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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~CAが危ない!ANAの正体(17)

ANA、CAたちが戦々恐々…何気ない私的SNS投稿で乗務停止処分→自主退職が相次ぐ

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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ANAの737-800の特別塗装機(「Wikipedia」より)

 本連載の前回では、全日本空輸(ANA)が客室乗務員(CA)のSNS投稿について、極端なオンライン研修を実施している実態を報じたが、今回はルール違反をしたCAの処分の実例に加え、乗務停止処分を下されたCAの自主退職が相次ぎ、事実上の退職勧奨になっていることについて明らかにしていく。

「訓練同期」や「世界中に行っている」と書き込むだけで処分対象

 早速、ANAのオンライン研修で過去の処分例として挙げられた主なものを、いくつか具体的に見ていこう。なお、以下の投稿のアカウントは実名だったのか匿名だったのかは確認できなかったが、「ANAのSNS監視の執拗さはCAの間で共有されているため、基本的には匿名アカウント」(現役CA)だと推察される。

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 この「匂わせ」の例は、確かにハッシュタグなどから明らかにCAとわかるものの、この程度ならANAのCAと仮に名乗っていたとしても問題なさそうな、ごくごく一般的な内容であろう。他業界の女性社員でも同じような投稿をしている上、投稿時刻、便名などからANAのCAと割り出せたとしても、この内容だけで客からクレームが来るとは考えにくい。

 このほかの処分例としては、アップしたチケットの写真に優待券を示す記号がついていたり、コメントに「訓練同期」や「世界中のいろんなところに行っている」と書いてあるものが挙げられている。チケットの件は一般人はまずわからないだろうし、コメントに至っては一般常識からすればなぜ書き込んだり返答したりしてはいけないのか理解しがたい。「初めて 自慢 自己顕示欲」については、「キャプテンごちそうさまでした。8人ご馳走してくれるとか太っ腹すぎ」が微妙なくらいで、あとはそれほど会社のブランドイメージを毀損しているともいえない。

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 次に、「社外秘情報の漏洩 マイナス感情表現 私的見解の投稿」だが、これも「社長が雇用を守るとか超いい会社」というのは不適切だが、ほかは自分が勤める会社のネガティブニュースへの反応としては、匿名アカウントでの投稿なら問題ないとはいえないものの、懲戒処分は行きすぎではないか。

CAに「完璧」を求め過ぎて、過度な締め付けが現場にストレス

 ANAは「ANAのCAであることが推察されれば、良かれと思った投稿でも、読み手にとっては悪意や不快に感じることがありANAブランドを傷つけることにつながります」と研修で指導している。ただ、仮に推察されたとしても、ANAという社名を出していない以上、どのような投稿が常識的なものかは、個人として判断させるべきではないだろうか。

 もし、そのCAのSNS利用の度が過ぎて問題になった場合には、注意して削除させるなりすればいいだけの話で、SNS全盛時代となって久しい現代で人を雇う以上、その程度のリスクは許容するしかない。ANAは密告も奨励するSNS監視の専門部署「SNSオフィサー」を設置し、「不適切な投稿を必ず撲滅しましょう」という標語を掲げたが、このような極端な姿勢や社員教育の方向性は、そもそも時代に合っていないといえよう。

 それに、ANACAを処分する際に「外部の顧客から指摘があった」とするが、業界関係者でもない限り、海外でのステイ先の観光名所についての書き込み内容だけでCAのものだと判別できないだろう。SNSオフィサーなどという非常識な部署を設置したことで、本来発見しなくても良いような「違反者」を大量に生み出して労働環境を悪化させただけではないか。

 なお、本連載の第1回で紹介したように、ANAのCAには戦前に存在した近隣住民同士で相互監視し合う隣組のような「班」というシステムがあり、SNS監視に大きな効果を挙げている。「班長の30代CAはSNSで失敗した部下や同僚がいると減点になるため、神経質にならざるを得ない」(20代CA)といい、こちらも職場環境を著しく悪化させていそうだ。

乗務停止処分が事実上の自主退職勧奨

 また、「不適切な投稿」などルール違反をしたCAの少なからずが、乗務停止の処分を受け、自主退職に追い込まれていることも指摘しておこう。CAの給与体系は基本給と、乗務時間などによって算出される乗務手当の2階建てになっており、基本給だけだと新卒間もない場合、手取り15万円程度と、東京の家賃相場を考えれば生活にも困るレベルとなっている。もっとも重い無期限乗務停止となると、会社が許すまで乗務ができず、このような低賃金の状態が続くことになる。現場では「事実上の自主退職勧奨」(先の現役CA)といわれている。

 昨年5月、ある人気ユーチューバーのオンライン合コン番組に出演した3人のANAのCAが、社名を名乗っていないにもかかわらず、配信からわずか半日で会社側に発覚し、翌日呼び出され、無期限乗務停止の処分が下され、少なくともひとりは退社した。一般公開されるオンライン合コンに出ること自体は褒められたものではないが、わずか半日で会社が出演の事実をつかみ、CAが退社まで追いやられること自体が、密告文化が深く根付いていることを証明している(この番組はANAがそのCAたちを通してユーチューバー側に削除を要請したため、現在は非公開)。

 また、外出先でアップした貸与品のキャリーバッグの写真からANAのCAだということが発覚し、2週間の乗務停止処分となり、退社した事例も確認している。乗務停止処分が下されると、すぐに同僚CAの間で広がり、「まるでさらし者のような扱いを受ける上、仮に短期間の処分でも飛行機に乗れないなら辞めるしかないと考えるようになる」(20代現役CA)。日本航空(JAL)の現役CAも「SNS投稿の処分は始末書と当該記事の削除がせいぜいで、懲戒処分はよほど極端な例」と驚きを隠さない。

管理職CA「会社のSNS方針が意味不明」、外国人クルーはOKで二重基準

「私自身も会社の方針がよくわからない」と漏らした管理職CAもいる。「リアル合コンでもANAのCAと名乗らないように」と管理職CAから指導を受けたとの証言もある一方、外国人クルーが機内で食事を用意している写真をインスタグラムにアップするのはお咎めなしという二重基準では、そのような声が出るのも無理はない。

 ANAは上場企業中トップの雇用調整金434億円を受けていることもあり、国民の反発を買わないよう、社員の大部分を占めるCAのSNS利用について神経質になっているのは理解できる。また、客商売である以上、ストーカー客からCAを守るという目的もあるのもわかる。ただ、SNSをめぐる一連の姿勢を見る限り、およそSNSを使用したことのない世代の経営幹部が策定した時代錯誤の方針が、現場とのギャップを広げているのではないか。

 ANAグループは2021年度に新卒採用を中止し、22年度も大幅に縮小することを決めているが、このような有様では今後の新卒採用にも影響が出るのは避けられそうにない。誰しも、匿名や身内限定公開の投稿のことで、ある日突然、処分され、退社に追い込まれる可能性のある会社に就職したくはないだろう。ステイ先での写真が原因で下された乗務停止処分をきっかけに退社したANAの元CAの声をご紹介しよう。

「私は、インスタを限定公開にしておらず、誰に見られても大丈夫なことしか上げていないつもりだったので、自分は大丈夫だと思ってましたが、まったくそうではありませんでした。私は制服姿や会社の愚痴の投稿などはダメというくらいに大雑把に考えていたので、自分のステイ先での投稿がルール違反になるとは考えてもいませんでした。

 今回、会社側から指摘された写真については、同期が誰もいいねを押していなかったのだけが救いでした。投稿についてANAのCAでいる間は、危ないかもしれないと思ったら早めに消去したほうがいいかもしれません。嫌な考え方ですが、同僚も含めて誰がどんな言いがかりをつけて会社に密告するかわからないし、自分が想像もしなかった捉え方や仮定をこじつけて会社側に報告するかもわかりません。ANAの現役CAの皆様、どうかご無事で」

 ANAは、社員を「人財」と名付けて大事に育成する姿勢を示している。ANA人財大学の初代学長を務めたANAホールディングスの片野坂真哉社長が経営トップにある以上、グループを挙げて、もっと真剣に若手CAとSNS利用について対等の立場で向かい合うべきではないか。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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