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乗客を10時間閉じ込め…JR西日本、過去の教訓を活かせず失態を繰り返す本質的理由

文=編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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JR西日本のHPより

 全国的に広がる寒波の影響で24日夜以降、京都・大阪・兵庫などのJR西日本の各路線で電車の立ち往生が多発。乗客を約10時間も乗せたままにする例もあり、SNS上には乗客が投稿したJR西日本の対応への不満があふれている。25日には国土交通省がJR西日本に対し再発防止に必要な措置を講じるよう指導するなど、同社の対応が問われている。

 立ち往生が発生し始めたのは24日夜のことだった。降雪の影響で線路のポイントが切り替わらなくなるトラブルなどを受け、東海道線や山陽線、京都線、琵琶湖線で数時間にわたり電車が立ち往生する事例が多発し、体調を崩す乗客も相次いだ。

 この事態を受け、JR西日本の対応に疑問の声が広がっている。立ち往生の間、「動くめどは立っていない」という車内アナウンスが繰り返し流される一方で詳細な状況説明がなされず、降車することも許されずに不安を募らす乗客も少なくなかった模様。25日付京都新聞ウェブ版記事によれば、5時間も缶詰め状態になった車内で運行再開の見込みについて一向に説明はなされず、息苦しくなった乗客が乗員に降車を願い出たところ、「乗客全員の宿泊先予約が完了するまでは降車できない」と拒まれ、「ただいま降りていただく際には、恐れ入りますが自己責任でのご案内となります」という社内アナウンスが流されたケースもあったという。このほかにも、SNS上には

<『途中降車して隣駅まで線路を歩いて頂く申請をしましたが降車許可の指令が降りず、これに歯向かうと私達が罰せられてしまうため降車させることが出来ません』という絶望的なアナウンス>(原文ママ、以下同)

といった報告も多数みられる。

 今回の一連のJR西日本の対応は適切だったのか。また、自然災害による電車の立ち往生は過去にも繰り返されてきたが、なぜなくならないのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に解説してもらう。

沿線自治体との連携の重要性

 全国的に寒波に見舞われた1月24日(火)の晩、京都府のJR西日本東海道線(通称、琵琶湖線、JR京都線)山科駅と高槻駅との間では15cmほどの積雪が発生した。この結果、合わせて15本の列車が長時間、駅と駅の間で立ち往生し、乗客は最大で約10時間、車内に閉じ込められてしまう。JR西日本によれば、列車の車内で体調を崩した乗客が続出し、合わせて16人が救急搬送されたとのことだ。今回の立ち往生で長い間、車内で苦しい思いをされた皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。そして、筆者(鉄道ジャーナリスト・梅原淳)のような立場の者がこのようなトラブルを未然に防ぐべく、JR西日本をはじめとする鉄道会社各社に働きかけていかなければならないなか、まったく力が及ばなかった点につきまして深くおわび申し上げます。

 さて、このたびの大雪による立ち往生の一報を聞いて、「またか」という絶望的な気分を抱いたというのが筆者の率直な感想だ。雪による列車の立ち往生はこれまでもたびたび発生し、鉄道会社側は全面的に非を認め、監督機関である国土交通省は再発防止策を講じるように鉄道会社に指導してきた。にもかかわらず、過去の教訓がほぼ活かされないかたちでの再発であるから、人々が鉄道に対して厳しい目を向けるのは当然だ。日本の鉄道は世界のトップレベルにあると自他共に認識しているが、その看板を降ろさなくてはならない。

 今回、長時間の立ち往生が発生した原因は2点に集約される。一つ目は天候の悪化を読み違えていた点だ。具体的には8cmの積雪を予想していて、マニュアルでは10cm以上の積雪の予報で実施するポイントへの降雪対策を怠ったことである。実際には15cmの積雪に見舞われたため、京都駅で4カ所、向日町(むこうまち)駅で1カ所の計5カ所で転換不能に陥り、混乱を広げてしまった。

 JR西日本の近畿統括本部が25日夕方の記者会見で明らかにしたポイントの降雪対策とは、灯油によって点火された火で雪を溶かす融雪器の設置が主なものだ。率直にいって、かつて融雪用カンテラと呼ばれたこの装置に10cm以上の積雪を取り除く能力があるのかと筆者は驚いた。なぜなら国鉄時代から融雪用カンテラとはポイントの凍結防止が目的、つまりいま雪が積もっていない状態でポイントの作動部分を温めておき、これから降るであろう雪が付着しないように講じるものと認識されているはずのものだからである。旧国鉄の部内誌「国鉄線」1956年3月号(交通協力会発行)ページには次のようにあった。「この灯(筆者注、融雪用カンテラ)は強風だとほのおが線路からそれるおそれがあり、また降雪がひどいと効をなさなくなるので、東北、北海道地方等の多雪地帯には向かない」。仮にその後の技術革新で融雪用カンテラの効果が高まっていたとしても、そもそもポイントは積雪が1cmでも予想されれば、いや気温が氷点下に下がると予想されただけでも転換不能に陥るのではないだろうか。JR西日本のコスト削減策が極限まで達したのであれば誠に嘆かわしい。

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25日のJR西日本の記者会見で発表された「融雪器」

 もう一点は、立ち往生はやむを得なかったとしても、救助まであまりに時間を要した点だ。限られた人員、そして悪天候で足場の悪い線路への救出作業には想像を絶する苦労があることはわかる。だが、今回のJR西日本の対応は日本、そして全世界の鉄道でこれまで一度も車内の閉じ込めが起きたこともない、要は有史以来まったく発生の記録がない事象に臨む姿勢であったというほかない。他の鉄道会社で生じた立ち往生を他の世界、ことによると他の次元での出来事だと認識していたともいえそうだ。

 このたび5時間あまり車内に閉じ込められたある列車では「降車するなら自己責任でお願いします」との案内放送が行われたという。鉄道の運行を乗務員が放棄した行為といわざるを得ないものの、該当の乗務員にとっても酷な状況だといえる。JR西日本の社員は皆、車内に長時間放置された乗客の苦しみを一刻も早く緩和したいと考えていたに違いない。それも乗客に最も近い立場の乗務員であればなおさらだ。車内の環境が悪くなっていくなか、救助の目途はまったく立たず、かといって自分から避難誘導することも指令所からの命令で認められていない。自暴自棄とも受け取れる案内は乗客にとってさらなる苦痛を与えた点は猛省すべきとしても、同情の余地はある。

 それでは救出活動は、いかにすればもっと早く行えたのであろうか。鉄道会社には専門の救助隊の結成を義務付け、要所ごとに配置して立ち往生に備えれば解決する。だが、運賃をいまの何倍も値上げしなければとても実現できないほどの非現実的な案だ。ならば、日本の優秀な人的インフラである警察、消防、沿線の自治体の防災部門の担当者、場合によっては自衛隊を頼ればよい。大地震発生直後のように一斉に出動要請があったときは別として、列車の車内での閉じ込めで乗客の健康が損なわれているとあれば、出動してくれない理由を挙げるほうが困難だ。もっといえば、今回の立ち往生でも乗客が率先して救急車を呼んでもよかったともいえる。空腹に耐えかねれば出前や宅配サービスを呼んでもよい――。

 JR西日本に限らず、鉄道会社は縄張り意識が極めて強く、過去の立ち往生でも沿線自治体によるバス提供の申し出を拒んだ例すらある。だが、すでに鉄道会社の救助能力が足りない点はだれもが認める厳然とした事実だ。肝心な点は一刻も早い救助であって、それをだれが担当するかではない。

 近年、鉄道会社各社は沿線自治体との包括連携協定を結び、地域でのさまざまな課題を共同で解決すべく取り組みを始めた。沿線自治体にとって、いままさに立ち往生している列車はその地域最大の解決しなければならない出来事である。鉄道会社は自社の沿線すべての自治体と共同で、列車が立ち往生したときの対策を練っておかねばならない。模擬の訓練の実施はいうまでもなく、閉じ込められる乗客役には鉄道会社の社員や行政の担当者を充てるほか、一般の人たちを公募してもよいだろう。

 今回、極めて強い物言いとなったが、それだけ鉄道を見る目が厳しいという点をJR西日本はもちろん、全国すべての鉄道会社は自覚すべきだ。列車の立ち往生を瞬時に解決できる方策を何としても見いださなければならない。そして、あまりに長時間にわたる列車の立ち往生が全国的に姿を消したとき、日本の鉄道は真に世界に誇れる存在となるはずだ。

(文=編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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