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元理事長逮捕の明浄学院、潰れる可能性があると考える根拠…異常な財務諸表を読み解く

文=島野清志/評論家
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明浄学院高等学校(「Wikipedia」より/KishujiRapid)

「火のないところ」というよりも、「非のないところに煙は立たない」と表すべきか――。

 かねてより混乱が続いていた学校法人明浄学院に、ついに当局の手が入ることになった。元理事長による明浄学院高校の校地売却手付金の着服疑惑、法人資金を流用した仮想通貨売買による巨額損失の解明に向けて、大阪地検は本部の家宅捜索を実施、大阪国税局による税務調査も始まっている。すでに大阪地検は5日、元理事長らを業務上横領の疑いで逮捕した。

 当初は、新たに着任したワンマン元理事長や、連動する理事による独裁的な運営が問題視されていたものだが、その目的は法人の運営権ではなく、それが保有する不動産の収奪であったことが明るみになってきた。いずれにしても経歴も定かではない胡乱な面々に、大学を運営する学校法人がここまで蹂躙されたのは初めてのケースではないか。21世紀以降、国内の4年制大学では16校の運営破綻、募集停止校は出ているものの、ここまで露骨で反社会的な事例はない。

 今後については関係当局の捜査、調査の進展を待つほかはないが、関係者にとって何より気がかりであるのは、今後明浄学院が運営する大学、高校がどうなるかであろう。そこで開示されている同法人の財務諸表を基に、存続の可否を含めて探ってみることにした。

特定資産が「0円」

 学校法人の財務分析に心得のある方ならば、同学院の2019年3月期の財務諸表(ネット上で閲覧可能)を見て、首を傾げるのではないか。通常の、特に問題なく運営されている大学を運営する法人のそれとは大きく異なるからだ。本来あって然るべき勘定科目がなく、普通は少額に留まるはずの勘定科目に巨額の資金が計上されている。

 まず、前期末の貸借対照表の特定資産が0円であること。学校法人の特定資産とは、主に校舎建設や校地取得、付帯施設の拡充費用の減価償却費等の引当金であり、運営の不振など不測の事態が生じた際には取り崩すこともできる。しかし同法人の場合、それがゼロなのだ。短大など小規模の学校を運営する法人では、特定資産のないところはあるが、同法人の場合は新校舎の建設を計画しているはずであり、その点からも理解に苦しむ。

 財産目録のなかの預け金、預り金が約20億円と突出して大きいのも異様である。預け金、預り金の定義は「学校法人の事業活動収入にならない、他に支払うための一時的な金銭の受け入れ額」であり、具体的には後援会、校友会費や修学旅行の積立金等が計上されることが多い。他の学校法人でも見られる科目ではあるが、同法人の場合はそれぞれ流動資産、流動負債の約9割を占めている。こちらもまた通常の法人ではあり得ない比率だ(同法人の回答は得られなかったので推測にはなるが、件の校地売却の手付金21億円をこの科目に計上したと考えられる)。

 そして長期、短期借入金ともにゼロであること。要するに無借金で運営されていたことになるが、置かれている特殊な状況を考慮すれば、とても評価はできない。連綿と続いた同法人をめぐる各種の不祥事から、日本私立学校振興・共済事業団や市中金融機関など、まともな貸し手が二の足を踏んだと考えるのが妥当だろう。

現在の形を維持しての運営は困難

 同法人の財務諸表を見ていて想起したのは、業績不振が慢性化し、苦し紛れの増資など奇手奇策を用いて、ようやく上場を維持していたゾンビ系企業のそれである。いずれも普通に機能している組織の決算書とは、かけ離れている点で似通っている。

 未曽有の不祥事、そして脆弱かつ不透明な財務内容から考えて、同法人の存続、少なくとも現在の形を維持して運営を続けることは、きわめて困難だろう。同法人の目ぼしい資産は大阪阿倍野の一等地にある明浄学院の校地しかない。近隣の坪単価から試算すると時価は約50億円になるが、問題になっている21億円は、もはや当てにはなるまい。残る30億円が無事に法人に入ると仮定しても、焼け石に水になる公算は高いのだ。代替になる新校舎の建設費用が必要とされるばかりではなく、今後さまざまなペナルティが想定されるからだ。

 まず、イメージの失墜による受験生離れは避けられない。学校法人の収入の過半は入学金、授業料、検定料であるから、運営の大きな打撃になる。また原資は税金である補助金の大幅な減額(場合によってはゼロ査定)も避けられまい。さらに不祥事の性質や経緯からも、まともな支援者がそうそう現れるとも思えない。つまるところ法人を現在のまま維持しようとしても、目先はしのげたとしてもジリ貧が続き、いずれは行き詰まってしまう。

 深刻な運営難に陥った学校法人が存続するには、企業の合理化と同様にコストの面で負荷の大きい部門を処理するほかに道はない。実際、近年に大学の募集停止を決めた学校法人は、管理維持のコストが大きい4年制大学の運営を断念して、系列の高校や中学、専門学校の運営に専念するかたちを選んでいるものが目立つ。明浄学院の場合も存続を図るのならば、縮小均衡に向かうのが最も現実的な選択肢なのであろう。

 なお同法人の財務諸表の不明な点の質問(預り金・預け金の内容及び固定資産の詳細な内訳)を、法人本部に電話連絡の上、先方の希望通りにメールで送付したが期日までに返答は得られなかった。

(文=島野清志/評論家)

島野清志/経済評論家

島野清志/経済評論家

1960年生まれ、東京都出身。経済評論家。早稲田大学社会科学部中退後、公社債新聞記者、一吉証券(現いちよし証券)経済研究所を経て92年に独立。以降、教育をはじめ、経済、株式などについての著述、評論活動をおこなう。93年から続く『危ない大学・消える大学』シリーズのほか、『この会社が危ない』『この会社が勝つ』『就職でトクする大学・損する大学ランキング』各シリーズ(共にエール出版社)など著書は100冊を超える。

Twitter:@simanokiyosi

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