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ホンダ、宇宙事業参入は、培った二輪車・自動車・航空機の高度技術の集大成だ

文=真壁昭夫
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ホンダのサイトより

 9月30日、本田技研工業(ホンダ)が新領域への取り組みを発表した。「Honda eVTOL(電動垂直離着陸機)」や「Hondaアバターロボット(分身ロボ)」の開発、それに加えて「宇宙領域への挑戦」だ。そのなかでも、まったく新しい分野である宇宙への挑戦に注目したい。

 ホンダにとって宇宙ビジネスは、これまでの念願だったろう。同社は、人々の生活を豊かにするために、二輪車から四輪車へ、そして、陸上から空(航空機)へと移動に関する技術に磨きをかけた。ホンダは、その技術を使って宇宙への移動や、宇宙空間での活動を可能にする新技術を実現したいと考えてきた。

 創業以来の歴史を振り返ると、ホンダは常に人々のよりよい生き方を実現するための技術を生み出して付加価値を得てきた。今後、ホンダは、既存事業の効率性をさらに高めなければならない。その上で、宇宙関連事業などに経営資源が再配分され、研究開発の強化と加速が目指されるだろう。そのために、経営陣のリーダーシップの重要性が高まっている。

ホンダの成長を支えてきた新しい“夢”

 ホンダが成長を実現した根底には、新しい分野への“夢”がある。ホンダは創業から今日まで、エンジンを新しいものに搭載して人々のより快適な生き方を実現し、得られた経営資源を成長期待の高い分野に再配分して長期の存続を目指してきた。1948年に創業したホンダは、旧陸軍が使用していた発電用のエンジンを自転車に搭載することによって二輪車の製造を開始した。そのヒットによってホンダは自社のエンジン製造に取り組み始めた。自社製エンジンを用いてホンダは農業用の耕運機やオートバイの開発に取り組んだ。

 1963年にホンダは二輪車に加えて四輪車(自動車)の生産に進出した。1964年にはF1のレースにも参戦した。オートバイの生産にも共通することだが、ホンダは常に世界最高峰のレースに参戦することによって自社のエンジンの耐久性、燃費性能などに磨きをかけようとしてきた。より良い技術への情熱を燃やし続ける経営・組織風土は、世界的な省エネ技術の開発を支えた。1972年にホンダはCVCCエンジンの発表によって米国の排出ガス規制であったマスキー法を世界で初めてクリアした。

 このようなホンダの成長の根底には、技術開発に情熱を注ぎこんだ本田宗一郎と、財務と販売面を中心に事業運営体制を構築した藤沢武夫の存在があった。技術、経営管理という企業の事業運営に欠かせない両分野でのリーダーシップ発揮が組織全体でのアニマルスピリットの発揮を支え、ホンダは成長した。

 ホンダは二輪や自動車事業が獲得した資金を、航空機分野に再配分した。1986年に米国にてホンダは航空機に関する研究開発に着手した。2015年に引き渡しが開始されて以来、「ホンダジェット」は小型ジェット機分野でヒットを実現している。

 二輪車から四輪車、さらには小型ジェット機へと、ホンダは自社が磨いてきた技術を新しい分野に応用することによって成長してきた。いずれにも共通するのは、技術を磨き新しい生き方をかなえる製品を生み出すというアニマルスピリットだ。

ホンダにとって宇宙ビジネスは念願

 ホンダにとって宇宙関連ビジネスへの取り組みは、これまで抱えてきた念願の実現に近づいたといえる。宇宙は、多くの企業家を魅了している。つまり、宇宙には夢がある。宇宙飛行を行ったアマゾン創業者のジェフ・ベゾスは宇宙体験のすばらしさを人々に届けたい。それに加えて同氏は、宇宙開発を行うことによって通信やエネルギー関連のイノベーションをめざし、地球環境の持続性の向上を目指そうとしている。そうした考えから、多くの企業家が宇宙関連のビジネスに取り組んでいる。そうした夢をホンダも追いかけたい。

 夢の追求に加えて、現在の世界経済では、宇宙関連事業の重要性が急速に高まっている。例えば、世界経済のデジタル化の加速によって衛星打ち上げのためのロケット需要が急速に増えている。9月にはKDDIが米国のスペースXと宇宙通信(人工衛星などを用いて地球全体の通信をカバーする通信技術)分野で提携した。通信に加えて衛星を用いた測位技術の向上、自動車の自動運転技術などのために衛星の打ち上げニーズ、衛星の性能向上の重要性も高まっている。中長期的には、高速移動のための航空機やロケット技術の活用、さらには宇宙旅行という新しいレジャー分野の開拓も期待される。

 ロケットなどの開発にはホンダが磨いてきた。二輪車、自動車、航空機などに関する技術、ノウハウなどが必要だ。ロケット関連の技術を強化するためには、さらに軽量、かつ耐久性の高い素材の開発も必要になるだろう。また、ホンダは、月面における循環型の再生エネルギーシステムの構築にも取り組んでいる。宇宙空間での作業を可能にするロボットなどの開発も今後強化される。

 ホンダが新しい、成長期待の高い分野で競争力をつけるためには、IT先端企業やロケット開発に取り組む企業など、異業種との連携をさらに、かなりのスピード感をもって強化しなければならない。新しい分野での取り組み強化のためには、組織のトップが、組織を構成する人々の気持ちを一つにまとめ、集中力を高めることが不可欠だ。

重要性高まるリーダーシップ

 今後の展開を考える一つの要素として、ホンダ経営陣のリーダーシップに注目したい。現在、世界の自動車業界は100年に一度といわれるような変革期を迎えている。具体的には、脱炭素などを背景とする自動車の電動化に加えて、ネット空間と自動車の接続、自動運転、シェアリングなどに関する取り組みが、IT先端企業などの異業種を巻き込んで加速している。特に、EVシフトはエンジンの省エネ技術などを磨いてきたホンダにとって逆風だ。

 加速化する環境変化に自主性をもって対応するために、ホンダは国内自動車メーカーではなく、小型自動車に関する製造技術などを必要とする米GMとの提携を選択した。GMとの協働のさらなる強化や他の企業との提携などによって、自動車など既存分野でホンダは事業運営の効率性向上を目指すだろう。それによって、ホンダは安定して収益が得られる体制を構築し、得られた資源を宇宙など最先端分野により積極的に再配分しなければならない。

 それはホンダが念願の宇宙関連ビジネスを強化し、いち早い収益化を実現するために不可欠な要素だ。ある意味、ホンダの経営陣は過去の成功体験にとらわれず、夢の実現に取り組もうとしているように見える。突き詰めていえば、宇宙事業への取り組みによってホンダは経営風土を変革し、組織全体が常に成長期待の高い新しい分野での取り組み強化を目指す体制を整備しようとしている。それは企業の成長に不可欠な要素だ。

 ただし、ときとして経営風土の変革は、組織を構成する人々の心理に不安や動揺をもたらす。組織内部で先行きへの不安心理が強まると、新規事業の取り組みは停滞する可能性が高まる。

 そうした展開を避けるために、ホンダ経営陣のリーダーシップが欠かせない。それは、事業環境の変化を機敏にとらえて組織全体として取り組むべき分野を明確に示すことと言い換えられる。組織全体が向かうべき方向が定まれば、個々人が新しい理論を習得したり、新しい発想の実現にチャレンジしたりする心理は強まる。それが、ホンダの成長を支えるだろう。

(文=真壁昭夫)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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