ビジネスジャーナル > 企業ニュース > リンガーハット、客離れの本質的原因
NEW

ライバル不在だったリンガーハット、客離れの本質的原因…「いきなり!ステーキ」の二の舞い?

文=二階堂銀河/A4studio
【この記事のキーワード】, ,
ライバル不在だったリンガーハット、客離れの本質的原因…「いきなり!ステーキ」の二の舞い?の画像1
リンガーハット1号店(「Wikipedia」より)

 全国に約700店舗を展開する長崎ちゃんぽん店「リンガーハット」。2021年2月期の決算では、売上高が前期比28.0%減となり87億円もの赤字を出してしまった。この赤字幅は1962年の創業以来、最大だという。リンガーハットは昨年度、既存店128店舗を閉めるなどして26億円もの特別損失を計上。それがこのたびの業績悪化につながった。

 しかし、もともとリンガーハットは、チェーン展開が難しいといわれる料理「長崎ちゃんぽん」を中心に展開し、ライバル不在という環境を追い風に躍進した企業でもある。不調の原因は果たしてコロナ禍での顧客減だけなのだろうか。フードアナリスト・重盛高雄氏に解説してもらった。

業績不調の原因は消費者とのコミュニケーション不足?

 リンガーハットが創業以来の大赤字を出してしまったのは、コロナ禍による影響といえるのだろうか。

「リンガーハットが業績を落とし始めたのは、実はコロナ禍より前からなんです。2019年から客数も客単価も落ちています。その最大の要因は、リンガーハットの商品的価値と、消費者が求める価値にズレが生じていることでしょう。今の消費者は、飲食店で飲み食いする以外に、体験にお金を使う“コト消費”を求めているんです。

 リンガーハットは、その“コト消費”の動機付けにつながる売り出し方ができていません。例えば、リンガーハットのホームページを見ると、“ちゃんぽんを売っている”ということはわかるものの、消費者が求める“それを食べてどういうふうにおいしいのか”“どういうふうに楽しいのか”が描かれていません」(重盛氏)

 では、その“コト消費”の具体例には、どのようなものがあるのだろうか。

「すかいらーくグループのカフェレストラン『ガスト』では、同グループの中華レストラン『バーミヤン』、から揚げ専門店『から好し』の3ブランドのメニューがテイクアウトできるデリバリー店を出店しました。そして、ただ単にメニューの種類が豊富なだけではなく、各ブランドのコラボメニューも楽しめます。そうした新しい試みは消費者にとって“コト消費”となっているといえるでしょう。

 さらにリンガーハットは消費者とコミュニケーションを取る努力を怠っている傾向にあります。料理にこれをかけて食べたらおいしいとか、これとこれを組み合わせたらおいしいといった情報がホームページに一切書いてないんです。かといって、ちゃんぽんとしての出来も、初めて食べた原体験を上書きする味の向上があるとはいいがたい。数年ぶりに訪れて改めて感動を覚える方は少なく、むしろ失望する方のほうが多いんじゃないでしょうか」

 改良や成長がなければ、消費者が徐々に離れていってもおかしくないだろう。

今後の課題…テイクアウト需要へのプラスαの価値提供

 また、リンガーハットはコロナ禍で増えたテイクアウト需要にもあまり応えられておらず、伸び悩んでいると重盛氏は言う。そこでも、リンガーハットと消費者の間にある大きな意識の違いが原因となっているようだ。

リンガーハットのテイクアウト用容器は、値段が30円(めん類)もします。しかし、電子レンジ対応容器ではないので、『レンジでチンする場合は移し替えてください』と注意書きがあるんです。消費者の立場からすると、無料容器だったらまだしも、30円もする容器であれば電子レンジ対応であってほしいと思いますよね。先ほどの“コト消費”の話とつながりますが、消費者が家に持って帰ってどういうシーンで食べるのか、どういうふうにして食べるのかというイメージができていないんです。

 リンガーハットは客数増加を課題に挙げた月例会を開催しているようですが、いつまで経っても具体的な課題と改善策が見えない。ここがダメだから次はこうしよう、という試みを重ねていくPDCAサイクルがほとんど回っていない状態なんです」(重盛氏)

 その理由はどういった部分にあるのだろうか。

「現最高顧問や現名誉会長として経営にかかわっている創業家の影響力は大きいでしょう。会長が決めたことは社長も従わざるを得ないですし、社長が指示を出せば下はそれを聞かなければいけない。会長の意思決定には誰も逆らえません。一代で築き上げた会社特有の融通が効かない部分は根強くあるのでしょうが、このまま業績悪化が進めば『いきなり!ステーキ』のようにM&Aを余儀なくされてしまう可能性もゼロではないです。

 そのためにも、やはり消費者に対するメッセージ性を明確にすべきでしょう。コロナ禍でもイートインしたいお店、もしくはテイクアウトで選ばれるお店になるにはどうしたらいいのか。それはPDCAサイクルをしっかり回していかないと見えてきません」(重盛氏)

 さらに今後のカギとなるアドバイスを聞いた。

「今後もイートイン需要が爆発的に増えるとは見込めないので、テイクアウトにどこまで“コト消費”としての価値を見いだせるかがカギになるでしょう。“持って帰って食べる”という行為に、プラスアルファの価値をどう乗せていくか――例えば、店内で食べるメニューへの再現性をより高めたり、より楽しい体験ができたりするような商材の組み合わせ。今は外に出かけにくいご時世ですが、自宅で家族とともに食事する時間も貴重な体験の場ですよね。単にモノを食べるのではなくて、そうした体験をどのようにレベルアップしていくかを考えなければいけません。

 消費者の想いに応えられる商品を届けることができれば、食の豊かさは上がっていくのではないでしょうか。単に“コロナだからイートインが増えない、だからテイクアウトにシフトする”といった論点だけで舵を切っていくと、今後もリンガーハットの経営は難航するでしょう」(重盛氏)

 今日の外食チェーンの役割は、モノ消費だけにとどまらないようだ。リンガーハットにも、消費者の胸を躍らせる“コト消費”の研究と提供が急がれる。

(文=二階堂銀河/A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

ライバル不在だったリンガーハット、客離れの本質的原因…「いきなり!ステーキ」の二の舞い?のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!