公的年金の「暗黙の債務」、15年間で1.6倍の1110兆円に-将来世代にツケ先送りか
政府部門の債務残高は約1000兆円超に達し、財政の持続可能性を脅かしているが、さらに“見えない債務”も存在する。その一つが、賦課方式年金が抱える「暗黙の債務」であり、公的年金(国民年金+厚生年金)が抱える暗黙の債務は約15年間で1.6倍になり、現在は1110兆円にまで膨張している。債務は現在世代と将来世代で負担する必要があり、深刻な状況にあるため、今回はこの「暗黙の債務」を簡単に説明したい。
まず、賦課方式年金が抱える「暗黙の債務」とは何か。それは「積立方式であれば存在していた積立金と、実際の積立金との差額」(※)として定義される。
積立方式での債務の存在は明らかな一方、賦課方式には、このような債務が存在しないようにも思えるが、この見方は正しくない。これは、賦課方式年金と同等の政策(同じ効果をもつ政策)が、「公債発行・課税政策に、完全積立方式の年金制度を組み込む」ことによって実行可能であることから導かれる。
そもそも、賦課方式は、(1)制度発足時の老齢世代は負担ゼロで現役世代から移転を受け取り、(2)それ以降の老齢世代は現役期の負担と引き換えに現役世代から移転を受け取る、というものだ。すなわち、現役世代から老齢世代に世代間所得移転を繰り返す方式であるが、(1)に対応するため、制度発足時に公債発行し、それを財源として、老齢世代に所得移転する。その後、公債が無限に大きくなるのを防ぐため、公債残高をGDPで比較して一定に保つよう租税負担する。次に、(2)と同じ効果を生み出すよう、完全積立方式の年金制度を組み込む。すると、これは、賦課方式とまったく同等の政策になる。
すなわち、「賦課方式=公債発行・課税政策+完全積立方式」の関係が成り立ち、この同等政策で発生する債務は既述の※と同一のものとなる。これは、賦課方式も暗黙の形であるが、この積立方式と同様の純債務を抱えていることを意味し、この債務は理論的には通常の公債が発行されていることと変わりない。
では、現在の暗黙の債務の規模はどのくらいか。それは、厚労省が2019年8月下旬に公表した「2019年財政検証」の資料から読み取れる。例えば、人口前提が出生・死亡中位、経済前提がケースⅢ(2029年度以降の実質GDP成長率が0.4%)における公的年金(厚生年金と国民年金)のバランスシート(運用利回りによる一時金換算)から、既述の※を計算すると、公的年金(厚生年金+国民年金)の「暗黙の債務」は1110兆円となる。GDPを560兆円とすると、対GDP比では約200%に相当する。2014年財政検証では、ケースⅢに近いもので、暗黙の債務は980兆円であったので、この5年間で暗黙の債務は130兆円も膨張した可能性を示唆する。