4月28日に放送された経済ドキュメンタリー番組『日経スペシャル ガイアの夜明け』(テレビ東京系)は「未知のウイルスを知る 日本が今 中国から学ぶこと」と題して、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけた中国一の商業都市・上海市の様子がリポートされた。そこで映し出されたのは、日本ではあり得ない徹底的な新型コロナ対策だ。
新型コロナは中国湖北省武漢市が発生源とされており、中国では8万人以上の感染者が確認されている。一方、上海では3月以降の新規感染者は2人、4月はゼロという数字が発表されており、感染拡大から約3カ月で新型コロナの封じ込めに成功しつつある。
上海では1月下旬から規制が強化され、市内に入るすべての車に対して“検疫”を実施。検温をした上で、熱がある場合は立ち入り禁止にした。ショッピングモールやマンションでも、同様の措置がとられたという。また、オフィスビルでは企業に従業員の行動履歴の提出を要求し、上海の外から戻った人に対しては2週間の自宅隔離を義務付けた。
さらに衝撃的だったのが、感染者が出た場所や滞在していた場所を表示するスマホアプリの登場だ。感染者の発生時期は「赤は2週間以内」「黄色は2~4週間以内」などと色分けされ、感染者が出たマンション名まで表示されるという、いわば人権無視の施策である。
中国共産党の一党独裁体制ならではの強権発動は、地下鉄でも見られた。乗客は車内に貼られたQRコードに自分のスマホをかざし、「自分がどの車両に乗っているか」という情報を自主的に当局へ提供しているのだ。さらに、エレベーター内にはボタンを素手で押さないためのティッシュペーパーや爪楊枝が備え付けられているなど、中国の対策の徹底ぶりが随所に見られた。
こうした施策が功を奏したのか、以前は閑散としていた上海の観光スポットや繁華街は“巣ごもり”に耐えた人たちであふれかえっており、街は活気を取り戻している。
しかし、今も気を緩めてはいないようだ。取材班が以前に感染者が出たマンションを訪ねると、ゲートでは入国審査並みのセキュリティチェックが行われ、敷地内の庭やエレベーター、廊下などは専門業者による1日2回の消毒が欠かさず行われている。
当然ながら、医療機関も厳戒態勢だ。上海の基幹病院では、新型コロナ患者用の隔離病棟が設けられ、建物から3mほど離れた通路から一歩でも病棟のほうに近づくと、2週間の隔離措置の対象になるという。
さらに、取材班は海外メディアとして初めて、浙江省杭州市の浙江大学医学院附属第一医院を取材した。浙江省の新型コロナ感染者は1268人だが、死亡者は1人に抑えられている。同院では重症患者を集中的に受け入れており、日本でも問題になっている院内感染を防止するため、治療にかかわった医療関係者と患者は徹底して隔離されるという。
こうした番組内容に、視聴者からは「正直スゴい」「社会主義ならではのスピード感に強権発動と私権制限……良くも悪くも日本の安倍政権とは違うわ」「日本でこれをやるのは無理だと思うけど、少なくとももう少し危機感を持つべき」「これぐらい躍起になって対策しないと未知のウイルスには勝てないってことか」「とはいえ、中国はコロナ恐慌の震源地だし……」「これは中国共産党の宣伝なの?」とさまざまな反応が噴出している。
「かねてから中国当局の発表する数字には疑問の声も多いですが、番組内で中国の医師が語っていた『4早』(早期発見・早期隔離・早期診断・早期治療)などの危機意識は他国も共有しておくべきでしょう。中国は新型コロナの影響で延期されていた全人代(全国人民代表大会)を5月22日に開幕することを発表しました。これにより、習近平指導部は世界でいち早く新型コロナの封じ込めに成功したということを、国内外に大々的に宣伝するつもりでしょう。それと並行して、現在進めている“マスク外交”や“ワクチン外交”も加速させるはずです。
一方、米国との間では責任追及や賠償請求をめぐって激しい応酬が繰り広げられており、米中関係は悪化の一途をたどっています。米国がWHOへの資金拠出を停止すると、すかさず中国は約32億円の追加寄付を発表するなど、影響力拡大に向けて動いています。しかし、1~3月期のGDPが初のマイナス6.8%を記録するなど経済低迷が著しいだけに、全人代後の景気刺激策などが注目されます」(経済記者)
日本では史上初の緊急事態宣言から3週間が過ぎても収束の見通しが立たず、同宣言の延長も取り沙汰されている。日本の街が『ガイアの夜明け』で流れていた上海のような賑わいを取り戻すのは、いつになるのだろうか。
(文=編集部)