「洋服の青山」を展開する紳士服大手、青山商事が今期3度目の連結業績予想の下方修正をした。20年3月期の売上高は2190億円(従来予想は2355億円)、営業損益は4億円の赤字(同90億円の黒字)、純損益は203億円の赤字(同20億円の赤字)にそれぞれ引き下げた。
新型コロナウイルスの感染拡大により入学式や卒業式の見送りが相次ぎ、スーツ需要が落ち込んでいる。1~3月は新入社員や新入学の大学生に向けたスーツの需要期にあたるが、入学式の中止などで店舗への来客が減少している。
主力のビジネスウェア事業は、オフィスのカジュアル化などで低迷。販売不振に伴う店舗の減損損失を50億円計上する。傘下の靴修理店「ミスターミニット」も振るわない。スニーカーで通勤する女性が増加し、ハイヒールの修理などが減っている。同事業を運営するミニット・アジア・パシフィックの日本事業に関わるのれん代の減損損失40億円を計上する。
昨年11月、撤退を発表したカジュアル衣料品店「アメリカンイーグル」の事業整理損84億円も計上する。アメリカンイーグルを展開する連結子会社のイーグルリテイリングは、青山商事と住金物産(現日鉄物産)の合弁会社として2010年12月に設立。12年4月に日本1号店を表参道に開店してから、19年3月末までに33店を出店した。だが、赤字経営が続き、19年3月期の売上高は122億円、営業損益は13億円の赤字。赤字が膨らみ、全店舗を閉鎖し、撤退を決めた。カジュアル衣料への進出は失敗に終わった。通期の最終赤字は創業以来、初めてのことだ。
オフィスウェアのカジュアル化でスーツ市場は年々縮小
かつてサラリーマンの必需品だったスーツの市場は縮小している。ピークは1992年で1350万着、7750億円の市場規模だった。年々落ち込み、19年は3分の1弱の2200億円程度に縮んでいるとみられている。スーツは冬の時代と長らくいわれてきたが、今や氷河期だ。
「洋服の青山」のビジネススーツの19年3月期の販売着数は204.8万着。直近ピークの14年3月期の248.2万着から43.4万着、17.5%減った。20年3月期は、新型コロナウイルスの汚染拡大により、さらに減る。右肩下がりに歯止めがかからない。オフィスウェアのカジュアル化という環境の変化がある。これまで新興企業やIT系が中心だったカジュアル化の波が大企業にも押し寄せている。
三井住友銀行は19年9月2日から、東京と大阪の本店で、行員の自由な服装を認めた。Tシャツやジーンズで出勤してもOKだ。同行の総合職は原則として勤務中はスーツ着用が決まりだったが、7月から顧客対応が少ない部署で服装を自由にする取り組みを試験導入した。参加者へのアンケートの結果、9割近くが好意的な意見だったため、通年で自由な服装を認めた。今後、顧客との接点でもある各支店でもジャケットやパンツなどを合わせたビジネスカジュアルでの勤務の試験を行う。
三菱UFJフィナンシャル・グループは昨年5月から、ノーネクタイでの勤務を通年で認めた。住友生命保険も内勤部門を中心にポロシャツなどでの勤務を通年で認めている。各社とも「お堅い」イメージの企業風土を変えたいという狙いがある。カジュアル化の広がりは紳士服大手には衝撃的な出来事だった。
「脱スーツ」にカジを切る
「紳士服の青山」は19年11月、24時間営業の会員制フィットネスクラブ「エニタイムフィットネス」を併設した複合店をスタートさせた。まず沼津本店に導入し、今後5年間で50店舗に拡大する。
同社の多角化は失敗の歴史だ。カジュアル衣料「アメリカンイーグル」からは撤退。靴修理サービス「ミスターミニット」も振るわない。新たに進出するフィットネスクラブは大激戦区だ。
業界2位のAOKIホールディングスは、ブライダル事業やカフェを展開する。複合カフェ「快活CLUB」やスポーツジムを手掛けるエンターテインメント事業を拡大する。1月3日に放映されたテレビ番組『マツコの知らない世界』(TBS系)で、190種以上のフライドポテトを食べ比べてきた人が「快活CLUB」のフライドポテトをナンバーワンに選んだ。ファストフードの名だたる外食企業を抑えて選ばれたわけで、ネットで大きな話題になった。
マンガ、雑誌、インターネット動画が楽しめる「快活CLUB」は、AOKIが脱スーツで成功した多角化事業である。新規出店や紳士服店の業態転換などで、今後5年間で店舗数を足元の500店弱から倍増。早ければ20年中にも、スーツ専門店の数を上回る。
AOKIの見通しによれば、23年3月期にはエンターテイメント事業の営業利益がファッション事業を上回るという。スーツに代わり、ネットカフェが看板業態になる。業界3位のコナカは19年9月、女性向けのカバンなどを手がける服飾雑貨のサマンサタバサジャパンリミテッド(東証マザーズ上場)に出資。女性客の獲得を狙う。業界4位のはるやまホールディングスは昨年、理容店やカフェを備えた複合施設「ほっとひと息ステーション」を出店した。
「脱スーツ」の成否が明暗を分けた
「脱スーツ」の成否が、紳士服大手2強の決算で明暗を分けた。
青山商事の20年3月期の最終損益は1964年の創業以来、初めて203億円の赤字に転落する。ライバルのAOKIの20年3月期の連結最終損益は54億円の黒字。「快活CLUB」が寄与した。3月19日の終値時点の株式時価総額はAOKI(630億円)が青山商事(446億円)を上回る。市場の評価は青山商事に厳しい。
「脱スーツ」の多角化を進めているとはいえ、「本業」はスーツだ。
既存店売上高でも青山商事の落ち込みが目立つ。2月に他の3社がプラスに転じたのに、青山商事は水面下に沈んだまま。しかも2ケタの減少だった。新型コロナウイルスの影響が顕著に出る3月、4月の数字がどう出るか、注目される。
消費増税後の19年10月以降の既存店売上高の推移は次の通りである。
【既存店売上高前年同月比率】(単位%)
社名 19年10月 11月 12月 20年1月 2月
・青山商事 ▲27.9 ▲17.8 ▲16.9 ▲17.7 ▲14.2
・AOKIHD ▲26.6 ▲11.5 ▲10.3 ▲6.3 9.4
・コナカ ▲20.2 ▲2.3 ▲5.4 ▲4.1 6.1
・はるやまHD ▲17.2 ▲5.5 ▲3.8 0.5 10.6
(HDはホールディングスの略、▲はマイナス)
(文=編集部)