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パチンコ業界、なぜ一部のホールは休業に応じなかったのか?クラスター対策&固定費の実態

文=山下辰雄/パチンコライター
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一般的なパチンコ店内の様子(「Wikipedia」より)

 4月7日の緊急事態宣言発令以降、もっともニュースで取り上げられ、注目を集めたのはパチンコ業界ではないだろうか。多くの業種が“補償なき休業要請”で苦しむなか、営業を続けていた一部のパチンコ店が批判の対象となり、東京都や大阪府では店舗名が公表される事態となった。

 では、パチンコ業界は緊急事態宣言発令から全面解除までの約2カ月間をどのように過ごし、世の中の流れをどんなふうに感じたのか。大阪の中規模店で店長を務めるKさんに話を聞いた。

不人気台の電源を落とす“間引き稼動”も

「『ある意味で反社会的勢力の一歩手前』とか『パチンコは脱法ギャンブル』とまで言われたのは、ショックでしたね」

 憤るわけではなく、悲しげに語ったKさん。昼の情報番組で、ある弁護士が「(営業自粛の)要請に従ってくれない代表がパチンコ店」と言い、強い言葉でパチンコ業界を批判したこともあった。

「東日本大震災のときも感じましたが、『パチンコ業界はどれだけ批判してもいい』という雰囲気があるように思えてなりません」

 テレビでは、休業要請に応じないパチンコ店の様子や来店客のインタビューが連日のように放送されていた。一方で、5月1日には全国のパチンコホールの95%以上が営業を自粛していたのだが……。

「(4月16日に)緊急事態宣言の対象が全都道府県に拡大されたのを受けて、自治体から休業要請があり、うちも本部からの指示ですぐに営業を自粛しました」

 4月中、しばらくの間は営業を続けていた店舗も感染防止に努めていた。県外ナンバーの車や県外居住者の来店お断り、間隔を空けての整列・入場、従業員と入場者のマスク着用、手指消毒液の設置、遊技機のこまめな消毒、換気など、だ。

「1台置きに電源を落とす“間引き稼動”の店舗も多かったですね。人気台のシマは密になりやすいので、お客さんがつく人気台の間に(電源を落とす)不人気台を移動させたり……」

 それでも、やはり上がったのが「クラスター(感染者集団)発生の危険性がある」という声だ。

「遊技しながらの飲食は禁止。店内BGMの音量を落としたから、友達同士が大声でしゃべることもない。台の間に設置されていた分煙ボードを仕切りとして使うなど、できる限りのことをしたんですけどね」

 4月24日、営業を続ける店舗に対して、東京都遊技業協同組合(都遊協)が「休業しない場合は組合から除名する」と通告。これにより、都内では同月30日までに全店舗が休業した。この「都遊協の一喝」が効いたという話もあるが、実情は異なる。

「うちは大阪府遊技業協同組合(大遊協)の管轄ですが、都遊協も大遊協も役割や権限は変わらないはず。組合費を納めていますが、これといったメリットはありません。初代オーナーは『いざというときに便宜を図ってもらえる』と思っていたようですが」

 都遊協の場合、組合員になっていればTUC(※パチンコ店向けの特殊景品を卸す業者)を使えるのがメリットだが、仮に脱退しても、都内で営業できなくなるということはないようだ。

「昔、都内で等価交換が禁止になった際には、都遊協に所属していない店舗は等価のまま営業できるので、むしろ『組合員じゃなくて良かった』なんて声が聞こえました(笑)。また、組合員になっていても、社会的信用を得られるとか、金融機関から融資を受けやすくなるということもありません」

客を独占する“抜け駆け営業”に無言の圧力?

 では、最後まで営業を続けていた店舗が翻意した理由はなんなのだろうか。

「同業者の“目”というプレッシャーじゃないでしょうか。マスコミによる批判は、ある意味で慣れています。でも、地域のお客さんを独り占めする“抜け駆け営業”は、さすがに競合店舗の妬みにつながるので、無言の圧力を感じていたでしょうね」

 見方を変えれば、各ホールには、そこまでして営業を続けなければならない理由がある。パチンコ業界は毎月の固定費が高いということは、よく知られている。全国で約400店舗を展開するダイナムは、1店舗当たりの「月の平均固定費」が約1900万円だという。

「都内だと、月の家賃だけで1000万円かかるところもあります。そう考えれば、全国一である東京都の感染拡大防止協力金(1店舗なら50万円、2店舗以上なら100万円)があっても、休業は倒産へのカウントダウンになりかねません」

 5月に入っても営業を続け、同月3日に休業指示を受けた千葉県のA店は、スロットだけで1日の利益が約200万円になったこともあったという。

「ネットで話題になりましたね。スロット200台での差枚がマイナス10万枚。すべて20スロとは限りませんが、ざっくり言って利益が200万円。ほかにパチンコが400台ですから、利益はさらに多かったはずです」

 近隣のパチンコ店が休業しているので、お客さんが集中したとはいえ、その情報を目にして心が乱されたパチンコ店オーナーもいただろう。

「1000台を超える大型店舗や稼働率の高い人気店であれば、もっと大きな利益を出せます。1日の売り上げが数千万円になりますからね。それにもかかわらず、ほぼすべてのホールがゴールデンウイーク(GW)明けまで営業を控えた。そのことは、もっと肯定的に受け止められていいのではないでしょうか」

 しかし、GWが明けると、「これ以上の休業は無理」と営業を再開するパチンコ店が次々と現れることになる――。

(文=山下辰雄/パチンコライター)

後編に続く

山下辰雄/パチンコライター

山下辰雄/パチンコライター

パチンコライターとしてBusiness Journalにて多くの記事を寄稿。

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