門出身です。大手3社で、社長が販売部門出身だったことはあまり例がないそうです」
 「うち(日亜)も大都も販売部門というだけでゴミみたいに扱われているだろ。まあ、編集部門の優秀な連中が会社を動かすなら、それでもいいが、そうじゃない。編集のゴミみたいな連中が跋扈(ばっこ)している。部数が減って当たり前なんだな」

BusinessJournal編集部

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