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ミネベアミツミ、“隠れたエクセレント企業”の経営研究…世界経済の最先端「半導体」「脱炭素」で稼ぐ

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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「ミネベアミツミ HP」より

 小型ベアリング大手のミネベアミツミが大胆に事業構造を転換しようとしている。同社が重視している事業戦略は、これまでに蓄積してきたモノづくりの力を活かして、半導体と脱炭素という世界経済の先端分野の2つから、より多くの収益を得ることだろう。

 近年、世界経済全体で半導体の需給はひっ迫している。その状況は2023年頃まで続く可能性がある。それに加えて、脱炭素に関する主要国の政府や企業の取り組みも強化されていくだろう。ミネベアミツミの事業戦略は、そうした世界経済の環境の変化を念頭に置いたものだ。

 今後の展開として、ミネベアミツミは買収戦略による先端技術の取り込みと、その強化を重視している。それに加えて注目したいのが、同社の研究開発体制の強化だ。それは、ミネベアミツミがさらなるイノベーションを発揮し、中長期的な成長を目指すために一段と重要性を増すだろう。

これからの半導体事業の強化の狙い

 旧ミネベアは極小ベアリング(軸受)の生産技術を磨いて成長し、ミニチュアボールベアリング(外径22mm以下)では世界60%のトップシェアを誇る。それに加えて、同社はモータなど電子機器分野にも進出し、回転技術の応用を目指してきた。同社のセグメント情報を見ると、2000年3月期の時点で、電子機器事業の売り上げはベアリングなどを生産する機械加工品事業を上回った。かなり早い段階から旧ミネベアはベアリングという回転に関する技術をモータなど他の機器と結合させることによって成長を目指してきたといえる。

 2016年、旧ミネベアは買収戦略をより重視することによってさらなる成長を目指し始めた。旧ミネベアが重視したのが、アナログ半導体などの製造技術の取り込みだった。そのために、旧ミネベアはミツミ電機との経営統合を行い、ミネベアミツミとして事業を運営し始めた。それに加えて、足許でミネベアミツミはオムロンから半導体工場を買収するなど、買収による半導体事業の成長を重視していると考えられる。

 ミツミ電機の半導体受託製造事業の概要を確認すると、ミネベアミツミが目指している半導体事業の戦略の大枠を捉えることができる。ミツミ電機によると、同社のファウンドリー事業は回路線幅0.35μm~2.0μm(μmはマイクロメートル、0.001 ミリメートル)であり、汎用型の生産ラインに分類される。主な用途は車載や家電などだ。また、ミツミ電機は電圧の調整などに使われるパワーインダクタなどの電源関連装置やセンサ、通信機器の生産も行う。つまり、ミネベアミツミは汎用型のアナログ半導体などを用いて世界経済のデジタル化に対応しようとしている。

 その代表的な取り組みが照明事業だ。同社は、スマートフォンなどIT機器のディスプレイに欠かせないバックライト技術、Bluetoothなどの無線技術など社内の技術を結合し、新しい事業として「SALIOT(サリオ、Smart Adjustable Lighting for the Internet Of Things)」ブランドの照明事業を運営している。見方を変えて考えると、ミネベアミツミは買収戦略を通して半導体など新しい要素を自社に取り込み、イノベーションの発揮を目指している。

脱炭素という成長機会の到来

 半導体に加えてミネベアミツミは脱炭素も重視していると考えられる。一つの見方として、ミネベアミツミは半導体などの生産能力を強化してIoT関連の部品や製品を創造し、それをより効率的なエネルギーの利用や、社会インフラの管理などに用いようとしている。

 社会インフラ市場への進出に関して、2020年2月、ミネベアミツミは他社と連携してIoT街路灯の実証実験に着手した。また、同年10月に同社は京都大学とともに無線給電技術を用いたインフラ点検の実証実験を行った。無線給電技術は自動車の電動化や、再生可能エネルギーを用いて得られた電力の活用などを目指すために重要性が高まるだろう。それを用いてセンサに電力を送り、トンネル内の設備点検を行うことは、社会インフラの保守点検に係るエネルギーの節約や、インフラの持続性向上につながるだろう。同社が得意とするベアリング技術も、風力発電などの普及によって需要を獲得する可能性がある。

 そうした取り組みは、わが国がカーボンニュートラルを目指すために重要だ。2030年までにわが国は温室効果ガス排出量を46%削減し、2050年のカーボンニュートラルを目指している。日本企業にとって重要なことは、目先のコスト増加の可能性に対応しつつ、長期の目線で2050年のカーボンニュートラル実現がもたらすと考えられる収益獲得機会を手に入れることだ。

 ミネベアミツミが進めるIoT技術の開発は、目先、日本企業などが脱炭素に取り組むサポート要因となる可能性がある。長めの目線で考えると、電力管理などのアナログ半導体と円滑な回転を支える技術、各種センサ技術を組み合わせることによって、ミネベアミツミがより効率的な再生可能エネルギーの利用を支えるインフラシステムを開発する展開も想定される。このように考えると、同社に期待される取り組みは、既存の機械や装置などのエネルギー消費性能の向上を支える技術を開発しつつ、中長期的には無線給電やより効率性の高い風力発電システムなどを開発する体制を整えることだろう。

重要性増す研究開発体制の強化

 集合図をイメージしながら考えると、足許の世界経済では半導体需要の高まりと、脱炭素という2つのメガトレンドが進んでいる。2023年頃まで世界経済の半導体の不足は続く可能性がある。脱炭素に関しては、主要国の政府、企業による取り組みが一段と加速するとみられる。ミネベアミツミは買収戦略を実行することによってアナログ半導体の生産能力の強化やIoT関連技術の取り込みなどを進め、2つのメガトレンドへの事業エクスポージャーをできるだけ大きくしようとしているとの印象を持つ。理論的に考えると、その戦略は中長期的な同社の成長に資するだろう。

 今後、同社にとって重要性が増すと考えられることを一つ上げると、それは、研究開発体制の強化だろう。売上高に占める研究開発費の比率は業種によって異なる。例えば新薬開発にコストがかかる製薬業界の研究開発費対売上高比率は高い傾向にある。ミネベアミツミの研究開発費対売上高比率は2020年3月期が3.0%、2021年3月期が3.3%、今期予想は3.2%だ。中長期的な事業運営を考えた時、研究開発費がどう推移するかは、同社全体としてのイノベーション発揮に相応の影響を与える可能性がある。

 スピードアップする世界経済の環境変化に対応しつつ成長を実現するために、買収戦略は必要だ。ただし、足許、世界的に株価が高値圏で推移しているため、買収のコストとリスクは軽視できない。

 買収戦略を進めつつ、同社が新しい発想の実現によってさらなる成長を目指すためには、組織を一つにまとめて、組織全体としてのモノづくりの文化に磨きをかけることが必要だ。研究開発体制の強化はその重要な取り組みに位置付けられ、それに関する費用の推移は経営陣が組織一丸としてのモノづくりに関するコミットメントの表れと解釈できる。

 言い換えれば、同社の経営陣に求められることは、買収のコストとリスクを抑えつつ、多様化する組織の利害を一つにまとめて、新しいモノを生み出そうとする経営風土を醸成することといえる。そうした取り組みが、世界的なシェアを持つベアリング事業に次ぐ新しい稼ぎ頭の育成につながり、事業ポートフォリオ全体での営業利益率の向上を支えるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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