ビジネスジャーナル > 企業ニュース > ANA、CA「取り調べ」の実態発覚
NEW
松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~CAが危ない!ANAの正体(15)

ANA、CAの私的SNS監視&“取り調べ”の実態…同期の密告を強要、専門部署の存在

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
ANA、CAの私的SNS監視&“取り調べ”の実態…同期の密告を強要、専門部署の存在の画像1
ANAのボーイング767-381ER(「Wikipedia」より)

 全日本空輸(ANA)が客室乗務員(CA)のSNS投稿を監視する専門部署「SNSオフィサー」を廃止し、「SNS相談窓口」を新設していたことが、わかった。本連載でたびたび「不適切な投稿」をしたCAを密室で「お説教」したり、同僚に密告させたりするようなANAの実態を報じてきたが、ANAは社会的に不適切であるとの評判が広まることを懸念し対応したと見られる。ただ、現役CAには「耳障りのいい名前に変えただけで、中身が変わるわけがない」と不信感が残っているのが現状だ。

部長名で「現行のSNSオフィサーは廃止します」

 筆者が情報提供者から入手した5月24日付の社内文書「再周知(SNSに関する相談窓口について)」は、ANAの全CAに向け、客室センター業務推進部長名で以下のような内容を周知した。

<再周知 (SNSに関する相談窓口について)

2021年1月の注意喚起後、ご自身のSNS利用時のガイドラインに関する問い合わせ、 また、兼業申請の増加に伴い、兼業先での SNS利用時に関する問い合わせも増加しています。

SNSの利用に関しては、 ANA ソーシャルメディア利用規定を改めて確認願います。

上記の環境を踏まえ、 今後の SNS 投稿に関する問い合わせ、ご意見については、以下の「SNS相談窓口」に連絡をお願いします。

「SNS 相談窓口」●●●@ana.co.jp

ご自身のSNS利用時、兼業先でのSNS利用時のガイドラインの確認、その他SNSに関する質問、ご意見がある場合はお気軽に相談ください。

「SNS 相談窓口」の新設に伴い、現行のSNS オフィサーは廃止します。

現在、ANAグループが置かれている環境を正確に理解し、お客様の信頼を損ねないように SNSへの不適切な投稿をゼロにしていきましょう>

以上」

現役社員「名前だけ変えただけで中身は同じ」と不信感

 今回廃止された「SNSオフィサー」については、本連載の第8回第9回で取り上げた。この専門部署は昨年6月に存在が初めて業務連絡で周知され、CAなどANA社員がSNSでCAであることやANA社員を名乗るなどの「不適切な投稿」を監視するほか、社員からの密告も受け付けていた。

 SNSオフィサーが投稿者を特定すると、CAに突然電話をかけて呼び出し、40~50代の管理職CAが密室で数時間にわたり「お説教」するなどしていた。それも、その「不適切な投稿」とされたものには、一般には非公開で、しかもANAのCAとはまったくわからない身内向けのプライベートな投稿もあった。CAの間では、同僚同士の密告文化が根付いてしまっているとの懸念の声も上がっていた。

 一般常識からしてプライバシーと表現の自由の侵害としか思えないこの「SNSオフィサー」が今回廃止されたことは、CAにとっては労働環境改善の一歩前進に思える。しかし、現場の受け止めはまったく違うという。以下は現役CAの弁。

「結局のところ、『メディアにリークしないでこちらに先に連絡をよこせ』と言論統制を続けたいだけです。そもそもSNSオフィサーとして若手CAを密室で数時間も締め上げた『お局様』がいなくならない以上、対応が変わるはずがない。会社はSNSに対する理解がまるでなく、会社に対する反逆行為のようなとらえ方をしている。中東系など外資系航空会社ではCAが制服姿を堂々とSNS公開して宣伝に利用していることを考えれば、あまりに時代錯誤の認識といわざるを得ません」

管理職CA「下半身を撮影されない限り、盗撮じゃない」と説明

 このSNSオフィサーの「お説教」の内容については筆者の記事配信後、情報提供が続々と集まり、広範囲にわたって被害者が出ていることが明らかになっていた。これまでにご紹介していなかった現役CAの証言をご紹介しよう。

「同期とのグループLINEを遡られ、管理職CAの愚痴の箇所をすべてスクショされました。そして数百件の投稿の内容、その時にどんな気持ちだったのかなどの項目に分けてエクセルにまとめさせられました。たまたまその場にいた50代CAの悪口も投稿していたので、激怒させてしまいましたが、『こういうお説教ってパワハラじゃないんですか』と言い返すと、その管理職から『上司の愚痴を書くことはパワハラですから、あなたがしてることもパワハラですよ』と意味不明なことを言われて当惑しました。家族のグループLINEや趣味のTwitterアカウントも見られました。これでは教育ではなく、パワハラでしかありません。

 自分以外にも愚痴を言っている同期の名前を言わされて、なんで同僚の密告を会社側が強制的にさせるのだろうと腹立たしくなりました。

 あと、私の『盗撮されて嫌だった』という投稿を見て『盗撮ってどこをですか?』と聞かれて『上半身です』と答えたら、『アナタ、盗撮の定義わかりますか? 脚や下半身を写すことを言うんですよ? それは盗撮じゃありません』と言われてドン引きでした。会社は普段、盗撮が問題になってるので、そういう被害を受けたら相談してねって言ってるのに、悲しくなりました」

 この「お説教」自体も大きな問題ではあるものの、管理職CAのハラスメントに対する認識そのものが不正確としか思えない発言だ。盗撮は、当たり前だが、上半身でも盗撮である。まるで加害者を庇うような言い分をする管理職が一人でもいる限り、「SNSオフィサー」が「SNS相談窓口」に名前を変えても中身は変わらないと疑われても仕方ないだろう。

上司のCAとの面談でも言論統制

 さらに、SNSオフィサーの「お説教」だけでなく、年に複数回ある上司のCAとの面談でも「言論統制」が行われていたことも判明した。この面談では仕事の目標を上司と設定するのだが、「会社の運営方針に基づいた内容でないと何度も書き直しをさせられ、上司が納得のいく『正解』にならないと承認されない」(先とは別の現役CA)という。

 この会社の方針に一致させるという手法はSNSオフィサーの「お説教」と同様で、本人の自主性や権利は尊重されず、あくまでANAの方針にCAが合わせることを強要するものだ。さらに、直近1年の面接では目標の項目に「倫理観」が追加されたという。内容としては20年1月に起きたCAが搭乗前にアルコールを飲み国内線4便を遅延させた事案や、SNSの不適切投稿を踏まえて自分が具体的に何をすべきかを書き込んでほしいというものだが、この説明の際にこの現役CAに対する上司のCAの発言がズレているのが興味深い。

「SNSに不適切な投稿をした人に話を聞くと、CA、訓練、ステイ、同期、という言葉は一言も出しておらず、ANAのCAだということも書いていないから、不適切な投稿だとは思わなかったと言っています。ただ、SNSでつながっている人たちは、あなたたちのことをANA社員であると知っています。その人たちはANAの大切なお客様であると考えなくてはなりません。だから直接的な単語が使っていなくても、お客様から見たら不適切な投稿にあたるということを、理解してほしい。

 直近であったのは、マスクなしで同期同士で会食していた事案です。写真だけ投稿していたようだが、ANAケアプロミスなど新型コロナウイルスの対策指針を世間に公表して臨んでいる私たちが、マスクなしで会食だなんて納得していただけると思いますか? 私たちの言動が常にお客様に見られているという意識をしっかりしてほしい。そして今後、同期がSNSで不適切な投稿をしていたら、本人に伝えてあげてください。そして会社全体で、再発させないようにご協力ください」

 いかがだろうか。まず、SNSでつながっている人が投稿者のことをANA社員だと知っているとは限らないし、それを言い出したら、あらゆる会社員はSNSを利用することは不可能になるだろう。同期の家でのマスクなしの会食をした写真にしても、確かに褒められたことではないが、実際に外部からのクレームがあった場合に本人たちに注意すれば済むことではないだろうか。SNSオフィサーのような専門部署をつくったり、同僚に密告させたりして血眼になって監視するのは普通ではない。

 SNSオフィサーの「お説教」や上司のCAとの面談について、次々と情報提供が筆者に来ること自体、社内で不満が充満している証拠だろう。ANAグループは、世間に自分たちが完璧であるかのように見せようとする体質があるようだが、過度な締め付けがいかに現場CAのストレスになっているかを、もっと真剣に考えたほうがいいのではないか。今月にはANAホールディングスの株主総会も予定されており、現在の姿勢がコンプライアンス上の問題になる可能性がないかも問い直すべきだろう。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
 処女作「日本が食われる」(彩図社)が好評発売中!

Twitter:@kyuzo_matsuoka

ANA、CAの私的SNS監視&“取り調べ”の実態…同期の密告を強要、専門部署の存在のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!

RANKING

23:30更新