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東京電力、高齢者への強引な電話勧誘、承諾なく契約切り替え…委託先が音声改ざん

文=編集部
東京電力、高齢者への強引な電話勧誘、承諾なく契約切り替え…委託先が音声改ざんの画像1
東京電力本社(「Wikipedia」より)

 三井物産グループのコールセンター大手、りらいあコミュニケーションズ(東証1部上場)の不祥事は、朝日新聞の独占スクープで発覚した。6月11日付朝日新聞朝刊が「東電委託先、電話勧誘の録音データ改ざん 勝手な契約も」と報じた。東京電力が家庭向けに販売する電気・ガスの電話勧誘を請け負ったりらいあ社が、顧客との会話を改ざん・捏造していた。

 電力自由化で東電から他社に流れた顧客を対象に、44件の不正が確認された。顧客が了承していないのに勝手に契約を切り替えたことなどを隠すのが目的だった。東京電力ホールディングス(HD)の完全子会社で小売り事業を担う東京電力エナジーパートナー(東電EP)が、りらいあ社に電話勧誘を委託。不正はりらいあ社の鹿児島市にあるコールセンターで行われた。

 報道を受け、りらいあ社は6月11日、緊急会見を開き、東京電力HD系から請け負った電力・ガス販売をめぐり、顧客との会話記録を改ざんしていたことを認めた。不正は鹿児島市のコールセンターに所属するチームが行っていた。

 音声データの改ざんは、りらいあ社の従業員による内部告発で今年1月に発覚していた。同社は東電などに報告した後、改ざんの指示を出した管理者を処分。類似業務で同様の改ざんが行われていなかったかどうかを調査。他の業務では同様な不適切な事例はなかったとしている。

 6月13日付朝日新聞によれば、不正な音声編集は現場トップの管理者が主導。東電から委託を受けたが契約件数が伸び悩むなか、「奪回」と呼ばれる部署では営業目標を達成しようと、夜遅くの電話や高齢者への強引な勧誘が行われ、消費者生活センターなどへクレームが増えた。このため不適切な営業実態を隠す音声編集が始まったという。1月に不正を把握していながら公表まで5カ月もかかった。朝日の報道がなければ隠し通して公表するつもりはなかったのかと疑われる。

 不正報道を受け、りらいあ社の株価は急落。6月11日、一時、前日比174円(14%)安の1080円の安値をつけた。りらいあ社が不正を認めたことで、6月12日の終値は1040円(67円安)に沈んだ。5月14日には1351円をつけていた。年初来高値は2月10日の1590円だ。親会社の三井物産の6月11日の終値も、前日比59.5円(3.4%)安に下落した。

コールセンター業務を外部委託する企業が増え、業績は回復基調

 1987年6月、三井物産が中心となり、もしもしホットラインが設立され、コールセンター業務を開始した。98年10月株式店頭公開、2000年11月東証2部上場、02年3月東証1部に指定替えとなった。15年10月、りらいあコミュニケーションズに商号変更。社名は信頼の環(Reliable Ring)を広げることに由来する。今回の不祥事を見ると、ブラックユーモアと言われかねない社名である。

 三井物産は34.4%(議決権ベース)を保有する筆頭株主(20年3月期末)。網野孝社長(55)は三井物産出身。慶應義塾大学経済学部卒業し、87年三井物産に入社。情報産業本部ユビキタス事業部電子決済事業室長を経て、米国三井物産シリコンバレー支店長を務めた。帰国後、ICT事業本部の本部長補佐となり、18年6月、りらいあ社の社長に就任した。

 新社長としての初決算は苦いものだった。19年3月期の連結最終損益は72.8億円の赤字(その前の期は34億円の黒字)。31億円の黒字の見込みから一転赤字となった。最終赤字は2000年の上場以来初めて。買収したフィリピン子会社の業績が振るわず、のれん代の減損損失102億円を計上したのが響いた。フィリピン子会社は日本企業による海外M&A(合併・買収)失敗の典型例である。

 14年に社長に就任した三井物産出身の中込純氏は、中期経営計画でアジア拠点の拡充を掲げた。すでに展開していたタイ、ベトナムに続き、16年7月、フィリピンの同業2社を200億円で買収して子会社にした。東南アジアに進出する日本企業向けに、英語やフィリピンの現地語であるタガログ語によるコールセンターサービスを提供したが、受注は伸びなかった。網野社長の初仕事は、M&Aに失敗したフィリピン子会社の尻拭いをすることだった。

 りらいあ社の20年3月期の連結決算は、売上高は前期比11%増の1287億円、営業利益は2.1倍の116億円、最終損益は80億円の黒字に転換した。配当は39円と前の期より3円増配した。国内で人手不足や働き方改革を背景に、コールセンター業務を外部委託する企業が増え、受注は伸びた。コールセンターは労働集約型の典型。正社員1万2533人、契約社員2万3711人の大世帯だ。業績が回復基調となった最中に不正が発覚。株価下落のペナルティを受けた。

伊藤忠グループのベルシステム24と競い合う

 国内のコールセンター業界はトランスコスモス、りらいあ社、ベルシステム24HDの3社が半分のシェアを握り、寡占化が進んでいる。3社はいずれも東証1部上場企業だ。

【コールセンター3社の業績】( )内は前期比増減率(%)

社名               売上高     営業利益  売上高営業利益率

トランスコスモス        3118億円(9.5%増)   106億円(2.0倍)   3.4%

りらいあコミュニケーションズ   1287億円(11.2%増)  116億円(2.1倍)   9.0%

ベルシステム24HD         1266億円(4.6%増)  111億円(29.4%)      8.8%

(ベルシステム24は20年2月期、トランスとりらいあは20年3月期決算)

 トランス・スモスは独立系でグループ従業員は5万8516名と最多。M&Aに積極的で昨年、東芝の事務作業を引き受けているグループ会社や、東芝の子会社から人事勤労業務を請け負っている受託事業を買収した。コールセンターからアウトソーシング事業に軸足を移している。

 ベルシステム24HDは伊藤忠商事が40.79%(議決権ベース)出資する子会社。社員数は9010名。もともとCSK(現SCSK)の傘下だったが、経営方針をめぐる対立から当時の経営陣が日興コーディアルグループ(当時)の投資会社に対して第三者割当増資を実施、CSKの支配下から脱する奇策に出た。裁判所を巻き込んだ法廷闘争の末、05年にベルシステム24はその投資会社の完全子会社となり上場を廃止。その後、投資会社の間で転がされ、14年、伊藤忠商事がベインキャピタルから買収。ベルシステム24は15年11月に再び東証1部に上場した。

 伊藤忠は「非資源No.1商社」の目標を掲げ、アパレルや食品など生活関連分野の強化を進めている。コールセンターは消費者との接点になる重点分野だ。ベルシステム24にとって伊藤忠グループ入りのメリットは大きかった。伊藤忠の関連事業のコールセンター需要を引き受けることができたからだ。三井物産グループのコールセンター業務を請け負っているりらいあ社と競っており、大手商社の“代理戦争”の様相をみせている。

 しかし、これまでオペレーターによる人海戦術で支えられてきたコールセンターは限界を迎えつつある。英オックスフォード大で人工知能(AI)を研究するマイケル・オズボーン博士らが2013年に発表した論文「雇用の未来」は、コールセンター業界に衝撃を与えた。702の職業がAIに取って代わられる可能性をランク付けしたなかで、「99%の確率でなくなる」と1位に選ばれたのがコールセンターだった。未来のコールセンターはAI対応が主流になり、世界中で大量のオペレーターが職を失うという予測もある。

(文=編集部)

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