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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

犬吠埼観光ホテルで実感した“サービスの神髄”…長期滞在でも飽きない驚愕のおもてなし

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
犬吠埼観光ホテルで実感したサービスの神髄
「犬吠埼観光ホテル」公式サイトより

 先日、千葉県銚子市に所在する「犬吠埼観光ホテル」を訪れる機会があった。「楽天トラベル」など旅行サイトで顧客から高い評価を得ている宿泊施設である。確かに、海沿いという最高のロケーション、露天風呂、部屋、食事など、なんら申し分なかった。

 しかし、筆者が何より驚いたのは、「お客様のために自分たちができることは、なんでも喜んでやらせていただきます!」という姿勢が、ソフト・ハード両面において滲み出ていたことである。

 例えば、フリードリンクなど一般的なサービスはもちろんのこと、広いロビーはおびただしい数の雑誌、おもちゃ、無料貸し出しDVDソフトなどで溢れかえり、さらには無数のマッサージチェア(無料)まで用意されていた。これは1週間滞在しても飽きないだろうと感じた。

 建物自体はかなり年季が入っているが、ロビーや部屋など、モダンな感じにリフォームされており、部屋は茶の間、寝室それぞれに大きなテレビが1台ずつ、マッサージチェア、斬新な清浄機、ヨギボーのようなソファなどが設置されていた。当然、接客に関しても、ここまで徹しているホテルのおもてなしが悪いわけがない。

斬新な取り組みはどこから来るのか?

 お話しを伺うと、次期後継者の強い思いで、歴史あるホテルをソフト・ハード共にリニュアル中とのこと。ハードのリフォームは大きな投資が必要となるため、できることから少しずつ行っているらしい。

 企業の再生や地域の活性化などで、「若い人の斬新な発想で!」といった言葉をよく耳にするが、そもそも若いからといって必ずしも斬新な発想が出てくるわけではない。学生と接していると、若者は素直で経験がない分、形式的で保守的な側面も強く、こうした姿勢を打ち崩すことが自らの役割かもしれないと感じることすらある。

 また、仮に斬新な発想を持っている者がいるとしても、強く断行しようとする者は少ないはずだ。さらに、実際に斬新な発想を強く断行しようとする者がいても、これまでの慣習や伝統とは相反する場合が多く、受け入れる側、例えば先代経営者の度量や覚悟が求められる。

 犬吠埼観光ホテルのロビーに筆者は感動したが、「ごちゃごちゃしていて嫌だ」「高級感が損なわれている」と感じる客もいるだろう。昔からの常連客の賛否も分かれるように思われる。

 しかし、現代の成熟した社会においては似たような商品やサービスが溢れかえっており、しばしば差別化の重要性が指摘されるが、その第一歩は、やはり覚悟を持った斬新な取り組みということになるだろう。失敗すればやり直せばよいだけで、失敗から学べることに大きな意味・明日があるはずだ。

「できることは、なんでも喜んでやらせていただきます!」

 振り返れば、これまでさまざまな宿泊施設に滞在し、数少ない驚きを伴うほどの感動体験は結局、「施設全体として、できることはなんでも喜んでやらせていただきます!という姿勢に満ち溢れている」と感じた時だった。

 たとえば、一昨年、長距離運転の途中で滞在した「駿河健康ランド」はチェックイン15時、チェックアウト11時と一般的なパターンではあるが、チェックイン前の10時から併設の温泉施設を利用できた。この時点でサービス満点だが、さらに筆者が訪れた際は、部屋に空きがあるということで、10時チェックイン、翌日11時チェックアウトと、23時間滞在させていただいた。空室があっても、ここまでしてくれる施設は少ないはずだ。

 また、名古屋の大学に勤務していた際に毎年、ゼミ合宿で利用させていただいた「まるは食堂旅館」にも、会議室や機器の利用など、「ここまで無料で行ってもらい申し訳ない」といつも感謝していた。

 まるは食堂旅館は、新鮮な魚介類やエビフライが人気の宿泊施設兼飲食店であり、平日でも大変混雑している。昼間は多くの客がセットメニューを注文するが、興味深い点は、セットにもかかわらず、客の要望に徹底的に応えようとする姿勢だ。筆者はセットの“もずく”を“シャコ”に替えてもらったことさえある。コスト的に等価交換ではなく、間違っていると考える人もいるだろうが、そうした常識を超えたところに感動は生まれるのだろう。

 創業者である相川うめ氏は、「お客様が喜んでくれることをやればええ」との言葉を遺しているが、「実際、客からどんなに無茶を言われても、徹底的に応えようとしていたらしい」と、現在の代表からお話を伺ったことがある。

 もちろん、一時的には損をするかもしれないが、無理を聞いてもらった感謝の気持ちから、リピーター化や好意的な口コミの発信など、長期的に捉えれば大きな利益となり返ってくる場合も少なくはないだろう。

 この投稿も、“シャコ”への変更コスト以上の価値があるかもしれない。

(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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