森雅子法務大臣は5月21日夜に安倍晋三首相に進退伺を提出したが、安倍首相から慰留されたことを受けて、今後も続投することも明らかにした。5月22日に、森法相は「非常につらい道ではあるが、法務行政を停滞させることなく進め、検察の立て直しをしなければならないという思いに至った」と述べている。
これは言うまでもなく、東京高等検察庁の黒川弘務検事長が“接待賭けマージャン”報道によって辞職したことを受けてのものだ。5月21日発売の「週刊文春」(文藝春秋)によって報じられた黒川検事長の疑惑は、緊急事態宣言が発令されている中、新聞記者の自宅で“3密”状態で賭けマージャンに興じていたという内容だ。
黒川検事長は「一部事実と異なる部分もある」とした上で、自身の行動をおおむね認め、5月22日には辞職が閣議承認された。
また、これを受けて、森法相は黒川検事長の処分を「懲戒」より軽い「訓告」にしたことで、「懲戒免職じゃないのか」「軽すぎる」「身内に甘い」「国民をなめている」といった批判が起きている。
そもそも、黒川検事長は世論が紛糾した検察庁法改正をめぐって渦中の人だった。国会で審議されていたのは、現在60歳となっている国家公務員の定年を2022年4月から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、65歳とする国家公務員法改正案と、検察官の定年も63歳から65歳への延長を可能にする検察庁法改正案だ。
つまり、国家公務員や検察官の定年を段階的に65歳まで引き上げるという内容だが、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令される中、どさくさ紛れのような形で国家公務員や検察官の定年延長を決めようという動きが、大きな反発を招いた。
そして、この法改正を待たずとも、今年1月には異例の定年延長が閣議決定されていたのが黒川検事長だ。これは、安倍政権に近いとされる黒川検事長を検事総長に就任させるための布石と見られ、今回の改正案は黒川検事長の定年延長に法的な裏付けを与える“後付け”との見方が強かった。そんな中、渦中の人物が辞職することで、一連の問題が矮小化されることも危惧されている。
「結果的に今国会での成立は見送られましたが、この検察庁法改正案をめぐって中身のない答弁を連発するなど、森法相の資質に大いに疑問符がつきました。今年3月の参議院予算委員会では、検察官の定年延長に関連して『東日本大震災のとき、検察官は福島県いわき市から市民が避難していない中で最初に逃げたわけです』と発言、安倍首相から厳重注意を受けたことで発言を撤回し、謝罪に追い込まれています。
また、今年1月には、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏の逃亡事件について『(ゴーン氏は日本の)司法の場で無罪を証明すべきだ』と発言して、『弁護士としてあり得ない失言』『日本の司法制度の闇』などと批判を浴び、『主張と言うところを間違えた』と訂正しています。つまり、事実と異なる失言の連発で、法務省のトップとして疑問の目が向けられているのです。今や、安倍政権のアキレス腱といっても過言ではないでしょう」(政治記者)
森法相が現在のポストに就いたのは2019年10月。河井克行前法相が、妻である河井案里参議院議員の選挙に関してウグイス嬢買収疑惑や有権者への寄付行為疑惑が報じられたことを受けて、約2カ月でスピード辞任したためだ。
その河井前法相には、逮捕の可能性も浮上している。すでに公職選挙法違反の疑いで、河井前法相の政策秘書、案里議員の公設秘書、選挙スタッフの合計3人が広島地検に逮捕されており、ゴールデンウィーク中には河井前法相と案里議員が広島地検の任意聴取を受けていたことも明らかになっている。検察当局は河井夫妻を公選法違反(買収)の疑いで立件する方針を固めたとも報じられており、捜査のゆくえが注目されているのだ。
「一部では、6月17日の会期終了後に逮捕に動くのでは、との見方も浮上しています。今回の買収疑惑は自民党本部の関与が焦点となっているだけに、捜査の進展はダイレクトに安倍政権へのダメージとなることが必至です。また、河井前法相は秘書に対するパワハラ行為も報じられており、もはやボロボロ。
振り返ってみると、過去には金田勝年氏が、いわゆるテロ等準備罪をめぐって不安定な答弁を続け、松島みどり氏が“うちわ配布問題”で辞任するなど、法相ポストは安倍政権の鬼門ともいえる存在になってきました。前任者、そして現職の問題は政権を揺るがしかねないものだけに、もはや法相ポストが“疫病神化”しているという意地悪な見方もできそうです」(同)
1強状態を続ける安倍政権の最大の泣きどころといえそうだ。
(文=編集部)