年末年始に向けて生乳が大量に余り、約5000トンが廃棄される見込みとの報道が大きな話題を呼んでいる。業界団体や金子農林原二郎水産大臣が、消費拡大などの対策に取り組む考えを示すと同時に、消費者にもっと牛乳を飲んでほしいと需要喚起を呼びかけた。
そんななか、2ちゃんねる創設者で実業家の西村ひろゆき氏が、バターにすれば長期保存ができるのに、業界団体がバター増産を阻んでいるとの指摘をして波紋が広がっている。ツイートは次の通りだ。
「生乳はバターにすると長期保存可能。国産バターの9割は北海道で製造。北海道の生乳は『ホクレン』がほぼ独占。ホクレンは、生乳をバター用にすると利益が減るので増やさない。 ホクレンは、生乳の価格を下げるより、捨てたほうが儲かるので、生乳価格も下げずに捨てる」
ネット上でも同様に、「なぜバターやチーズにしないのか」といった声は続出している。ここ数年、バターが品不足で値段が高止まりし、「1人1品まで」などと購入制限されている店もあるため、バターの生産量を増やすべきとの指摘が出ているようだ。
だが、ひろゆき氏のツイートを受けて、「ひろゆきさんの指摘は完全に間違い」「今はバターや生クリーム、チーズの在庫が積み上がっている状況で、バターにすればいいというのはおかしい」といった意見が続出。
そこで、名指しされたホクレンに見解を求めた。まず、ホクレンとはどのような組織なのか。
「当会は、北海道内のJAが出資し、JAの経済事業を担うことを目的として設立された組織(生産者、団体、農協連合会)です。生産現場を支え、実りを確実に消費地に届けることは、ホクレンの果たすべき責務であり存在意義でもあります。コーポレートメッセージは『つくる人を幸せに、食べる人を笑顔に』です。
ホクレンは北海道指定生乳生産者団体として、各JAを通じ北海道の酪農生産者より生乳の販売委託を受け、乳業者が製造する牛乳・乳製品の原料となる生乳を販売しております」
次に、なぜ生乳が余る事態になっているのか。
「生乳流通の仕組みについては、生乳生産者・乳業者が加盟する業界団体(一社)Jミルクが発行している資料(日本のミルクサプライチェーン2021)をご確認ください。
構内の酪農について、生乳生産量は減少傾向にありましたが、消費者の皆様に牛乳・乳製品を安定的にお届けするため、近年では生乳生産基盤の強化を関係者一丸となって取り組んでまいりました。この成果が出始めたタイミングで、コロナ禍による需要の減少(インバウンド・外食需要を中心に)が重なり、特に学校給食がなくなり、一般の需要も大きく低下する時期(直近では年末年始)に乳製品工場の処理能力を超えてしまう生乳の発生が懸念されております」
大量廃棄を回避するために、どのような取り組みをしているのか。また、長期保存が可能な乳製品等の増産等の措置はできないのか。
「現在、生産者・乳業者・関係機関が一体となって、さまざまな角度から上記の発生回避に向けた取り組みを進めております。ホクレンといたしましても、受託生乳の完全販売に向け、取引乳業者に対し乳製品工場のフル操業を要請するとともに、消費拡大に向けた取り組みを現在推進しております。
また、長期保存が可能な乳製品への生乳販売が増加し、結果として国内の乳製品在庫が大幅に積み増している状況にあります(『日本のミルクサプライチェーン2021』P14、直近の在庫数量は『農水省牛乳乳製品統計』参照)が、生乳生産基盤を毀損しないよう業界が一丸となって新たな需要確保に向けた取り組みを実施する方向性について現在議論を重ねているところであります」
つまり、生乳の増産体制を敷いていたところにコロナ禍での需要減が起き、生乳が余るようになった。しかも、乳製品の増産は工場をフル稼働するところまで行っているうえ、在庫も積み上がっている状況ということだ。
くしくも12月10日には「モデルプレス」が「ビジネス・教養系YouTuber影響力トレンドランキング」を発表し、ひろゆき氏は1位を獲得している。影響力が大きいだけに正確な情報発信が求められるところだが、最近は情報発信した直後に、専門家や知識人から間違いを指摘されることが相次いでいる。
ちなみに、ひろゆき氏は件のツイートのあと「常温保存牛乳は、UHT牛乳という名前で日本以外の国では普及してるんですけど、日本は消費者が好まないみたいですね」とも呟いている。「UHT牛乳」は超高温殺菌牛乳を意味し、未開封であれば常温でも長期保存が可能なことは確かだが、日本の市販牛乳の9割が、この殺菌方法である。
(文=編集部)