1943年にスウェーデンで誕生し、世界最大の家具メーカーとして知られているIKEA。日本では2021年2月時点で法人向け業態を含めて12店舗を構えており、多くのファンを獲得している。
そんなIKEAの家具に関するSNS上でのある投稿が話題を集めた。投稿の内容は、引っ越しの見積もりをすると毎回IKEAの家具があるかどうか尋ねられる、というもの。IKEAの家具は再組み立てが難しく、業者によっては破損しても保障の対象外となってしまったり、見積もりの段階で断られてしまったりするという報告が相次いでいるのだ。
再組み立ての際に強度が落ちると言われていることから、一部では“IKEAの家具は壊れやすい”という風説も流布しているが、はたして本当にIKEAの家具は他の家具メーカーの商品と比較して壊れやすいのだろうか。
そこで今回は、ムガマエ株式会社代表取締役社長で経営コンサルタント、自身も15年近くIKEAの家具を使用している岩崎剛幸氏に話を聞いた。
引っ越しにおけるデメリットはメリットの裏返し?
デザイン性の高さや価格の低さが評価されているIKEAの家具だが、そもそもどういった点が他の家具メーカーにない魅力として支持されているのだろうか。
「IKEAの家具の最大の特徴は、北欧テイストながら黒や白などのシンプルな色合いの商品が多いので、戸建ての家やアパート、マンション、近年人気のコンクリート打ちっぱなしの部屋など、どんな部屋にでも合わせられることにあります。
今ではニトリなども行っている、間取りに合わせて家具のコーディネートを提案するという販売スタイルは、もとをたどるとIKEAが始めたことなんです。一度日本に進出しながらも撤退したIKEAは、2006年の再スタートにあたって日本の住まいを徹底的に調査し、店の中にIKEAの家具を配置した住宅のモデルパターンをつくり、日本の家にも合うのだと伝えたことで成功しました。
現在でもお客様に合わせた部屋提案は行っており、2020年にオープンした原宿と渋谷の都心型店舗では若者に焦点を絞り、電車で通学する学生の部屋など細かくモデルパターンを用意していますね」(岩崎氏)
一方、“IKEAの家具が引っ越しに不向き”だと言われているのは、昨日今日に始まった話ではないのだと岩崎氏は語る。
「“ニトリの家具と違ってIKEAの家具は一度分解したら再組み立てできない”というのはたびたび耳にしますね。実際、正しく分解・再組み立てをしなければ、穴が広がってネジが前と同じようにハマらなくなってしまう、強度が新品のときより落ちてしまうということは起き得ます。
ただし、それは再組み立て後の話であって、最初に組み立てたIKEAの家具が壊れやすいということではありません。また、あくまで再組み立てをするのが難しいというだけであって、絶対に再組み立てできないというわけでもありません」(岩崎氏)
また、引っ越しにおけるIKEA家具のデメリットの一部は、メリットの裏返しでもあるという。
「IKEAの大型家具は組み立て式になっているので、組み上がった状態の家具が運び込めないような搬入経路が狭い部屋でも、IKEAの大型家具であれば置くことができるという利点があります。
ただ、組み立てた後は当然ながらバラバラの状態よりも大きくなります。そのため、引っ越しなどで移動させるというときに、そのままでは部屋から持ち出せない、分解・再組み立てという工程を挟まなければ引っ越しができないという欠点に、初めて直面することになるわけです。
購入するときはそういった点を理解して家具を選んでいると思うのですが、使い始めるとメリットのことはどうしても忘れていってしまいます。ですから、引っ越しのときのIKEA家具のデメリットについて意見を言っている方々も、それが原因でIKEAの家具を買わなくなるほど深刻な問題としては捉えていないのではないでしょうか」(岩崎氏)
IKEAの家具はその特徴を理解することが大事
IKEAの家具は再組み立てが難しいものの、必ずしも引っ越しができないわけでもなければ、壊れやすいわけでもないことはわかった。しかしながら、再組み立てによって強度が落ちるリスクがあるのは、無視できないデメリットといっていいだろう。
だが、そんなIKEA家具が抱える欠点に目をつけたビジネスもあるのだという。
「一般的な引っ越し業者に敬遠されていることを逆手に取り、現在ではIKEA家具の分解・再組み立てをサービス内容に含めるパックを用意している引っ越し業者や、それを専門としている施工業者も出てきていますね。
また、自分で分解・再組み立てをするという場合でも、IKEAの店舗では無料でスペアパーツを配っているので、再組み立ての際にネジがダメになってしまっても、品番を調べてスペアを店でもらって付け直すことができます」(岩崎氏)
IKEA家具の分解・再組み立てを行うサービスとしては、職人引越センターの「イケア引越しパック」や、株式会社FAworksの「カグッコシ!」が代表的な例として挙げられる。
さらに岩崎氏は、IKEAの家具を使うにあたっては“組み立て式だから安い”ということを忘れないことが大事だと続ける。
「IKEAは“センスの良いものをできるだけ安く提供する”ことが基本理念なので、IKEAの商品は利用者に組み立ての工程を手伝ってもらうという考え方になっています。
利用者が組み立てることが前提なので、作り自体もシンプルさが意識されているだけでなく、説明書も絵が中心のわかりやすさを重視したものになっています。どうしても組み立てられないという場合でも、組み立てた状態で配送するサービスや、組み立て代行のサービスが有料で利用できますし、IKEA自体のサービスではありませんが、『ANYTIMES』というアプリから認定サポーターに組み立てを依頼することも可能です。
そのため、自分自身で組み立てや分解を行うにしても、IKEAや外部のサポートを受けるにしても、組み立て式であることの利点と欠点を理解する必要があると思いますね」(岩崎氏)
IKEAの家具は他メーカーの家具と比べたときのメリット・デメリットがはっきりしているようだが、品質自体に問題があるわけではないということか。いつの世であっても“物は使いよう”ということだろう。
(文=佐久間翔大/A4studio)