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『古畑任三郎』、実現しなかった幻のストーリー…勝新太郎、志村けんも犯人役候補だった

文=上杉純也/フリーライター
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古畑任三郎(「FOD」より)

 4月3日に俳優の田村正和さん(享年77)が亡くなっていたことが明らかになった。田村さんといえばドラマ、映画、舞台と数多くの主演・出演作品があるが、ひとつに絞れといわれれば、やはりドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)シリーズに尽きる。フジテレビでは5月21日20時から、田村さん追悼特別番組として『古畑任三郎ファイナル~ラスト・ダンス~』を放送する。

 1994年4月に第1シーズンがスタートした本作は、2008年6月にスペシャルドラマで放送された『古畑中学生』(主演:山田涼介)まで、全43エピソードを誇っている。だが、それ以外にも、企画段階を終え収録直前まで進行していた話や、犯人役として名前が挙がったものの実現に至らなかったタレントなど、“幻のエピソード”があることをご存じだろうか。

 企画が組まれたものの、諸事情で実現しなかったボツ案には、以下のようなものがある。

 まずは幻のエピソードのなかで、もっとも実現化に近かった作品から紹介しよう。大物俳優・勝新太郎を犯人役に迎えた『殺意の賛美歌(仮)』という話だ。勝が演じる役は、ウエスタン歌手。被害者を殺したあと死体を隠し、時計も細工して古畑と対決するストーリーだったという。

 1996年1月放送開始の第2シーズンで予定されていたが、自身の特別舞台『夫婦善哉東男京女』出演と時期が重なってしまったため、収録直前で降板する憂き目に遭っている。

 99年4月スタートの第3シーズンに先だって放送されたスペシャル第4作の犯人役は当初、志村けんが予定されていた。だが、当の志村がこのオファーを辞退したため、犯人役は緒形拳に変更。監察医の黒岩健吾が猟奇的な連続殺人に手を染める『黒岩博士の恐怖』のエピソードとなった。

 志村は過去のインタビューで「演出されるのが苦手」と語っており、映画出演はわずかに3本のみ。ドラマに至っては、遺作となったNHK朝の連続テレビドラマ『エール』1本だけだ。それだけに、もし実現していたら、かなり貴重な作品となっていたに違いない。

 第3シーズンでは、放送開始前のテレビ雑誌で真田広之や大地真央、そして三上博史の出演が予告されていた。ところがこのうち、文楽の人形遣い役で出演するはずだった三上博史が降板してしまう。というのも、同じフジテレビの看板ドラマ枠である“月9”の『リップスティック』への主演が急きょ決まったためだった。テレビ雑誌に掲載された番組プロデューサーのインタビューによると、シナリオは完成していたが、お蔵入りになったという。

 ほかのドラマで自身が演じた役を、そのままの役名で演じてほしいとの出演オファーを断った役者もいる。織田裕二である。『古畑任三郎』と同じ三谷幸喜脚本のドラマ『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)の主人公・司馬江太郎役で、第1シーズンにオファーが来たが辞退。

 その理由を織田は、03年に開催されたファンクラブ・DEPSツアーのフェアウェルパーティーで、こう明かしている。いわく「僕は、司馬江太郎が負ける姿は観たくない」とのこと。クールでミスをしない司馬江太郎が、自身のほころびから捕まる姿は想像できないということだろうか。

 その結果、代わりに『振り返れば~』から、司馬の恩師・中川淳一を演じた鹿賀丈史が登場。第8話の『殺人特急』で自分の浮気を調べていた興信所の所長を毒殺するも、たまたま同じ特急に乗り合わせた古畑によって、その犯行が看破される話だった。

 なお、前述した織田のツアーには、ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)のプロデューサー・亀山千広と、『古畑任三郎』を企画した石原隆も同行していた。しかも、フェアウェルパーティーにおいて古畑が『踊る~』に出演する企画が立ち上がったものの、折しも田村のスケジュールが舞台と重なっており、仕事を同時に2本取らない主義だったため、惜しくも実現には至らなかったという。

 犯人役のゲストで出演してはいるが、当初の設定とは異なる役となったのが、第2シーズン初回の『しゃべりすぎた男』での明石家さんまである。この回でさんまが演じたのは敏腕弁護士役だったが、これはさんま自身の「古畑とのセリフ対決にしたい」という要望で、法廷闘争ものへと変更されたのだ。当初は、マネージャーを殺すロックシンガー役が予定されていたという。これは、かつて桑田佳祐が「さんまの声はロック歌手向き」と褒めたことがあったためだ。

 この回はファンの間でも“屈指の神回”との誉れ高く、役柄の変更はナイスな判断といえるのだが、当のさんまはセリフを完璧に覚えて芝居をするのではなく、むしろまったく覚えてこずに即興で演技をするタイプ。ただでさえ長ゼリフで有名な三谷脚本なのに、もっとセリフが膨大な量になってしまい、自分で自分の首を絞める結果となってしまったという。

 第3シーズン『その男、多忙につき』で犯人役を演じた真田広之も同様に役柄変更が奏功したパターンだ。出演が決定したときは“寡黙な茶道家”役が候補に挙がっていたが、古畑が犯人を追いかけ回して捜査を進めるという回をつくるために、“一度に何件もの仕事を抱える超多忙な売れっ子メディアプランナー”の設定になったという。

 最後は一番の変わり種である。なんと古畑の部下の今泉慎太郎役で出演していた西村まさ彦も、犯人の候補に挙がっていたというのだ。第3シーズンが始まる直前の話だが、今泉役ではなく、当初はクールな犯人役での出演が検討されていたという。

 脚本担当の三谷幸喜は、当時のことを雑誌のインタビューでこう語っている。結局、第3シーズンでは今泉役での出演となったが、出番が減少したため、西村は三谷に抗議した。だがこれは三谷が、西村本人に「今泉と犯人役のどちらをやりたい?」と聞いたところ、「どっちもやりたい(笑)」という曖昧な回答が返ってきたために、結果として今泉の出番を減らすことにしたというのだ。

 このほか、女性鑑識官役で宮本信子が、天才少女役で安達祐実の出演が検討されたという。また、個性派俳優として抜群の演技力を誇る小林薫や中井貴一も犯人役候補になっていたといわれている。

『古畑任三郎』は、絶妙なキャスティングとその役柄が大きな見どころのひとつとなっているだけに、実現化しなかったエピソードはどれも気になるものばかり。もし、制作されていたらどんなストーリーになっていたのか、想像してみるのもまた一興だろう。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

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