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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~CAが危ない!ANAの正体(9)

ANA、CAの私的なSNS投稿を監視…管理職3人が密室で5時間説教、同期と食事だけで

松岡久蔵/ジャーナリスト
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「Wikipedia」より

 前回の第8回連載で、全日本空輸(ANA)内部におけるCA(客室乗務員)のSNS利用に対する異常な監視体制について報じたところ、同社現役CAから被害報告が相次いだ。以下は、その報告をもとにしたANAの「思想統制」の実態である。なお、情報提供者の特定を避けるために複数の証言を織り交ぜて記述したが、すべて実際に起こった事実から構成されている。

休日に突然、管理職のCAから呼び出しの電話

「明日、会社に来てもらえますか?」――。緊急事態宣言中、国際線が壊滅状態となり便数が激減し手持ち無沙汰にしていた20代若手CAのAさんは、週末に突然かかってきた管理職CAからの電話に驚いた。「ご用件は何でしょうか?」と問い返すと「今は言えません。明日話しますから、とにかく来てください」の一点張り。翌日は休日で社外の友人と予定のあったAさんがその旨を伝えると、管理職は「会社からの指示です。予定は変更して会社に来てください」とA子さんのプライベートをまったく尊重せず、強引に出社するよう指示した。「誰に見られても恥ずかしくない格好で来てくださいね」。脅し文句のような管理職の一言に恐怖を感じながらも、翌日、指示通りに出社したAさんを密室で待っていたのは3人の40~50代の管理職だった。

LINEの1日で消える設定の身内の投稿が会社側に漏洩

 まったく身に覚えのないAさんに対し、管理職の1人はこう質問した。「あなたはコロナ禍にもかかわらず、近所の喫茶店で同期の4人と会食していましたね」。これ自体は事実である。宣言中で3人以上での会食はよくないとは思いつつも、同期とはお互いに会話の際もマスクを付けて会話するなど感染リスク回避に留意しており、日中でもあったので問題ないと考えてのことであった。

 それにしても、なぜプライベートな会食について会社が把握しているのか。「LINEに5人で写ってる写真を投稿してたでしょ? 知ってるのよ」。別の管理職が追い詰めるようにAさんに質問する。これも事実だが、そもそも一般には非公開で24時間で消えるストーリーという機能を使ったものであり、あくまで身内でのやりとりである。入社時にSNSの利用についての「確認書」(本連載第1回を参照)にサインし、使用についての研修も受けたが、プライベートなSNS利用まで干渉される覚えはないと不満を覚えた。それにしても、なぜこの件を会社は知っているのだろうか。「投稿を見かけたお客様から情報提供があったからです」。そんな暇な人が本当にいるのか大いに疑わしかったが、有無を言わせぬ雰囲気にAさんは言葉を飲み込むしかなかった。2人の管理職とAさんのやりとりを淡々とパソコンでメモを打つ、もう一人の管理職のキーボードの音だけが密室に響いていた。

1日おきに一人ずつ呼び出し、5時間も密室で「お説教」、無関係なSNSもチェック

 ヒアリングという名の「お説教」は5時間も続いた。

「なぜわざわざ投稿したのか?」

「集まっていることをアピールしたかったのか?」

「その時、どんな気持ちだったのか?」

 何気なく日常の一コマを投稿しただけなのに、まるで犯罪行為のように問い詰められた挙句、スマホを取り上げられ、今回の件とはまったく無関係な過去のやり取りまでさかのぼって調べられた。本来なら悪いことをしてないはずなのに、密室ということもあり、自分が悪いかのように思わされるのが辛い。最後には「真面目に自粛している人を侮辱している」と罵られた。

 その日はこれで解放されたが、すっかりあたりは暗くなっていた。スマホをチェックすると、今回会食した同期からAさんにLINEでメッセージが届いていた。「管理職から明日呼び出されたんだけど、何なの?」「え! 私も明後日呼び出されたんだけど」――。なんと、1日ずらして5人全員が会社に呼び出されていたのだ。

 Aさんが「お説教」された同期に詳細を聞いたところ、一人ひとり呼び出されて同じような質問を5、6時間されたところまでは同じだが、人によっては、今回とは関係のないLINEの投稿やフェイスブック、インスタグラムといった他のSNSまでチェックされ、管理職から「不適切だ」と判断された書き込みは写メを取られ、音読させられたり、それを投稿した際の気分や反省を述べさせられたりしたという。

 Aさんは当初はまったく信じられなかったが、その「不適切な部分」をエクセルにまとめさせられ、反省コメントを考えさせられた同期もいたというのだから、なおさらだ。「他にも同じようなSNS投稿をしている人を知っていたら教えなさい」と密告も迫られた。

 仕事への愚痴の書き込みが見つかった同期は、「なぜ愚痴をつぶやいたのか」「愚痴るならCAに向いてない」「CAは向いてないから辞めなさい」と退職まで迫られたという。Aさん以外は「お説教」の最後に「今日のことは絶対に他言しないでね」と約束させられた。

処分言い渡し当日に黒スーツで出社強制という見せしめ

 その後、Aさんたちは始末書を作成させられた。いつ正式に処分が下るのか教えてもらえず、家で待機するように言われ、呼び出されるときはいつも前日に電話かメールで知らされるのがストレスだ。本来フライトがあった日もフライトをさせてもらえず、書いては管理職が添削、書いては添削とまるで「思想統制」としかいいようがない時間を強要され、結局5人とも同じような文章を提出した。

 この間の出社は、周囲のCAがピンクやブルーの制服を着て業務に励むなか、ビジネスカジュアルを義務付けられ、同僚の前で晒されるという扱いを受けた。そして、「お説教」で呼び出されてから8日目になり、「明日は処分当日だから出社して」と管理職。「⾒せしめ」として、同僚たちがいる前で報告書を清書させられるという極めつけの「お仕置き」をされ、正式な処分が下されて通常の業務に戻ることができた。処分当日に、⿊いスーツで出社することを強制されたCAもいるという。なお、「お仕置き」中の出社で勤務扱いにはならない日もあった。

管理職CAはSNSを理解できず「会社への反逆行為」と認識

 いかがだろうか。「ナショナルフラッグキャリア」と呼ばれ、日本を代表する企業の一つであるANAのなかで行われたこととは、とてもではないが信じられないだろう。しかし、前回の連載記事を配信してから、筆者のツイッターに、情報提供していることはお互いに知らないであろう複数の現役CAから、これまでに書いたような「お仕置き」についての生々しいDMが届いたのだから、事実と考えざるを得ない。

 細部に違いはあるものの、

(1)管理職から突然、電話があり、要件を説明されずに呼び出される

(2)密室で2人以上の管理職から尋問のようにSNS投稿について数時間にわたり詰められる

(3)その際、処分案件と無関係なSNSまで検閲されチェックされる

(4)他のCAについても密告するよう迫られる

(5)今回の「お説教」はパワハラではないと最後に確認させ、場合によっては始末書にその旨を記述させる

(6)処分がいつ下るのかを明示せず、突然呼び出すことでストレスをかける

などの点は共通している。

 今回の一連の「お仕置き」の重要な点は、彼女たちのSNS投稿はANAのブランドを棄損するような内容の書き込みはしていない上、身内にしか見れないような非公開設定をしていたということである。それを会社側は前回の連載でご紹介した、「不適切な」SNS投稿の密告窓口である「SNSオフィサー」へのタレコミを利用して把握し、投稿したCAを尋問するという人権無視の所業を行っているのだから、時代錯誤も甚だしい。

 情報提供してくれた現役CAの一人は「管理職の40~50代の世代には、SNSが何気なく投稿するもので理由など特にないということが理解できない」と世代間の認識のズレを指摘する。ただ、ANAの管理職CAはSNS投稿すべてを「会社に対する反逆行為」ととらえているようで、異常でしかない。それに、部下に「他言するな」「パワハラではない」などと確認させる時点で、自分がパワハラをしていると自覚がある証拠である。

「あいつも密告して同じ目に遭えばいい」と思う自分が怖い

 前回と今回でANAのSNSに対する異常なまでの監視体制について書いてきたが、もっとも深刻なのは、出世や憂さ晴らしのために同僚を会社に売るという「密告文化」が根付いてしまっていることである。先の情報提供者のCAはこう話す。

「今回は私たちが密告されて被害に遭ったわけですけど、同期同士での会食なんて、外出自粛の今なら誰でもやっていることだし、SNSに投稿している人だっていくらでもいるはずです。なんで私たちだけ、ここまで酷い目に遭って晒しものにされないといけないのか、悔しい。だから、同期や同僚の投稿が目に入ってくるたびに、『あれもこれも違反じゃん。密告して同じ目に遭わせてやればいい』と考える自分がいるんです。でも、はっと我に返ると、これは本当に恐ろしくてぞっとします。私たちを通報したCAもそういうネガティブな思いに駆られて密告したのかもしれません」

 ANAには経営側に現場の声を反映させられるような労働組合は残念ながら存在しない。筆者の前回記事を読んで初めて同様の被害に遭った同僚がいたことを知ったCAもいたくらいで、身内でのやりとりすら警戒しなければならない。そのため、仮に今回ご紹介したような「お仕置き」の被害に遭った場合でも、親しい同期などに愚痴をこぼすことはできても、組織の問題として立ち向かうことは限りなく難しい。

 また、「お仕置き」をした管理職CAにしても、お気の毒である。自分より20歳ほども年下の若手をいびることが「仕事」なのだから、もはやまともな社会人とはいえない。筆者は下請けいじめをしてきた大手メーカーの社員を取材したことがあるが、死んだ魚のような眼をしていた。相手を人間として見ないようにしなければ、続けられないのだという。その管理職CAも、もしかしたら同じ眼をしているのかもしれない。

 筆者はANAのSNS監視体制は立派な「表現の自由」の侵害であり、ハラスメントの最たるものだと考える。即刻、廃止すべきではないだろうか。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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