検察当局が、前法務大臣である自民党の河井克行衆議院議員を公職選挙法違反(買収)の疑いで立件する方針を固めたことが報じられた。克行議員には、妻の河井案里参議院議員とともに、2019年7月の参議院議員選挙の際に地元である広島県内の首長や議員らに現金を配ったという疑惑が浮上しており、かねてから選挙違反が取り沙汰されていた。
広島地方検察庁が3月下旬から関係者に対して一斉に任意聴取を開始したほか、4月には県議4人の事務所などを家宅捜索に入っている。また、ゴールデンウィーク中には広島地検が克行議員と案里議員に任意で複数回の事情聴取を行っていたことも明らかになっており、捜査の進展が注目されていた。検察当局は総額1000万円前後が配られた可能性があると見ており、今後は案里議員の立件も慎重に検討するという。
折しも、今は検察庁法改正をめぐって世論が紛糾している状況だ。現在60歳となっている国家公務員の定年を2022年4月から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、65歳とする国家公務員法改正案と、検察官の定年も63歳から65歳への延長を可能にする検察庁法改正案の実質的な審議が、国会で始まっている。
要は、国家公務員や検察官の定年を段階的に65歳まで引き上げるという内容だが、今は新型コロナウイルスの感染拡大により全国に緊急事態宣言が発令されている、国難とも言える時期だ。人命に直結する医療崩壊や戦後最悪との見方も強い経済停滞への対策が急務なはずだが、そんなときに国家公務員や検察官の定年延長を決めようという動きに、大きな反発が生まれている。
また、法改正を待たずに、今年1月には、安倍政権に近いとされている東京高等検察庁の黒川弘務検事長の定年延長が閣議決定されており、今回の改正案は黒川検事長の定年延長に法的な裏付けを与える“後付け”との疑念もぬぐえない。そんな中、検察当局が克行議員の立件に向けて本格的に動き出したことに注目が集まっている。
「そもそも、昨夏の参院選前に自民党本部から河井陣営に1億5000万円の資金供与があったことが明らかになっており、河井陣営はそれを原資に票の取りまとめを行ったとみられています。すでに複数の関係者が現金の授受を認めており、その裏に買収の意図があったかどうかが立件の焦点となるでしょう。
ただ、国会議員には不逮捕特権があり、国会会期中は国会の許諾が必要になるため、複雑な手続きを求められます。そのため、逮捕せずに在宅起訴の可能性もあるでしょう。また、一部でささやかれているのが、検察当局が強硬姿勢を打ち出すために、6月17日の通常国会閉会後に電撃的に逮捕するというシナリオです。すでに、広島地検には東京地検特捜部からも応援が入っており、検察の本気度がうかがえる態勢になっています。
いずれにしろ、この捜査の本丸は安倍政権の中枢でしょう。今回の疑惑には党本部から巨額の“アシスト”があり、それを元手に河井陣営が広範囲にわたる買収行為を行ったとすれば、今後の展開次第では政権を揺るがすものになりそうです」(政治記者)
今回の問題をめぐっては、運動員に法定上限を超える報酬を支払った公選法違反の疑いで、すでに克行議員の政策秘書、案里議員の公設秘書、選挙スタッフの合計3人が広島地検に逮捕されている。
さらに、4月には「週刊文春」(文藝春秋)で克行議員のパワハラ疑惑が報じられた。記事によると、克行議員は地元の私設秘書を務めていた人物に対して「(速度規制50キロの道を)だいたい100キロくらいでいってよ」と要求したり、「詰めなさいって、だから車間を」と“あおり運転”を強要したりするなど、道路交通法違反を教唆するような言動を繰り返している。
渦中の克行議員は5月12日、国会内で報道陣に対して無言を貫き、案里議員も「お話できずにごめんね」「もうちょっと一段落、裁判の様子をみてからですかね」などと話すにとどまった。
捜査の手は、どこまで伸びるのだろうか。
(文=編集部)