「いかにも、ソフトバンクグループ(SBG)らしいやり方ですね」
そう口にするのは、スマホ評論家の新田ヒカル氏である。業績のよくない携帯電話販売ショップが次々と、ソフトバンクから閉店を迫られているという報道が、2月15日付けの「東洋経済オンライン」にあった。6割近い店舗が消えていくことになるという。これに関して、新田氏から聞いた。
「ソフトバンクという会社は、古くは固定電話の自由化の時代の新電電、ADSLの回線の普及の時でも、強引と言っていいほどに営業を推し進める社風でした。携帯電話についても同様に進めてきたわけです。こういうインフラ系の事業というのは、料金は大差がなくなるので、営業力が勝負になります。料金が一緒だったら、3大キャリアでシェアが3分の1ずつとなるのが普通です。だけど、NTTドコモやauはもともとブランドイメージも確立していたので、後発のソフトバンクは総合的な営業力に力を入れないと、シェアを広げられないということになります。そこに持っていくまでの間、(SBG会長兼社長の)孫(正義)さんとしてはゴリゴリと進めてきたのだと思います」
携帯ショップは営業戦略の要だと見えるが、それが閉店させられるのはなぜなのだろうか。
「インフラ業はシェアをぐんぐんと広げようとする時は、実店舗というのは営業的に非常に重要な役割を果たします。NTTの営業窓口というのも30年くらい前は、地方でも郵便局のような感じがありました。20年くらい前から廃止が始まって、今はゼロになりました。携帯電話も同じで、これから携帯を持ちたいという人たちがいて、直に見たり触れてみたい、使い方を聞きたいという時期には、店舗がシェア拡大の拠点となりました。
だけど、ここまで普及してきて、誰もがガラケーなりスマホを持っていて、あとは機種変更やプラン変更だけということになると、オンラインや郵送でいいということになります。店舗は次第に要らなくなっていくわけで、その場合、採算の取れていないところから閉じていくというのが合理性からいえば当然です」
営業を推し進めていく時には力になってくれた携帯ショップが、状況が変わったからといって閉店を迫られる。これは仕方がないことなのだろうか。
「採算の取れないような店舗は、開けておくと生産性がマイナスになるわけですから、経営者の観点からいえば閉じるのは当然です。ただNTTドコモやauは、それを長期的段階的に行ってきています。ソフトバンクの場合、設定したノルマが達成できなければ閉店だということで、かなり急激に進めているという印象があります。
そこからどういうことが起きるかというと、1つは押し売りですね。『これは誰もが使っているものですから』などと言って、有料オプションを強引に付けさせてノルマ達成に近づけようとするということが必ず起こります。2つ目はユーザーからの不信です。『いつもあそこで機種変更とかをしていたのに、突然店舗がなくなっちゃって不安だ』という気持ちを、ユーザーは抱くでしょう。
3つ目は代理店からの不信です。過酷なノルマを課されて、それが達成できなければ閉店させられるという経験をした販売店オーナーが、今後もし新たな業態が現れて店舗が必要になったという時に、ソフトバンクとフランチャイズ契約しようと考えるでしょうか。かなり疑問だと思います。そして倫理的な問題として、小さな販売ショップに対して、ソフトバンクのような大企業は生殺与奪の力を持っているわけで、そうした権利を濫用することのないように戒めるべきだと思います。代理店との十分な対話とか、ユーザーの理解を得る努力が欠けているように見えます」
社会への影響力
ソフトバンクによる、急激な携帯ショップの縮小は、社会にどのような影響を与えるだろうか。
「これから5Gなどの通信インフラが伸びていくと、それは社会にインパクトを与える大きなイノベーションとなります。モノのインターネットを意味するIoTや、多言語間での潤滑なコミュニケーション、完全自動運転などが、5Gで実現されると期待されています。水道や電気、ガス、鉄道、道路もとても大事なインフラですけど、これらは今後、社会を根本的に変えるということはそれほどないでしょう。だけど通信インフラについては、社会そのものを変えていくことが考えられるわけです。
したがってインフラ業を営む者は、より高い公益性を持って経営に臨まなくてはならないと思います。目先の利益を追い求めるのではなく、あまねく公平なサービスを広げていくことを考えなくてはなりません。今回のようなことがあると、果たしてSBGにインフラ業を担うのに十分な資質があるのか、ということは当然問われてしまうと思います。世の中に大きなインパクトを与えるインフラ業を、総務省から免許を与えられているんだという自覚を持って、経営に当たっていただきたいなと思います」
SBGのロゴは、「=(イコール)」の意味も持ち、誰もが公平に情報ネットワークが楽しめる世の中を実現するという決意と願望が込められているらしい。
(文=深笛義也/ライター)