毎年冬の時期になると発売される、大手ハンバーガーチェーン店・マクドナルドの定番商品「グラコロ」(税込340円)。ふわふわとした蒸しバンズ(パン)とシャキシャキなキャベツの千切り、外はサクサクで中にはトロトロなクリームソースが詰まっているグラタンコロッケのバランスが絶妙な人気バーガーだ。
そんな「グラコロ」と同じくクリーミーなコロッケを食材に使ったハンバーガーを、名古屋発祥のカフェチェーン店であるコメダ珈琲店が販売していることをご存じだろうか。その名はズバリ「グラクロ」(税込580~610円、店舗により異なる)。“クロ”はコロッケのルーツであるフランス料理のクロケットを指しているのだそうだ。
「グラクロ」の最大の特徴は、ボリューム満点なフードメニューを提供するコメダ珈琲店らしい巨大さ。「グラコロ」とのサイズ差は大きな話題となり、ブログやSNSなどでは「グラコロ」と「グラクロ」を比較した写真やレビューが数多く投稿されている。
そこで気になるのは、マクドナルドの「グラコロ」よりもビッグサイズなコメダ珈琲店の「グラクロ」は、はたしてお得な商品といえるのか、大きさの違いにどのような意味があるのかということである。
税込340円の「グラコロ」に対して、「グラクロ」は税込580~610円のため250円前後の価格差がある。しかし、あくまで参考値だが、「グラコロ」と比べると「グラクロ」のバンズやコロッケの表面積は2倍弱の大きさがあるのだ。これらを踏まえて、フードアナリストで外食産業に詳しい重盛高雄氏に「グラコロ」と「グラクロ」の違いとその背景について話を聞いた。
サイズ差が生まれたポイントはメインターゲットの違い
今では冬の風物詩となっているマクドナルドの「グラコロ」だが、その初登場は1993年4月20日、つまり春の新商品だった。一方、コメダ珈琲店の「グラクロ」は2018年11月1日にデビューした。
片や四半世紀以上の歴史を誇る人気メニュー、片や今回で3年目の注目メニューだが、どちらも発売当初は消費者の支持は得られなかったのだという。
「マクドナルドから『グラコロ』が登場した1993年は80年代後半からのバブル経済が崩壊し、景気が急激に悪化していった時期にあたります。消費者のなかにより安い商品を求めるムードがあったため、当時『グラコロ』はあまり受けませんでした。ですが、95年の冬に再発売したときにあたたかいハンバーガーというコンセプトが気候とマッチし、今日まで続く冬季の定番商品になったのです。
コメダ珈琲店の『グラクロ』も、2018年の登場当時は『モーニングサービス』や『みそカツパン』といった、名古屋名物が味わえる定番メニューの陰に隠れていて、あまり話題になりませんでした。それが19年の12月に再登場したときには、『グラコロ』との大きさの違いがSNSなどで注目を浴び、一気に知名度を上げることとなったのです」(重盛氏)
多くの消費者が注目した「グラコロ」と「グラクロ」の大きさの違い。この差には、マクドナルドとコメダ珈琲店それぞれの主要客層の違いが関係していると重盛氏は話す。
「老若男女問わず多くの方に利用されているマクドナルドですが、メインターゲットはファミリー層です。お子さんですと食べ物が大きすぎると身構えてしまいますし、単純に食べづらいということもあるため、マクドナルドの商品は基本的にひとりで1個食べ切れる量になっています。ときには食べやすいように、あえて小さなサイズにリニューアルする商品もあるぐらいです。
一方で、コメダ珈琲店はある程度年齢が高い方、いわゆる大人層をメインターゲットとして意識しています。そのため、クオリティの高いパンを食材に使用したり、調理に十数分も時間をかけて出来立ての商品を提供したり、複数人でシェアして食べられるように切り分けた状態で商品を提供するサービスなどもあります。
コメダ珈琲店の『グラクロ』のほうが、値段に対してサイズが大きい商品になっています。単純な値段に対する量ということだけで考えると、『グラクロ』のほうがコスパはいいので、特に若い消費者にとってはお得に感じられるかもしれません。ですが、マクドナルドにしてもコメダ珈琲店にしても、各々の主要な客層に向けて最適な商品、お得に感じられる商品を提供しているので、一概にどちらがお得と言い切ることはできないでしょう」(重盛氏)
コメダ珈琲店のチャレンジ精神はまだまだ尽きない?
商品コンセプトは似通いながらも、メインターゲットの違いによって異なる特色を持った「グラコロ」と「グラクロ」。そもそもコメダ珈琲店はなぜ、冬の風物詩としてマクドナルドで定着していた「グラコロ」と正面から張り合うような商品を発売したのだろうか。
「『グラクロ』登場以前に、ほかのハンバーガーチェーンやカフェチェーンが、『グラコロ』と類似の商品を発売した例はありませんでした。そういった状況の中で『グラクロ』が誕生した理由は、コメダ珈琲店の代表取締役社長である臼井興胤(うすい・おきたね)氏が『グラコロ』に衝撃を受けたからだと言われています。臼井氏はかつて日本マクドナルドの最高執行責任者を務めていた経歴がある方なので、なおさらマクドナルドに負けられないと対抗意識を燃やしたと、ある店舗のスタッフがこそこそ話で教えてくれました。
結果的に、『グラクロ』が『グラコロ』と消費者の間で比較されて話題を呼んだことで、コメダ珈琲店にとっては定番メニュー以外にもさまざまな魅力的な商品が存在すると示す、いい機会になったのではないでしょうか」(重盛氏)
今回マクドナルドと類似の商品を発売し、注目を集めたコメダ珈琲店だが、今後両社のライバル関係はより深まっていくのだろうか。
「先ほどもお話ししたように、マクドナルドとコメダ珈琲店では主要なターゲット層が異なります。さらに、マクドナルドは最新技術による快適なサービスを提供する“未来型店舗体験”を志向し、コメダ珈琲店は温かみがあってくつろぎやすい“街のリビングルーム”を目指していると、店のコンセプトも全然違うのです。
しかしながら、同じ飲食チェーンということもあって、利用される方にとって居心地のいい店舗を作るという最終的な目標は共通しています。ですから、単純なライバル関係にはならなくても、コメダ珈琲店がマクドナルドを意識した、新しく面白い商品を生み出す可能性は、今後も充分にあると思いますよ」(重盛氏)
日本国内のハンバーガーチェーンにおいては、絶対的な地位を築いたといっても過言ではないマクドナルドと、その定番商品に勝負を挑んで消費者の注目を浴びたコメダ珈琲店。両社の関係のなかで今後どのような商品が誕生し、私たち消費者の舌を楽しませてくれるのか、期待したいところだ。
(文=佐久間翔大/A4studio)