任天堂が1月28日に2014年度第3四半期(4-12月)の決算を発表した。営業利益が316億円と黒字を計上したのは、実に4年ぶりのことだという。しかし、同社の事業が実質的に改善したというわけではない。というのは、今期の損益改善は、13年度に据え置き型ゲーム機「Wii U」の在庫損を一括処理した恩恵によるところが大きいからである。
14年度(15年3月期)通期決算予想としては、営業利益を400億円程度の見込みから200億円へと下方修正したが、果たして通期での黒字達成は可能なのだろうか。
今回の決算発表を受けて、年末商戦での不調などと関連して任天堂ゲーム機個別製品の競争力分析が数多くなされているが、同社の不調は構造的なものであり、経営者が変わらない限り状況は変えられないと考えられる。また、経営者が変わったとしても、実は同社の構造的問題から状況改善が難しいといえる。
11年に任天堂が上場後初の赤字決算見通しを発表した際、筆者はブログ記事『任天堂 岩田聡社長 潮目の会見』(11年10月28日)で 「大きな時代の、終わりの始まり」「任天堂のような専用ゲーム機の時代は終わりはじめた、と思う。時代はスマートフォン(スマホ)でのゲーム提供となっていくだろう」と分析した。専用ゲーム機とスマホゲームの関係は、米ハーバードビジネススクール元教授クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』に載るべき典型的な事例なのだ。
任天堂は専用ゲーム機というセグメントの中で、ひたすら勝者になるべく、使い勝手や魅力的なゲームソフトの開発、見やすい画面などの改良に励んできた。つまり同書でいう「持続的イノベーション」(よりよい製品を既存市場にもたらす)だ。ここでの競合はソニーのプレイステーションや以前のセガのゲーム機などだった。
ところが、各社が既存市場で「持続的イノベーション」でしのぎを削っている間に、消費者をスマホ向けゲームに奪われていったのである。同書で、スマホ向けゲームは「ローエンド型破壊的イノベーション」とされる。任天堂の専用機ほどの使い勝手はないけれど、価格は安く手軽に使える。「持続的イノベーション」に励んでいるそのセグメントでの勝者、あるいは有力者は、「ローエンド型セグメント」には目をくれようともしない。実際、1月28日の会見で任天堂の岩田聡社長は、「スマートデバイスには物理的なボタンがない。『スーパーマリオ』などを楽しく遊べない」と語っている。
●組織全体に刷り込まれた「価値基準」
任天堂は、スマホゲームに参入できる、そして制覇できるすべての経営資源を有しているにもかかわらず、なぜ参入しないのか。