女優としての活動はいたって順調だが、副業がピンチに陥っているようだ――。
昨年、大手芸能事務所スターダストプロモーションから独立した女優の柴咲コウ。昨年はNHKの連続テレビ小説『エール』でオペラ歌手役を演じ、主演を務めた連続テレビドラマ『35歳の少女』(日本テレビ系)では迫真の演技が高い評価を獲得。さらに現在公開中のディズニー最新映画『クルエラ』では主人公の声優を務め、今年10月公開予定の映画『燃えよ剣』にも重要な役どころで出演するなど、女優としての活動はまさに順風満帆だ。
一方、柴咲が社長を務める会社の業績が悪化しているという。柴咲はスターダストに所属していた16年に、アパレルブランドの企画・販売などを手掛けるレトロワグラースを設立し、自ら経営を切り盛りしている。だが、5月に公表された同社の決算公告によると、20年12月期は6806万円の赤字で、4期連続の赤字。さらに利益余剰金も1億円以上のマイナスとなっており、一般的には経営危機といわれても仕方ない状況となっている。
「柴咲さんの会社は衣食住製品の企画・開発を行っていますが、そもそも自然派志向の商品は開発に時間もかかるし、コストもかさむ。再生素材を使ったブランドを立ち上げたことがきっかけで、環境省の環境特別広報大使を務めたりもしましたが、アパレル事業の業績が悪いこともあり、興味が薄れてきているようです」(業界関係者)
柴咲はレトロワグラース以外にも、父親の故郷である北海道で牧場も経営。将来は父親と一緒に北海道で暮らす計画を明かしたこともある。
「コロナの影響で自由に北海道にも行けず、自身の会社や事務処理などもあり、イライラが募っているようです」(柴咲を知る関係者)
芸能人が副業として会社を立ち上げ事業を展開することは、今では珍しくない。たとえば、俳優の香川照之は2018年に、昆虫服のプロデュースを手掛ける会社「アランチヲネ」を設立し、ブランド「インセクトコレクション」を展開。ヒロミもトレーニングジムなどを運営する「ビィーカンパニー」社長を務め、敏腕経営者としての顔もたびたびフューチャーされている。
一方、歌手の千昌夫は不動産事業を手掛ける不動産会社が2000年に事実上倒産し、会社の負債総額は1000億円ともいわれている。また、俳優の津川雅彦が経営していた乳幼児向けおもちゃ販売会社「グランパパ」が約6億円の負債を抱え自己破産の危機に陥り、資金繰りのために妻で女優の朝丘雪路が実家を売却するなど、失敗する例も多い。
そんな芸能人の会社経営だが、何が成功と失敗を分けるのだろうか。百年コンサルティング代表取締役で事業戦略コンサルタントの鈴木貴博氏に解説してもらった。
会社が成功する条件はシンプル
芸能人が経営する会社が成功する条件はシンプルです。人を見る目があり、人を動かす力があって、しかも顧客を動員できること。この3つです。
副業で会社を経営する以上、事業の大半は誰かに任せることになります。その人がしっかりしていて、そのビジネスを軌道に乗せてくれることが1つめの条件なのですが、失敗する芸能人は、任せる人で失敗するケースが多いようです。任せた人が金を使い込んで逃げてしまったとか、従業員からの評判が悪くて現場が疲弊しているとか、ひどい場合には、任せた人が実は素人同然でその業界のことを何も知らない人だったというようなケースまであります。
ビジネスがうまく行き始めたときも同じです。もっと手を広げるように新しい提案をする人が群がってきます。それをうかつに信じてビジネスを拡大したり借金を増やして転落するケースも多いのです。
次に人を動かす力です。任せた人とその下で働いてくれる従業員が、高いモチベーションで働いてくれれば会社は安泰です。そうなるためには、実はその人たちとかなり緊密にコミュニケーションをとる必要があるものです。夢やビジョンを共有して、常に「がんばれ」とか「ありがとう」とか声がかけられる人間関係にいるべきです。そうせずに長期放置していると、最初はやる気だったビジネスパートナーもやがて気持ちがなえてきます。
そんなことで、キーになっていた幹部社員が転職したり手を引いたりしただけで、順調だったビジネスが傾き始める例は芸能人が経営する会社には非常に多いと思います。本業でやっている会社でも同じような危機は訪れるものですが、社長ががんばってなんとか立て直すもの。しかし芸能人の副業だと、自分がそこまでがんばれない。芸能人の会社では普通の会社以上にビジネスの現場の空気を知って、彼らを動かせる状態をキープしておかないと、ひどいことになるのです。
3番目に、自分のブランド力でどれだけの顧客を連れて来られるか。人気のタレントが経営する居酒屋で、しかもちょくちょく本人もやってきて接客してくれるとなれば、ファンがたくさん来店するでしょう。これはわかりやすい成功例です。
しかし、いくらたくさんファンがいても、ファンのニーズと合っていない商品だと動員力は下がります。たとえばアイドルだったら、実家の漬物を通販で売るよりも、自分がデザインしたTシャツを売ったほうがずっと販売数は多くなる。何を売るかで動員は変わります。
よく間違える例は価格設定です。ファンは結構高い値段設定でも最初は買ってくれます。オリジナルTシャツ1万5000円でもそこそこ売れると思います。実際、デザインに凝りに凝ったうえで、特殊な加工も加えれば1万5000円で売らなければ黒字にならない素晴らしいTシャツができると思います。
でも、さすがにそれを売るのは力のあるアパレルブランドでも難しい。少なくともファン以外の一般客は動員できないでしょう。ファン層の購買力を見誤って失敗する芸能人経営の会社は結構あると思います。自分の夢があって、つくりたかったお店、やりたかったビジネスをやるという気持ちはわかるのですが、そこにファン層と一般の顧客層が価格面でついてきてくれるかどうかが肝心です。
(文=編集部)