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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~CAが危ない!ANAの正体(8)

ANA、社員のSNSを監視、グループ内の投稿も…愚痴でも社員呼び出し、数時間も説教

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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ANA、2019年度グループ入社式(写真:REX/アフロ)

「全日本空輸(ANA)は社員のSNSを監視していて、会社側に都合の悪い書き込みを見つけたら、休日でも呼び出して密室で説教をして、処分もするんです」

 こう嘆くのはANAの若手現役CA(客室乗務員)だ。ANAのパイロット、CAなど社員のSNSへの監視が異常な域に達していることは、すでに本連載1回目などでご紹介した。筆者が取材を進めると、SNS監視の専門部署が存在し、社員が同僚のSNSの書き込みを密告する窓口にもなっていることが明らかになった。

突然電話で呼び出し、上司数人でSNSについて追及

 先のCAにある日突然、上司から電話がかかってきた。「すぐに会社に来てください」。ただ事ではない雰囲気だ。呼び出さられるまま出社すると、複数人のCAの女性管理職に密室に案内され、写真投稿SNS「Instagram」に書き込んだ業務の愚痴について責められたという。「本名でアカウントを開設していなかった上、本来なら⾝内にしか⾒れないはずのグループ投稿だっただけに、なぜ知っているのか怖かった」(前出CA)というのも無理はない。

 ANAが指定する「SNS上の不適切な投稿」は連載第1回でも紹介したが、もう一度ざっと振り返ると、(1)会社の悪口、不満、フライト内の出来事(有名人が乗ってきたなど)、(2)ステイ先の写真、食べ物、景色、自身の婚約指輪など自己顕示欲の強い写真などだ。今回の若手CAは(1)に該当すると思われるが、本名のアカウントでもないため、ANAに迷惑をかけたとは到底思えない。

 このCAによると、その後、数日にわたって計5、6時間、愚痴をこぼした理由などについて追及された。「東京五輪に向けて大量採用したCAがコロナ禍で余剰人員となった今、SNSの書き込みを口実にした退職勧奨が横行しないか心配している」(CA)という声も聞かれる。

身内の連絡手段であるLINEですら内容に制約

 筆者が取材を進めたところ、ANAではInstagramに「同期」というキーワードを投稿することや、FacebookやTwitterなどでANAに批判的な報道・ブログ記事をシェアしたり、「いいね!」するのも処分対象となるという。

 また、本来身内でのコミュニュケーションツールであるLINEでのやりとりも処分対象になったCAもいるというのだから、開いた口がふさがらない。先の若手CAとは別の現役CAの解説。

「ANAは業務連絡で『SNS上の不適切な投稿』を禁止しているので、SNSの一種であるLINEも処分対象に入ります。そこで会社の愚痴や批判をしているところを見つかれば、管理職から呼び出されることになります。

 LINEには24時間で投稿が消えるストーリーという機能がありますが、友人だけに公開するよう設定していてもダメというのが会社の方針です。もちろん、LINEの個人同士、グループ内でのトークが第三者に閲覧されることは普通ないと思いますが、どんな形で外に漏れるかわからないので、不適切な発言は禁止されています」

 JALのCAに取材したところ、「JALでもCAをほのめかす投稿はダメだという規則はありますが、せいぜい投稿の削除と始末書レベルで終わる話。業務の愚痴くらいで呼び出して密室で数時間説教なんてありえない」と驚きを隠さない。身内での不平不満すら禁止するという会社の姿勢は、外資系航空会社でもありえないのはいうまでもない。

SNSオフィサーという密告窓口

 しかし、素朴な疑問として、先のCAは身内のグループに投稿したにもかかわらず、ANAが本人を特定できたのはなぜか。LINEの中身がなぜか会社側に知られているケースもあり、なんらかの密告がANA側にあったと考えるのが自然だ。

 実は、ANAにはSNSに関する「不適切な投稿」を監視する専門部署「SNSオフィサー」が存在する。日常的な監視のほか、「匿名通報で情報提供者が不利益を受けない」というのが売りで社内に連絡先が周知されている。LINEをはじめ、社員がSNSで書き込んだ投稿をスクリーンショットするなどして送れば、冒頭の若手CAのように手が回り処分対象になるというわけだ。

 連載第1回目で書いた通り、ANAは2005年からそれまでのCAの乗務手当制度を変更し、評価者(班長や管理職)の評価による格付けによって乗務手当を決めるかたちに切り替えた。基本給も一部、能力給となっていて、上司の評価により同期でも賃金に格差が生じるシステムになっている。このため、「会社の管理職に気に入られたいばかりに同僚を売る人間もいる」(先の現役CA)といい、社内の風通しを悪くするだけだと社員の間では大不評だという。

 ANAのSNSに対する監視は3年ほど前から強まった。最近では、社員への業務連絡の内容がどんどん厳しく、かつ長文になり、具体的写真なども増えている。3年前の18年といえば、東京五輪直前でANAが中期経営計画を開始した年だ。ビッグイベントを前に企業のイメージダウンはなんとしても避けたい経営側が、締め付けを強化したとも考えられる。

会社のお墨付きの「自撮り動画」の配信開始

 そんなANAが今月23日、パイロットや整備士、CA、グランドスタッフ(地上係員)などが仕事の裏側や各地のおすすめ情報を発信するYouTubeチャンネル「BLUE SKY NEWS」をスタートさせた。第1回は「【ANAのCA1日密着】羽田空港での出社から退勤まで大公開」と題したCAの自撮り動画だ。この動画の主な内容は以下の通り。

・7年⽬の現役CAが、午前9時40分の⽻⽥発福岡便に搭乗

・本来の出社時間の午前8時40分より約1時間も早い午前7時50分に出社

・着替えで2種類の制服があることや、髪型について紹介

・搭乗前に休憩室や食事について公開

・実際に福岡便に乗り、午後3時に羽田に戻ってきた後、ソムリエなどの習い事もしていると自己紹介

・CAの仕事の第一は顧客の安全を守る保安要員と説明

・食事は便間が50分しかないので、各地で用意された弁当を食べる

 一つひとつ検証して行こう。

 まず、ANAのCAは定時より1時間早く出社しても、CAの組合の働き掛けがあったJALとは違い、超過勤務とは⾒なされずサービス残業扱いとなる。着替えの関しては、本連載5回目でご紹介したパジャマなどスーツケースの中身を見せることが視聴者へのサービスと勘違いしたオッサンのセクハラじみた感覚が依然として残っていると言わざるを得ない。

 食事についても、50分の便間の時間があるときも、ゆっくりと食事ができるかのように説明しているが、「到着して乗客が降りるのに10分、25分前には次便の乗客の搭乗が始まり、その間に次便の準備などで、お弁当食べる時間は5~10分しかない。到着が遅れると その時間もなくなります」(ANAの現役CA)という。それに、清掃をした機内はほこりが舞うなど、食事をするにはあまりに不潔である。

 また、習い事の部分は、いつでも午前9時台の国内便で一往復して東京に午後3時には帰れるという、さも「華やかでホワイトな労働環境」というような印象を与える。ただ、ANAは⼊社直後から国内線、国際線に搭乗し、不慣れな状況で体調を悪くしながら働かせられている現状はすでに本連載4回⽬で指摘した通りだ。

 この動画は建前では「社員発信」の動画となっているが、社員の生の声が一番反映されるSNSを徹底的に監視し、愚痴や不満すら封じ込めようとする専門部署を置いている企業から発信される時点で、眉唾モノだと考えるべきだろう。

無給休暇中に立て替えた社会保険料を、復職後に天引きで強制返済させる

 ANAでは、本連載をSNS上でシェア、「いいね!」したりしても処分対象となるという。ジャーナリストとしてはまったく光栄なことだが、ANA側はそんなことにエネルギーを使うよりも、効果的なSNS広報戦略の策定や、風通しのよい労働環境を現場に提供できるように努力すべきだろう。同僚のSNS投稿を会社側に密告することがまかり通る企業で、まともな仕事ができるわけがない。

 筆者は連載第3回で、ANAのCAが妊娠した場合、すぐに会社に報告し無給休職を取得する選択肢しかないという時代遅れの制度設計を批判した。その後、情報提供により、なんと妊娠中に無給で休んでいる期間にANAが⽴て替えた社会保険料などを、復職後に給与天引きでANAに返済しなければならないという驚くべき事実が新たに判明した。SNSオフィサーといった社員監視に使う人件費とエネルギーは、こういう本来不可欠な福利厚生に充てるべきである。

 18年度からの中計で「足元をしっかり固め、未来へ動く」と宣言している以上、しっかりスローガンを実現していただきたいものだ。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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