コーヒー店チェーン、コメダ珈琲店を運営するコメダ(名古屋市、臼井興胤社長)が2016年に上場を申請する方向で検討していることが明らかになった。大株主であるアジア系投資ファンドMBKパートナーズが持ち株会社コメダホールディングスを設立したことが、上場への準備とみられている。
MBKは05年、米投資会社カーライル・グループのアジア地区担当幹部6名によって設立された投資ファンド。日本、韓国、中国を営業のエリアにしており、日本ではTASAKI(旧・田崎真珠)や、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ、大阪市)の運営会社などへの投資実績がある。
MBKがコメダを買収したのは13年2月。筆頭株主だった国内投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(出資比率78%)やサッポロホールディングス(HD)傘下のポッカサッポロフード&ビバレッジ(同12%)と経営陣(同10%)から全株を取得した。買収総額は負債も含め430億円だった。MBKは上場により投資分を回収して売却益を得ることを狙う。
コメダ珈琲店は1968年、加藤太郎氏が名古屋市で個人経営の珈琲店として開店した。コメダという名前は実家が米屋だったことにちなむ。70年から郊外型のフルサービス純喫茶店として東海地方を中心にフランチャイズ(FC)展開。93年にFC本部の株式会社コメダを設立。08年には全国展開を目指してMBO(経営陣が参加する買収)を実施し、アドバンテッジやポッカサッポロの資本参加を得た。そして13年2月、MBKに転売された。
創業者はコメダ株式をアドバンテッジに売却し36億円のキャッシュを手にしたとされる。MBKへの株式売却によりアドバンテッジは257億円を得たと推定され、200億円以上の売却益を得た計算になる。サッポロHDはコメダ株式の譲渡益34億円を13年12月決算で特別利益として計上した。創業者と2次取得者のアドバンテッジやサッポロHDは、相応のリターンを得た。
臼井社長の多彩な経歴
では、3次取得者のMBKは、今回のコメダ上場によって投資分を回収できるのだろうか。取得額430億円を上回る金額で売却できなければ、投資は失敗となる。
コメダの業績は好調だ。14年2月期の売上高は前年同期比16.7%増の420億円。店舗数はコメダ珈琲店が593店、甘味喫茶おかげ庵が9店舗(14年11月末)。上場をにらみ、国内1000店体制の確立を急ぐ。
投資回収の責任を担うのが臼井社長だ。13年7月、MBKにスカウトされコメダ社長に就任したが、多彩な経歴の持ち主だ。戦闘機のパイロットを志して入学した防衛大学校を中退し、83年一橋大学商学部を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院(MBA)を修了した。帰国後、セガ・エンタープライゼスの取締役、ベンチャーキャピタルを経て、06年に日本マクドナルドCOO(最高執行責任者)に就いたが1年で辞め、07年にセガに再び入社。セガの社長に就任したが12年に退任し、米グルーポン東アジア統括副社長に転身した。そしてその手腕が評価されてコメダ社長に招かれたのである。
今年も上場ラッシュ
14年の新規株式公開(IPO)企業数は77社と、13年の54社から4割強増加した。15年は190社がリストアップされており、実際に上場するのは「100社超」(市場関係者)との強気の見方が出ている。100社を超えれば07年の121社以来8年ぶりの3ケタの大台乗せとなる。
15年に上場が見込まれる注目の大型案件は日本郵政。子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命と同時に、9月をメドに上場を目指している。09年に上場廃止になったUSJは、「ハリー・ポッター」をテーマにした新エリアが人気を集めており、12月の再上場に向けて準備を進めている。14年の上場が見送られたLINEの上場も取り沙汰されているが、流動的だ。
月別では12月に上場を希望している企業が80社あり、今年も12月に新興企業のIPOラッシュとなりそうだ。こうした流れは投資ファンドに追い風だ。上場予備軍である新興企業の第三者割当増資を引き受けている投資ファンドにとって、新規上場は投下した資金を回収する絶好の機会になる。
(文=編集部)