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好調なハンバーガー業態、新参2社の狙い…「わん」のオーイズミ、ロイホ運営会社

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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「BURGER&BEER COLOR」の商品ラインナップ(筆者撮影)

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 2年続くコロナ禍によって、「飲食の景色」は一変した。

 職場への通勤が減って在宅勤務が浸透した結果、同僚と連れ立ってのランチ外出や、仕事仲間や取引先との夜の会食が激減。緊急事態宣言中の営業時間の短縮、酒類の提供も制限された結果、外食業界では居酒屋を筆頭に苦境に陥ったのはご存じのとおりだ。

 そんななかでも好調の業態が「ハンバーガー店」だ。もともとテイクアウトに強かったこと、酒類提供をする店が少ないことが追い風となった。最大手の日本マクドナルドホールディングスが、2021年12月期の業績を「2期連続最高益の見通し」と発表したほどだ。

 今年、「ハンバーガー」に注目して新業態を出店した企業もある。今回は2社の事例を紹介し、2021年のトピックスとして考えたい。

ビジネス街で「カラフルなバーガー」を訴求

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「BURGER&BEER COLOR」の外観(筆者撮影)

 11月30日、東京・大手町に「バーガーアンドビールカラー」(BURGER&BEER COLOR)がオープンした。“インスタ映え”しそうな、見た目もカラフルなハンバーガーが特徴で、運営は「くいもの屋 わん」などを展開するオーイズミフーズ(本社:神奈川県厚木市)だ。

 高級グルメバーガーとして、価格帯は「COLOR’S クラシック」(979円/店内飲食の税込み、以下同)から「クレイジードッグ」(2310円)まで。後者はパテが2枚のほか、厚切りベーコン、グリル野菜、チェダーチーズ、ハーブマヨネーズ、オニオンブラックペッパーソースで構成される。パテの原材料は豪州産牛肉の肩ロースで、バンズには小松菜を練り込んだ緑色バンズ、竹炭を練り込んだ黒色バンズもある。

「グリルド ケイジャン&フランク」(1089円)や「チキンウイング」(Mサイズで1430円)など、ビールに合う一品料理も用意。テイクアウト限定のランチボックスもある。

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「クレイジードッグ」(手前)は圧倒的なボリューム感だ(筆者撮影)

 それにしても、原宿など若者が集まる場所ではなく、日本を代表するビジネス街・大手町で、お堅い企業が多そうな場所に出店したのはなぜだろう。

「ないものをないところ」に、「目立つこと」も考えた

「大手町を選んだのは意図的です。ハンバーガー業態としては後発も後発、『どうせなら目立つこともしよう』という思いもあって、ビジュアル系バーガーにしました」

 オーイズミフーズの大泉賢治社長は、こう説明しながら自社の現状を語る。

「当社は、『くいもの屋 わん』を中心に国内外で326店(2021年11月末現在)を展開しています。すべて直営店で、その約7割が居酒屋業態なのも特徴です。

 ここ7~8年はステーキハウス『ベンジャミン』や台湾料理『ダパイダン105(da pai dang 105)』など居酒屋以外の外食店も増やして成長しましたが、コロナ禍で売り上げが激減。265億円(2019年3月期)から89億円(20年3月期)と約3分の1になりました」

 そこで、新業態としてハンバーガーに注目した。商品開発は米国カリフォルニアで生まれ育ったシェフが担当。「後発も後発なので」発言の裏には、同社の信念もある。

「『ないものをないところに出す』がモットーです。実は大手町にはハンバーガー店が少なく、グルメバーガーに至ってはほとんどありません。ハンバーガー業態は競争激化のレッドオーシャンですが、競合のない地域ならブルーオーシャンも期待できる。コロナ以前から情報収集をして、進出のタイミングをうかがっていました」(大泉氏)

 自社としても「ないもの」だったので、成長次第では事業分野の拡充となりそうだ。

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オーイズミフーズの大泉賢治社長(筆者撮影)

「夜はスポーツバー」の二毛作で訴求

 大手町店の顧客対象は「近隣で働く人」だという。まだ在宅勤務中心の会社も多いが、「やがて通勤需要も回復する」との目論見もあった。都心からテナント撤退の動きが強まった時期だからこそ、コロナ以前では考えられない家賃相場で出店できたようだ。

 ちなみに、マクドナルドの日本1号店が東京・銀座に開業したのが1976年。それ以来45年たち、今や消費者の生活に欠かせないハンバーガーだが、「ランチのイメージが強く、ディナーでハンバーガーを食べる文化は根づいていません」(同)と指摘する。

 そこで昼は「ハンバーガーショップ」、夜は照明も変えて「スポーツバー」にする二毛作(昼と夜で業態を変える)を採用した。アルコール需要を取り込みたい思いがあり、酒類+飲食には居酒屋との親和性もある。スポーツバーの発案者は大泉社長自身だという。

「大手町は外国人も多く働くので、スポーツバーになじみ深い層にも利用していただきたい。店内にはテレビモニターを複数設置。観戦するスポーツのコンテンツも充実させます」(同)

 二毛作戦略も興味深いが、以前に別の取材でこんな話を聞いたことがある。

「スポーツバーの収益を安定させるには、外国人を常連客として増やしたい。総じて、試合放送前からアルコールをおかわりし、試合観戦中も飲食の注文が多いからです。一方、国民性の違いもあり、日本人客の多くは試合前に少し注文し、試合が始まるとおとなしく観戦する。客単価が全然違ってしまいます」(当時スポーツカフェを運営した店舗責任者)

 日本人客の楽しみ方も進化したが、夜は「明るく楽しむお客」の取り込みがカギだろう。

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出店場所(中央の木の左下)は高層ビルも多いビジネス街だ(筆者撮影)

「バターミルクフライドチキン」を、多様な立地で実験中

「近くにはオリーブオイルのフライドチキン店があります。ここはバターミルクフライドチキンなので、違いを楽しもうと思い来ました」

 取材日に出会った乳児連れのママはこう話し、タッチパネルで注文していた。

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吉祥寺駅前の繁華街には若い世代も目立つ。この奥に「ラッキーロッキーチキン吉祥寺」がある(筆者撮影)

 東京・吉祥寺駅から商店街をずっと歩くと見えてくるのが「ラッキーロッキーチキン」(Lucky Rocky Chicken)吉祥寺だ。運営するのはロイヤルフードサービス(本部:東京都世田谷区)。「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」などを展開する外食大手だ。

「2021年5月29日に東京・武蔵小山(品川区)に1号店を開業。オープン直後は連日ピーク時に行列ができました。その後、10月に2号店としてここ吉祥寺(武蔵野市)に出店。11月に新小岩(葛飾区)、12月7日に代々木八幡(渋谷区)に4号店がオープンしました。店を運営しながら東京の西側と東側、商店街と繁華街など客層の違いも学んでいます」

 こう話すのは石川敦氏(Lucky Rocky Chicken 展開準備室室長)。入社以来、「イルフォルノ」「シズラー」「ロイヤルガーデンカフェ」などグループ内の多様な飲食業態に携わってきた。業態開発の専門家が、なぜこの食材に注目したのか。

「2013年に仕事で訪れた米国サンフランシスコで、バターミルクフライドチキンサンドを食べました。そのおいしさが印象的で、新業態の開発時に同行者と思い出したのです」

 事業の可能性を、魅力度や採算性など各方面から洗い出し、ブラッシュアップさせた。

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さまざまな業態開発に携わってきた石川敦室長(筆者撮影)

低脂肪で高たんぱく、健康志向も意識

 バターミルクフライドチキンは、もともと米国南部の食文化で、コンフォートフード(懐かしい味・幸福感を与える食べ物)として親しまれているという。

「鶏の胸肉をバターミルクとヨーグルト、スパイスのソースに一晩漬け込み、12種類のスパイスとハーブを加えたオリジナルのスパイスミックス粉をつけて揚げています。鶏の胸肉は低脂肪で高たんぱく。健康志向も意識しています」(同)

 一番人気は「オリジナルバーガー」(単品で500円、ドリンクが選べるオリジナルセットは800円)で、女性客にはサラダの上にチキンがのった「バターミルクフライドチキンサラダ」(単品、セットとも上記と同価格)が好評だ。食事の総菜としても利用されている。

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人気商品の「バターミルクフライドチキンバーガーセット」(写真提供:ロイヤルホールディングス)
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女性にも人気「バターミルクフライドチキンサラダ」(写真提供:ロイヤルホールディングス)

 各店にはイートインの座席もあるが、テイクアウトやデリバリー中心で、大半の店では売上高の約9割(テイクアウト約75%+デリバリー同15%)を占める。吉祥寺は店内飲食が2割と少し高く、代々木八幡は座席数も24席に増やし、ビールの販売も行う。

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「Lucky Rocky Chicken」代々木八幡の外観(写真提供:ロイヤルホールディングス)
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代々木八幡ではイートインの座席数を増やした(写真提供:ロイヤルホールディングス)

 ロイヤルグループにとって、同業態で学んだことは何なのか。

「出店の簡素化とテイクアウト率の高さですね。持ち帰り中心なので出店にかける時間も短縮できますし、店内設備も圧倒的に少ない。チキンを揚げるフライヤーも、てんやと同じ機器を導入するなど、できる部分は共通化しています」(同)

 同グループにとって初の洋風ファストフード店で、持ち帰り・配達率を高めている。

「日常飲食」か「外食の楽しさ」か

 コロナ禍でも好調なハンバーガー業態に参入――といっても、各社の思いは違う。

 冒頭で記した「飲食の景色」を整理すると、外食が減って自宅で食べる内食が中心となり、持ち帰りや配達の中食も増えた。市場規模は(調査会社によるが)、これまで「外食25兆円、内食36兆円、中食10兆円」といわれてきた。今回の2社がめざすのは外食+中食だ。

「ハンバーガー」という商品にはカジュアルさがあり、テイクアウトやデリバリーで選ばれやすい。自宅での食事ならスポーツ観戦や映画視聴など「ながら飲食」にも向く。

 商品の価格帯については、日常飲食を狙うか、外食の楽しさを狙うかで分かれる。ラッキーロッキーチキンは前者、バーガーアンドビールカラーは後者の色合いが強い。

 両社ともデリバリーにも対応するが、特に大手町の高層オフィスはセキュリティーが厳しく、「配達しても注文相手が1階まで取りに来る」状況だと聞く。

 また、商店街への出店では、最近目立つ競合として「唐揚げ店」がある。唐揚げ店人気も取材したが、専門家は「鶏の唐揚げは、外食・中食のどちらでも対応できるオールラウンドな食材で、おやつでも利用される。味のバリエーションも豊富です」と話していた。

 コロナ直撃で、2社ともに売り上げを大きく落としたが、既存店の客足は徐々に戻り、社内のチャレンジ精神は旺盛だった。外食産業の持ち味のひとつは「変身力」だ。ハンバーガー業態に学びながら、時代に合わせて変身していくのだろう。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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