新聞記者らとの賭け麻雀が発覚した黒川弘務・前東京高等検察庁検事長。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言中にもかかわらず、検察のナンバー2がマスコミ関係者と卓を囲んだとあっては何の言い逃れもできず、辞職も当然だろう。
黒川氏と卓を囲んだ産経新聞社の記者と朝日新聞社の社員にとって、麻雀そのものは「情報を得るための手段」であり、早い話が接待麻雀だったのだろう。検察庁は国税庁と並んで「取材先としての敷居」が高く、常日頃からの付き合いが重要となる。いわば、麻雀は情報取得のためのツールだったわけだ。
接待麻雀のコツは「3回に1回は勝つ」
若き頃、筆者も取引先の相手と何度も接待麻雀を行ってきたが、仲間と囲む麻雀と異なり、接待麻雀にはいくつかのポイントがある。接待だけに大勝ちは厳禁だが、負けてばかりもいられない。3回に1回は勝たなければ、接待相手に刺激を与えられないのだ。
つまり、小さく勝って、それなりに負けるのがコツなのである。麻雀には流れが存在する。通常は、その流れを先につかむのが必勝戦術だが、接待となればそうはいかない。まずは接待相手に流れを向けるべく打たねばならないので、東場のうちに接待相手に放銃をするのがキモとなる。
たとえば、接待相手がリーチをかけてきたとしよう。捨て牌に三萬と八萬があった場合、まずは裏スジである四萬か七萬を放銃するのが基本だが、一発目には切らない。一発目では「いかにも」であり、相手の上がり点も高くなるからだ。最初の半荘で接待相手にトップを取らせるのは常套手段だが、できれば小さなトップとすることで、こちらの負けを小さくする。相手の気分上昇による取引がキモである以上、費用対効果を考えるわけだ。
とはいえ、放銃ばかりでもダメだ。接待相手に満貫を振り込んだら、次の局では3900点もしくは5200点を振り込ませたい。なので、自分に満貫以上の手が入っても、序盤は決して手を大きくせず、小さな手役を狙うのだ。リーチをかけると上がり点は大きくなるため、ダマ聴を重視するのも重要となる。
理想の流れは、オーラスで接待相手に逆転トップを取らせること。最終局面での逆転ともなれば、相手の気分は高揚する。オーラスは「勝負!」と言いながら危険牌を捨てて、接待相手を上がらせたい。
とはいえ、接待相手が捨てた上がり牌を見逃し、脇の2人から上がるのは厳禁だ。当然ながら、見え見えとなってしまうからだ。
黒川検事長の“テンピン”レートは相場?
狙い通りに接待相手がトップを取ったら、次の半荘ではトップを狙いにいく。少しだけ本気モードにシフトするわけだが、接待相手をラスにしてはならない。そのあたりは、脇の2人に目配せをして振り込ませるなどの連携も必要となる。
また、相手との会話も重要だ。その一例が、上がった相手をほめることである。たとえば、相手がカンチャンをツモったときは「よく山に牌があるとわかりましたね」「剛腕ですね」などと、さりげなくおだてるのもポイントとなる。相手を気分良くさせるのが狙いであるため、打ち方のマナーを守るのはもちろん、長考などはご法度だ(ただし、相手の長考は例外)。
黒川氏はテンピン(1000点100円)というレートで打ち、1~2万円のやり取りをしていたという。これについては法務省の調査でも「社会の実情から必ずしも高額とは言えない」と結論付けられている通り、賭け麻雀の「相場」である。
なお、警察が動くのは「リャンピン(1000点200円)以上」のレートと言われている。ある漫画家が摘発を受けた際のレートも、リャンピンだった。一方、今もテレビで活躍する某有名芸能人は、引退したプロ野球選手らと「デカピン(1000点1000円)」で楽しんでいたとも耳にする。高級マンションでのデカピンともなれば警察が黙ってはいない、ともよく言われたものである。
(文=井山良介/経済ライター)