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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

公的年金の「暗黙の債務」、15年間で1.6倍の1110兆円に-将来世代にツケ先送りか

文=小黒一正/法政大学教授

 同様に、それ以前の債務について、筆者が厚労省の公式資料から計算したものが図表の値である。2004年の財政再計算のとき、暗黙の債務は690兆円であったが、2009年の財政検証では800兆円に膨らんでいる。すなわち、2004年に690兆円であった暗黙の債務は、2019年で1110兆円となり、約15年間で1.6倍にも膨張したわけである。

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暗黙の債務、膨張の理由

 では、暗黙の債務が膨張した理由は何か。その主な原因は、2004年の年金改革で導入した「マクロ経済スライド」が約15年間で2回しか発動されなかったためである。

 そもそも、2004年改革の主なポイントは、

(1)厚生年金の保険料は毎年0.354%ずつ引き上げ、2017年度以降は労使折半で18.30%に固定する(国民年金の月額保険料は毎年280円ずつ引き上げ、2017年度以降は16900円に固定する)

(2)基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げる

(3)財源の範囲内で給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」という仕組みを導入する

(4)「永久均衡方式」(将来に渡って永久に年金財政を均衡させる方式)から「有限均衡方式」(概ね100年間で年金財政を均衡させる方式)に改め、積立金はその財政均衡期間の終了時に給付費1年分程度を保有する方式に変更する

というものである。

 この改革ポイントのうち、最も重要な政策手段は(3)の「マクロ経済スライド」の導入である。年金額の改定率を物価や賃金の伸びよりも抑制するため、改定率を一定のスライド調整率分だけ刈り込むことで年金額を実質的にカットし、年金財政の長期的な収支均衡を図る仕組みである。

 当初、2004年の年金改革では、マクロ経済スライド調整は19年間、つまり2023年度に終了する予定であった。しかし、マクロ経済スライドは物価と賃金が下落するデフレ下では発動できないルールになっており、2014年度までは一度も発動できなかった。このため、2014年の財政検証では、マクロ経済スライドの調整期間が約30年に延び、2044年度頃に終了する予定になってしまった。その後も、2015年度・2019年度の2回しか発動できず、直近(2019年)の財政検証では、マクロ経済スライドの調整期間は約28年になり、2047年度頃に終了する予定になっている。

 すなわち、年金額の実質的カットを行う「マクロ経済スライド」が2回しか発動できず、暗黙の債務が2004年から約15年間で1.6倍に膨らんだわけである。2019年財政検証では、2047年頃に終了するとしているが、マクロ経済スライド調整が予定通りに進むとは限らず、暗黙の債務が一層膨張し、将来世代や若い世代にツケを先送りする可能性もある。年金制度は、2004年改革でマクロ経済スライドを導入し一定の解決の目途は立ったという主張も時々聞かれるが、筆者はそうは思わない。低年金・無年金の問題を含め、年金制度が抱える問題は解決しておらず、暗黙の債務の処理方法についても、しっかり議論を進めることが望まれる。

(文=小黒一正/法政大学教授)

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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