「新宿、銀座、日本橋に経営資源を集中させ、地方店はたたみたい」。ある関係者は三越伊勢丹ホールディングス(HD)首脳陣の胸中を、こう代弁する。
経営資源を都心3店に集中投入し、地方の消費者には強化しているインターネット通販やオンラインによる接客を利用してもらうというわけだ。地方店については、経営体力に合わせたダウンサイジングを避けることができない状況だ。
旗艦店の接客、地方でも
東京から800キロ超離れている愛媛県で、異例の取り組みが行われている。松山三越(松山市)は昨年12月、新宿店や日本橋店などをオンラインでつないで接客する「デジタルサロン」というサービスを本格的に始めた。地元では扱っていない高級ブランド品を上顧客に販売する取り組みだ。
地方の消費者は東京への交通費を掛けずにブランド品を購入でき、都心店は新たな顧客や販路の確保につながる。双方にメリットがある。
松山三越はライバルの「いよてつ高島屋本店」(松山市)に売上高で大きく水を開けられており、以前から苦境に立たされている。もはや普通のことをやっていては将来的な店舗維持すら難しい。オンライン接客に活路を見いだし、起死回生の一手を狙う。
デジタルサロン拡大か
三越伊勢丹HDの杉江俊彦社長(当時)は2020年11月4日の日本経済新聞電子版で、「地方店は『ショールーム』やネット通販の拠点となる。店頭でモノが売れなくても収益を上げられる仕組みにしたい」と述べ、デジタルサロンを他店舗にも拡大する考えを示唆した。
同社はインターネット通販の強化に本腰を入れている。5、6年前と比較すると、取り扱っている品目が格段に増え、ハイブランドなども充実。店舗に出向かなくても買い物が楽しめるレベルに達しつつある。
ただ、ネット通販やオンライン接客を強化すればするほど、地方店不要論が再燃するのは必至。裏を返せば、こうした施策を加速度的に進めることにより、地方店の大再編に道筋をつけたいとの思惑すら透ける。
今から十数年前、伊勢丹と三越が統合した際、伊勢丹関係者の間では「三越を吸収したのは一等地にある銀座と日本橋の店舗が欲しかったからだ。それ以外はお荷物」などと言われていた。しかし、今となっては、伊勢丹の首都圏店舗も重たい荷物になるなど、笑えない状況になっている。
ボーナスカットなど小手先のコストカットでは通用しないほど、経営基盤が傷んでいる可能性がある。できる限り地方店は閉めたいというのが本音とみられる。ただ、地元経済界や行政との関係性から、すぐに店舗閉鎖することは困難。オンライン接客の展開を進めつつ、徐々に売り場を縮小するやり方が有力となりそうだ。
新宿、日本橋を再開発
今月に入ってから気になる報道があった。日本経済新聞(6月7日朝刊)の一部を引用する。
<三越伊勢丹ホールディングス(HD)の細谷敏幸社長は6日までに日本経済新聞の取材に応じ、基幹店の伊勢丹新宿本店(東京・新宿)と三越日本橋本店(同・中央)の再開発に着手する意向を表明した。いずれも店舗周辺で保有する不動産を含めた一体開発を視野に入れる。東京を代表する2つの商業施設を核とする街づくりが動き出す。
細谷社長は「10〜20年後の将来に向けキックオフする」と述べ、年内に若手社員も交えた検討プロジェクトを発足させる考えを示した。三越伊勢丹は双方の百貨店の周辺に複数の土地や建物を所有する。細谷社長は「単純に百貨店のリモデル(改装)で終わらせず、上手にエリアを街にしたい」と話した>
新宿と日本橋に資源を集中投入して改革を進めることは方向性として正しい。特に新宿は、コンセプト不明な売り場も少なくない上にレストラン街なども古さを感じるという指摘もあり、テコ入れは急務だ。
ただ、両店舗の近隣には街づくりが得意なライバル高島屋が店舗を構えている。先行する高島屋との違いを出せるのか。差別化が図られなければ、顧客はついてこない。消費者を惹き付ける知恵が問われる。
(文=編集部)