マクドナルド、店舗外に溢れる行列が解消されない意外な理由…店舗訪問で考察
マクドナルドでは秋の風物詩である「月見バーガー」が9月7日に発売され、今年もファストフードチェーン各社が“月見商戦”で競っている。
その一方、急激な円安などを背景に多くの食品や原材料が値上げされ、外食各社が次々と値上げを発表するなか、日本マクドナルドは好調を維持している。8月の全店売上高は前年同月比4.4%増、既存店売上高は同3.3%増となった。昨年8月は新型コロナウイルス感染拡大のなかで全店売上高は同6.2%増、既存店売上高は同5.3%増であった。既存店客数だけが同4.4%減と苦戦した昨年であったが、今年は2.5%増に転じた。
政府による感染予防のための各種宣言が撤廃され、久しぶりに外食の自由を少し取り戻しつつある今年の夏休みシーズン。コロナ禍で苦戦を強いられてきたファミリーレストラン業態も順調に客足が戻っているなかで、マクドナルドは健闘している。非接触の仕組みをいち早く導入し、客やスタッフの感染予防に取り組み、パーティションに守られながら店内飲食を楽しむ環境をつくっており、店舗内では多くの客が楽しむ姿を見ることができる。
モバイルオーダー利用客があまり増えていない?
そんなマクドナルドであるが、なぜか注文する客の列が店の外まで伸びている店舗が少なくない。行列は客が来店を諦めるきっかけにもなり得る。某日15時のカフェタイム、筆者は東京・有楽町駅前の有楽町ビルヂング店を訪問したが、店外の通路に伸びる客の列はなかなか店内に収まらない。ディスプレイに次々と番号が表示されるが、頭にモバイルオーダーを示す「M」がついている番号は数えるほどしかなく、全体の3割くらいだろうか。この日は近くの東京国際フォーラムでイベントが開催されていたので、終演後の客が多くの店に流れたためこのような行列になったのであろうと推測される。
デリバリー強化と相まって受け取りカウンターの拡充を進める同社であるが、ディスプレイに表示される番号を見る限り、モバイルオーダーを利用する客があまり増えていないと筆者は感じている。飲食業を中心に人手が足りていないといわれるが、マクドナルドの店内では皆、忙しそうに動いている。テレワークの普及で出社しない働き方も増えてきているが、飲食業は基本的に対面商売だ。それゆえに、いくら注意を重ねてもコロナを防ぎ切ることは難しい。スタッフがコロナに罹患したり濃厚接触者となり休みを余儀なくされることも、人手不足の要因となる。
そのためか、テーブルデリバリーを実施している店舗でも、それが実施できなくなる店舗も出てきた。例えば有楽町の丸の内国際ビルヂング店では、閉店の約1時間前から店舗スペースを区切り清掃業務に取り掛かるため、モバイルオーダーの画面ではテーブルデリバリーのボタンが押せず休止となることが多い。テーブルデリバリーはワンフロアで家族連れが多く利用する店舗で行われるケースが多く、ベビーカーや小さな子どもを連れた客など、注文待ちで長い列に並ぶことが難しい客が想定されていた。追加注文の際は子どもたちと画面を見ながら商品を選び注文することができるのも便利だ。
モバイルオーダーの最大の強み
モバイルオーダーの機能が充実し使いやすさが進化する一方で、注文カウンターに並ぶ列は変わっていない。「ポイント付与」が問題と指摘する声も多い。ホームページによると、9月現在マクドナルドで採用されているポイントはdポイントと楽天ポイントの2つ。基本は200円の購入で1ポイントの付与となる。
店頭レジにおける支払い手段としては電子マネー、交通系電子マネー、クレジットカード、プリペイドカード、マックカード。モバイルオーダーでの支払い手段はモバイル決済とクレジットカードで、店頭レジでは使えないPaypayやd払い、Apple Payなどのモバイル決済が使えるのがモバイルオーダー最大の強みではないだろうか。
また7月15日から8月21日まで実施されていたJCBのキャッシュバックキャンペーンが記憶に新しい。最大20%相当のキャッシュバックを受け取る(上限1000円)ことができ、JCBのマークがある提携カードも対象となる。筆者はJCBマークのあるイオンカードをApple Payに登録し、キャンペーンに参加した。例えばマックランチで400円購入した場合80ポイント獲得となる。
モバイルオーダーの利用率向上策は?
行列の話に戻ると、マクドナルドは注文を受けてから調理を開始し、迅速に提供するシステム(メイドフォーユー)を持っている。ゆえに調理には時間がかかることは少ない。注文を受けてから調理、商品提供までのプロセスをよりスムーズにするには、受け取りカウンターが肝になってくると筆者は考えている。商品を確認してお渡しする、いってしまえばこれだけの役割だが重要度は高い。店内飲食は商品を客に確認してもらいお渡し。テイクアウトは商品を確認し、持ち帰りやすく袋詰めしてお渡し。デリバリーの場合は注文された商品、数量を確認し袋に入れて配達員にお渡し。注文する方法は複数あるが、受け取りカウンターにこそ人手は欠かせない。そして客が商品を早く受け取るためには、客と店舗の相互理解と協働作業も必要となる。
ある日、筆者は丸の内国際ビルヂング店で2時間ほど、店舗レジや受け取りカウンターの様子を観察してみた。現金やSuica、楽天Edyで支払いをする人が思いのほか多かった。一方でモバイルオーダーは2時間の間に15件ほど。受け渡しがスムーズになることは客数の改善や満足度向上に寄与するため、モバイルオーダーの利用率を上げることが重要となる。
たとえば、鉄道ではオフピークなど空いている時間帯に利用すると付加ポイントが加算される仕組みがある。マクドナルドに置き換えるなら、ランチなど混んでいる時間帯にモバイルオーダーを使うと(支払い手段に紐付いた)ポイントが加算される、または現在でもコーヒーなど一部商品で実施しているモバイルオーダー限定クーポンの配信を強化するなど、目に見えるメリットを出すことにより店舗の効率的な人員配置につなげて客と店舗の双方がハッピーになる施策が考えられるのではないか。
コロナ禍のなかでも無敵の強さを誇ったマクドナルド、そしてファストフード業態。各種宣言が撤廃され店内飲食が復活したことにより客の選択肢が格段に増え、一人勝ちは見込めなくなった。回転寿司業態では原材料の高騰により、10月から看板メニューの100円が維持できなくなり、価格改定を余儀なくされる会社も出てきている。価格が妥当で、かつ高い価値を持つ商品を産み出す企業しか勝てないという時代。各社の挑戦は続く。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)