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Go Toトラベル、揺らぐ公平性…割引上限額が突然1万円も減額、大手事業者に予約集中

文=編集部
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「旅行者向けGo Toトラベル事業公式サイト」より

 新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた業界を支援する「Go To キャンペーン」。第1次補正予算に盛り込まれたものだけで総事業費は1兆6794億円。売り上げの落ち込んだ観光地や飲食店、商店街などを支援するため、買い物に使えるクーポンや割引券を配る。

 経済産業省は当初、事務手続きを単独の民間業者に丸投げする予定で、委託費の上限を総事業費の約2割にあたる3095億円と設定していた。ところが、経産省と広告代理店最大手、電通の癒着が明るみに出る。電通は持続化給付金の手続き業務を、一般社団法人サービスデザイン推進協議会から再委託されていた。野党などが協議会は電通が実質的に運営しており再委託するためのトンネル団体になっていると追及。電通が再委託された業務をさらにグループ会社に外注していたことも、「中抜きにつながる」と批判された。

 梶山弘志経済産業相はGo To キャンペーン事業者の公募をいったん中止。委託費の上限(合計額3095億円)を変えず、経産省と国土交通省、農林水産省が担当分野ごとに3分割して公募をやり直した。委託費の上限は国交省の観光支援が2294億円、農水省の飲食店支援が469億円、経産省のイベント支援が281億円、商店街支援が51億円。電通は経産省の新規入札には当面参加しないと表明し、「Go To キャンペーン」の入札参加を見送った。

 ここから委託費争奪戦が火ぶたを切った。

「Go Toトラベル」は東武トップツアーズが中核

 国交省、観光庁が所管する国内旅行の需要喚起策「Go Toトラベルキャンペーン」の委託先は日本旅行業協会(JATA、会長:坂巻伸昭東武トップツアーズ社長)など7団体で構成するツーリズム産業共同提案体に決まった。提案体の代表は日本旅行業協会だ。

 旅行宿泊割引や地域クーポンとして総事業費1兆1248億円の「Go To キャンペーン」の中核事業は5件の応募のなかから企画競争を経て選定された。共同提案体の構成団体はJATAのほか、全国旅行業協会(ANTA、会長:二階俊博自由民主党幹事長)、日本観光振興協会(会長:山西健一郎三菱電機特別顧問)、JTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズとなっている。協力団体として全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会、日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟、リクルートライフスタイル、楽天、ヤフーが名を連ねている。

 国交省が公募の際に提示した事務委託費の上限は2294億円だったが、選定した共同提案体が示した額は1895億円で約400億円減額された。

「Go To イート」は「ぐるなび」など13事業者

 農水省所管の「Go Toイート」の委託事業者は農水省が事業者と直接契約した。オンライン飲食予約事業者は13件、食事券発行事業者は33府県35件が採択された。事業費は2003億円で委託費は205億円。オンライン予約サイト経由で飲食店を予約・来店した消費者にポイント(最大1万円分)を付与されるのと、購入額の25%分を上乗せするプレミアム付食事券の2本立てだ。

 オンライン飲食予約事業者は18件あり13件が採択された。ぐるなび、カカクコム、ヤフー、一休、EPARKグルメ、リクルート、スターツ出版、Retty、auコマース&ライフ、USEN Media、Fesbase、表示灯、フードテックパートナー(favy、トレタ、ポケットチェンジ)の13件である。

 食事券発行事業者は36の地域から56件の応募があり、JTBやジェイアール(JR)東日本企画など33府県35件となった。

「Go To イベント」と「Go To 商店街」は博報堂DYHD系に委託

 経産省は所管の「Go Toイベント」の事務局を担う事業者に博報堂を選んだ。「Go To商店街」については読売広告社が幹事を務める、ひとまちみらい商店街振興コンソーシアム(共同企業体)が選定された。イベント事業は文化芸術やスポーツが対象。原則2000円を上限にチケット価格の2割相当分を割り引いたり、クーポンを付与したりする。事業費1200億円、委託費281億円である。

 商店街事業は各地の商店街に対し、観光商品の開発や催しに上限300万円を補助する。事業費は2003億円。委託費は51億円。経産省は両事業の事務委託先を公募し、第三者委員会の審査を受けて決定した。博報堂と読売広告社は共に博報堂DYホールディングス(HD)のグループ会社。経産省所管の2つのGo Toキャンペーンは博報堂DYHD系に委託されることになった。

Go To キャンペーンの大きなほころび

 Go To トラベルをめぐり、大手旅行予約サイトで割引額の減額が相次いだ。国内旅行代金の50%相当を、1人1泊2万円(日帰り1万円)を上限に補助する。50%のうち、35%分は旅行代金から割り引き、残る15%分は旅先での買い物や飲食に使える地域共通クーポン券を配る。

 楽天トラベルは10月9日までに利用条件を変更し、1会員に月1回(国内宿泊=1予約1部屋、国内ツアー=1予約)までという制限を設けた。宿泊予約サイト「Yahoo!トラベル」は10月10日午前0時以降の予約について、それまで最大1万4000円割引だった割引上限金額を1人1泊当たり最大3500円に引き下げた。「じゃらん」と「一休.com」も同日未明に、それぞれ割引上限額を最大3500円に改めた。

 観光庁はトラベル事業による恩恵が一部の事業者に偏らないようにするため、販売計画に応じて各社の予算枠を決定してきた。しかし、10月から東京発着旅行の追加やクーポンの配布開始で、大手サイトに予約が集中。予算が上限に達しそうになったため、各サイトは割引上限を引き下げた。

 赤羽一嘉国交相は10月13日、すべての旅行業者が最大35%分を割り引けるよう、追加で予算を配分すると発表した。今後、各社に割引額の上限を1万4000円にすることを徹底させる。すべての予約サイトは14日午前中までに元の割引額に戻した。

 事業は当初からつまずいた。東京都を急きょ対策から除外。事業者への周知期間は短く、現場は顧客の説明や月100件を超える運営事務局への書類提出に追われた。そのため、9月15日までの割引支援額(735億円)は予算額の約5%にすぎなかった。

 10月に東京が対象になると、今度は利用者が急増し、サイトが割引を制限する事態に急変した。政府は給付金の追加配分で解決を図る考えだが、予約の集中する大手と、中小との間で受け取れる給付金の差が広がる。公平性に欠け、潤っているところとそうでないところが二極化する結果を招いている。制度の不備が露呈した。

Go To イートでも制度設計ミス

 農水省は10月8日、Go To イートのポイントで得られる金額を下回る飲食ができないよう予約サイト事業者に求めた。昼食は500円、夜は1000円という付与額を下回る少額の飲食を抑えるのが狙い。安い料理を1品だけ注文して、ポイントの差額を得る利用者が相次いだのに対応した。

 鳥貴族ではサイト経由で予約して来店すれば、1人当たり1000円分のポイントを付与されるため、1品だけ注文して298円(税込み327円)を支払えば、差額の673円分のポイントが得られた。ポイントを稼ぐために、鳥貴族のチェーン店を回る“鳥貴族マラソン”という言葉まで生まれた。鳥貴族はグルメサイト経由の予約をコースに限定した。

 Go Toイートのポイント付与はオンラインの予約サイトを通じて予約するとポイントは次回以降の飲食で使える。1000円分のポイントで食事をしても、再び1000円分のポイントがもらえる。1人10回、1万円まではこれが繰り返すことができる。このためSNS上では“無限ループ”などという言葉が飛び交っている。

 農水省によると、10月1日の開始から2日間で115万人分、10億円相当のポイントが付与される予約があったという。獲得ポイントより少ない金額の商品を注文する利用客が出ることは予測できたはずだ。農水省官僚の想像力の欠如が背景にある。制度設計のミスである。

 Go To イート事業がグルメサイトを利するものになっていないかという疑問もある。外食店の支払いがいくらでも、グルメサイトの1人分の送客手数料は変わらない。「グルメサイトと外食店の利益は相反関係にある」という厳しい指摘もある。

(文=編集部)

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