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客の家から物を盗難…サカイ引越センター、トラブル続出の闇 激務で基本給5万円

文=A4studio
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サカイ引越センターのHPより

 昨年10月19日、埼玉県上尾市で引っ越し業界大手「サカイ引越センター」の大宮支社社員の男が逮捕されるという事件が起きた。逮捕容疑は、引っ越し見積もりのために訪れた50代会社員男性の家で28万円相当の腕時計1本を盗んだというものだった。

 サカイといえば引っ越し業界で8年連続売上高No.1を記録している最大手だが、不祥事はこれだけにとどまらない。2017年には北大阪支社の駐車場でアルバイトの男性が同社の社員を正座させてビンタをする、レンガを投げつけるといった暴力事件まで起きているのだ。

 そこで今回は、サカイ引越センター労働組合執行委員長の大森陸氏に、近年相次いでいるサカイの事件に構造的な問題点があるのかといった疑問をぶつけてみた。すると、引っ越し業界の闇深い実態が垣間見えてきた。

盗難トラブルは示談金で解決するケースが多い

 今回話題になった腕時計の盗難事件だが、こうした事例は表面化していないだけで業界的には多いのだろうか。

「いえ、かなり珍しい事例だと思いますね。今回犯行に及んだのは引っ越し当日の現場を担当するスタッフではなく、見積もりなどを行う営業担当です。私はサカイに勤める前にもいくつかの引っ越し会社に勤めて、かれこれ10年以上業界に携わっていますが、営業担当がお客様の持ち物を盗難したというのは聞いたことがありません。

 ですが、引っ越し現場のスタッフとお客様の間で近しい事例があったのは耳にしたことがあります。高層マンション内で低層階から高層階に引っ越しをしていたときに、高級なスキーグッズがなくなり、お客様から『どうしてくれるんだ!』とクレームがあったのです。スタッフ側は身に覚えがないと釈明したそうですが、結局は会社が示談金をお支払いして収めていました」(大森氏)

 こうした盗難が起きた際に補償があるのか気になるところだ。

「運営的な部分は私にもわからないので明確なことは申し上げられないのですが、サカイに限らず引っ越し業者のそういったトラブルは、私の見聞きした事例はすべて示談交渉で解決していました。例えば、10万円の価値があるとお客様が言う物が紛失した場合、物品価値の裏取りをしてから示談金を提示するという流れですね。ですから警察沙汰になるなどの表面化はしていないだけで、そういったトラブルがたびたび起こるのは事実です。

 ですが、こうした事例は引っ越し業者とお客様の意見の相違によって起きる場合がほとんどで、必ずしも引っ越し業者側に悪意や落ち度があったとも思いません。そのため、お客様の持ち物を意図的に盗んだ昨年10月の事件はかなり稀なケースでしょう」(同)

暴行・恫喝が横行する引っ越し業界の裏側

 また、引っ越しの現場では、スタッフ同士でよく盗難事件や紛失事件が起こるのだという。

「引っ越し現場のスタッフは配達車内に自分の財布などの入った私物を置いておくのですが、その荷物からお金をくすねるという事例は何件か聞いたことがあります。これはたいてい車内で待機している正社員のドライバーが、引っ越し作業中のスタッフの財布から盗むことが多いです。

 盗難事件が起きる背景には、引っ越し業界がマンパワー要員として費用が安くて済むアルバイトを雇いがちという部分も無関係ではないでしょう。というのも、引っ越し業界は激務のため人員の入れ替わりがかなり激しいのですが、多少経験を積んだ社員であれば、『このアルバイトはやめそうだな』と割とすぐ察知できるのです。そういった社員が現場のドライバーになっていた場合、『どうせ、もうコイツは来ないだろう』という気持ちが働き、犯罪行為を誘発しやすいのかもしれません」(同)

 こうした盗難が起きる遠因に、引っ越し業界全体が薄給だと指摘する声もある。実際のところ業界の給与事情はどうなっているのだろうか。

「こういった事件・トラブルとの直接的な因果関係は私では判断できませんが、確かに引っ越し業界の給料は安く、深刻な問題だと思います。サカイの社員は基本給プラス歩合によるインセンティブ形式で、基本給は経験に応じて月5万円から8万円です。そこに月にどれだけ売り上げを上げたかでインセンティブがつきます。だいたいインセンティブと合わせて月30万円稼げればかなりいいほうという感じ。その1カ月間、身を粉にして激務をこなしてようやく30万円に届くというぐらいの感覚なので、ほかの業界と比べると確かに給与は低いほうなのでしょう」(同)

 給料の安さが遠因となっていると考えられる業界の問題は、まだあるという。

「先ほどお話しした歩合制が絡んでくるのですが、現場の社員は早く運んでたくさん売り上げを上げればそれだけ給料が増えるので、その気持ちが先走って、作業が遅いアルバイトなどに対する暴行や恫喝が横行しているのです。私自身、トラックの荷台の中で殴られたことは1度や2度ではありません。

 これは私が業界で感じた肌感覚ではありますが、根性と体力が優れていれば性格や気質が荒っぽい人でも割とすぐ社員採用されやすく、そうした気質の人がやがてアルバイトを率いて指導する立場になるため、強烈な縦社会が形成されている印象があります。彼らは若いときにされた先輩からの暴行や恫喝に耐えて今の地位を得ている場合が多いので、現場でトラブルが起きても『そんなの当たり前だ』とまともに問題視してくれないのです。この悪循環が、暴行や恫喝が起きやすい業界の空気をつくっていると強く思います。

 実は17年に起きた暴行事件は、かつて社員として長年サカイで働き、その後出戻りでアルバイトになった人が起こしたそうですが、まさにこうした業界の体質が垣間見えた事例だと感じます」(同)

引っ越し業者利用時に気をつけたい心構え

 これらの不祥事が相次いだせいか、ネット上ではサカイに対して「運搬が雑でひどい」「作業中の態度が最低」「料金が高い」といった辛辣な声も挙がっている。

「そういった批難される内容は、業界内でサカイだけが顕著というわけではないと思います。料金に関しては、サカイは業界でも割と安いほうですし、運送や接客態度に関しては現場のスタッフによるとしかいえませんからね。ですが傾向として、売り上げのために1件の作業時間を短くしたい心理が働き、お客様とのコミュニケーションや運送が粗雑になるのはあり得ることでしょう」(同)

 では引っ越し業者を選ぶ際に、サカイは避けたほうがいいのだろうか。

「難しい質問ですね。確かにサカイがはらんでいる構造的問題は深刻ではありますが、今回お話しした事例はサカイに限った話ではなく、ほとんどの引っ越し業者に通底する問題点なのです。サカイは業界最大手のため事件やトラブルが起こると大きく取り上げられがちなので、『サカイが悪質でサカイ以外なら安心』と単純に切り分けられる話ではありません。

 これから引っ越し業者に依頼をすることを検討している方に伝えておきたいのは、自宅に招いた引っ越し業者が一致団結したチームではない可能性も充分ありえる、ということでしょうか。正社員のドライバーが数日前に初めて会ったほとんど素性のわからないアルバイトと共に、現場に来ているといったケースが当たり前にあるということです。お客様は引っ越し業者という1グループで捉えがちですが、あくまで複数の人間が家に来ていると考えておいたほうが、トラブルも未然に防ぎやすいかもしれませんね」(同)

(文=A4studio)

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A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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