「還暦を過ぎても365日肉を食べ続けてきた私の食生活が、温暖化や異常気象を含む地球規模の環境破壊につながっていることを知ってから、肉を休む日があってもよいのではと考えるようになりました。(中略)たまには、お肉を離れて100%植物由来のメニューでくつろいでみませんか?」
コメダホールディングス(HD)の臼井興胤社長は、こんなコメントを寄せた。喫茶店チェーンのコメダ珈琲店を展開するコメダHDは昨年7月15日、東京・銀座の歌舞伎座近くに「植物食」をうたったカフェをオープンした。店名は「KOMEDA is □」。□の中に「おいしい」や「健康」といった単語を客が自由に入れて楽しめるようにした。店名の正式な読み方は「コメダイズ(米・大豆)」。米や大豆など植物だけを食材に使うビーガン・カフェである。
メニューは米や大豆を使ったバーガーなどフード34種とパンケーキなどのデザート8品を提供している。コメダの代名詞であるモーニングサービスには、バターの替わりに豆乳クリームを塗ったトーストを出している。
ランチメニューの「べっぴんバーガー」は、肉のような味や食感を大豆で再現した大豆ミートのパテを使う。植物食は世界中で注目を集めているが、代替肉ブームを象徴するような店のコンセプトになっている。合言葉は「お肉を休む日を、つくろう」だ。
FC店へのパンやコーヒーの卸売りで稼ぐ
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、来店客が減った外食大手は店舗を閉鎖し、営業赤字に転落するところが相次いだ。なかには債務超過に陥ったところもある。苦況の外食業界で気を吐いている会社のひとつがコメダHDだ。東証一部に16年6月に上場した。
2021年2月期連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益は前期比12%減の276億円、営業利益は32%減の53億円、純利益は34%減の35億円を見込む。過去最高益だった前期(53億円の純利益)から一転、上場以来初めて最終減益となる。
それでも売上高営業利益率は19.2%と高い収益力を誇る。FC(フランチャイズチェーン)主体のビジネスモデルであることが高収益の理由だ。国内に全885店舗あるが直営店はわずか38店。FC店比率は95.7%に達する(20年8月末時点)。外食企業は直営店の比率が高いとされている。売り上げが減ると人件費や店の賃料などの負担が重くのしかかり、すぐに営業赤字に転落する。ところがコメダは直営店の比率が低いため、コロナ禍でも営業黒字を維持できているのだ。
1月13日、20年9~11月期連結決算を発表した。それによると純利益は前年同期比7%減の12億円。28%減益だった6~8月期から復調の兆しが見えた。ただ、政府が緊急事態宣言を再発出したことから慎重な姿勢を崩さず、21年2月期の通期の業績予想は据え置いた。対象地域では営業を原則午後8時までとする。
FC店が本部に支払う月々のロイヤルティーは席数×1500円だけだ。売り上げ全体の1割程度にしかならない。
では、本部は何で稼いでいるのか。FC店へのコーヒーやパンの卸売りがドル箱なのだ。これが売り上げ全体の7割を占める。コメダはコーヒーチェーンへの卸売会社なのである。FC向けに卸すコーヒーやパンの売上高(既存店ベース)は、20年4月の前年同期比47%減を底に、9月には1%増と7カ月ぶりのプラスに転じた。期間限定商品の牛カルビ肉を自社製のバンズでサンドした「コメ牛」が一時、欠品になるほどヒットしたことが大きかった。
FCへの卸売りは下半期(20年9月~21年2月期)にかけても約1~2割減と苦戦が続くが、それでも赤字にはならない。赤字には絶対にしない。
「プロ経営者」臼井氏
コメダが産声をあげたのは1968年。創業者・加藤太郎氏がつくった1軒の喫茶店から始まった。モーニングコーヒーという名古屋式の喫茶店文化を全国に広めるべくFC展開を開始した。
2008年、国内投資ファンドのアドバンテッジパートナーズの出資を受け入れ、傘下に入った。13年2月、アジア系投資ファンド・MBKパートナーズが買収。MBKは株式上場を目指し、持ち株会社のコメダHDを設立した。
13年7月、臼井興胤氏をコメダ社長にスカウトした。コメダのIPO(新規公開)に伴い、MBKの投資を効率的に回収する責任を負うことになる。1958年愛媛県生まれ。戦闘機パイロットを志して入学した防衛大学校を中退。その後、83年、一橋大学商学部を卒業し、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院(MBA・金融専攻)修了。
帰国後、セガ・エンタープライゼスの取締役やベンチャーキャピタルを経て、2006年、日本マクドナルドCOO(最高執行責任者)。07年、セガに再入社し、社長COOにまで昇り詰める。12年、セガ社長を退任、米グルーポン社東アジア統括副社長に就任。多彩な経歴をもつ「プロ経営者」としてコメダの社長に招請されたのである。
個店主義で大躍進
臼井氏は創業以来45年間変わっていなかったコメダ流にメスを入れることから始めた。現場主義が信条の彼は店舗を回った。そこで見たのは常連客の高齢化だった。若い客は極端に少なかった。
臼井氏が打ち出したのが、全店で一律で行うキャンペーンやフェアメニューの導入。マクドナルドでやってきた手法だ。コメダがこれまでやってこなかった仕掛けで若者を呼び込もうとした。しかし、待っていたのは加盟するフランチャイズ店のオーナーからの強い反発だった。「放っておいてくれ。お前に関係ない」とまで言われた。マクドナルドではあり得ない、独立精神の発露だった。
店舗巡りを続けるうちに、ある光景に出会う。お客が帰ろうとした時のことだ。店のスタッフ全員が「ありがとうございます」と手を振って見送っていたのだ。 臼井はそれぞれのオーナーが自分のやり方で勝負していることを直感したという。細かく本部が指示してすべてを決めることより、もっと大切なことがあるのだと気付かされた。
一般のFC店にみられるように本部に右に倣えするのではなく、それぞれの店が客の喜ぶことをやり、本部はそれを支えればいい。全国津々浦々、どの店でも同じサービスが受け入れられるシステムを構築し、経営の効率化を進めるのがFC経営の神髄である。コメダは、そんな一般的なチェーンとはまったく違う考え方で運営されている。「コメダ珈琲店」という看板を掲げていても、地域ごと、もっと細かく見れば店ごとにまったく違うサービスを提供しているのだ。
コメダは自分流の店を営むオーナーの集合体なのである。経営の自由度が高い個店主義が躍進の原動力となった。19年6月、最後の空白地だった青森県に出店、全国47都道府県制覇を果たした。「名古屋のモーニング」という喫茶店文化を全国区にしたいとした創業者の悲願を臼井社長が成し遂げた。
(文=編集部)